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悪魔でも腹は減る(β)  作者: monaka
◆彼女と元カノと集団行楽と痴漢の話
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第三十話:ウォータースライダーは死の香り。


「じゃあまずは有栖の希望通りウォータースライダーにでも行こうか」



 俺の言葉を皮切りに皆スライダーの列へと並ぶ。



 どうやら二人一組で滑っていく仕様らしいので並ぶ際に意図的に先頭をハニー、次を泡海にした。ちょっとしたサービスという名の口止め料である。



 泡海は待ちきれないのか順番がくるまでずっとそわそわしていた。



 ハニーは「えー、おとちゃんとじゃないの?」などと最初はむくれていたが、純粋にスライダーが楽しみだったらしく順番が来ると泡海の手を引いて一緒に滑って行った。



 うしろからハニーに思い切り抱き着いている泡海。滑っていった下の方から悲鳴とは違う妙な雄たけびが聞こえてきたが、まぁ、幸せそうで何よりである。



 あとの順番は特に意識していなかったのだが、咲耶ちゃんと白雪という珍しい組み合わせになった。



「おー白雪転校生よろしくなー。もう暑くてたまらん早く滑って下のプールにどぼんしようぜ」



 そのガサツ感がまたいいのである。この人の性癖がわかってしまった以上ここからどうなろうとか全くもって思っていないのだが咲耶ちゃんのファンであることには変わりないのだ。



「センセーと一度ちゃんと話シタカッタデス♪」



 今更その設定復活すんのかよ。もうずっと普通に喋ってただろうが。



 しかし咲耶ちゃんはそんな事気にもせず「ほれいくぞー」と突如白雪の背中を突き飛ばした。さすがの白雪も気が動転したらしく、「ひゅぉわー!」とか言いながら落ちていく。その後をすぐに咲耶ちゃんが少し助走をつけてから追いかけていく。



 あー。よく考えたら女子たちより先に滑って下に居ればおいしいハプニングのひとつもあったかもしれない。これだけの女子に囲まれてプールに来ているのだからいろいろ計画をたてておくべきだった。しかし昨日の俺はどんな無理難題を押し付けられるのかと気が気じゃなかったのでまぁ仕方ない。




「乙姫さん、一つ聞きたいんですけれど…」



 有栖が背後から俺の二の腕あたりを掴んで声をかけてきた。



「これって上半分がカバーも何もないですわよね?遠心力とかで外に放り出されたりしないものなんですの?」



 このスライダーは筒状の滑り台がくねりながら下のプールまで続いていて、その管の上半分は何もないのだ。滑っている時に完全に空が見えて、自分達の安全を守る装置は何もない。言われてみれば確かにちょっと怖い気もする。



「まぁこれだけの人数が滑ってるんだし力学的な計算に基づいて作ってるんだろうから大丈夫だろ」



「で、ですわよね。でも、ちょっと怖いので滑るとき掴んでいてもよろしいでしょうか?」



 可愛いところもあるもんである。それくらいならお安い御用だと答え、自分らも滑り台のスタート地点に着く。



 入口に座ると、下から既に水が結構な勢いで流れていて、手を放したらそのまま流されて下のプールまで一直線だろう。



「ほ、本当に大丈夫なんですわよね?信じていいんですわよね?」



 小刻みにがたがた震えた有栖が俺の後ろからガッチリ腕を回してくる。背中に柔らかい感触があってそれ自体はとても嬉しいのだが何せ全力でおれのウエストを絞りあげてくるので割と痛い。



「どうぞ御滑り下さい。いってらっしゃいませー♪」



 係りの人に背中を押され強制的に滑り出した。心の準備がまだできていなかったのか有栖が「ひっ、ひゃぁぁぁぁ!」と耳元で大声をあげて俺を絞り上げる手にさらに力がはいる。



 それどころか、パニックを起こした有栖が足をバタつかせ始めた。



「お、おい、危ないからじっとしてろ!」



「空が、青いお空が…っ」



 ダメだこいつ。完全にテンパってる。



 何を思ったのか、突如有栖が俺の体を足も使って羽交い絞めにした後、うつ伏せに回転した。



 何も自分を固定する物がない状況で空を見ながら滑っていくのがよほど怖かったのだろう。



 だからといってうつ伏せになるとか何考えてるんだ。次にどっち向きのカーブが来るとか今どの辺だとか、そういう状況が何も入ってこない。こっちのほうがよほどこえぇよ!



 有栖に文句を言いたくても、背後に有栖が覆いかぶさるような状態でうつ伏せになっているので俺は顔面が水の流れの中である。息が苦しい。なんとか少し顔をあげて息継ぎをしようとするが空気とともに水を吸い込んでしまいむせる。 そのまま激しい遠心力で体が予想もできない方向へと振り回されていく。



 死ぬ、死んでしまう。ウォータースライダーで溺れ死ぬとかいう人生の結末はごめんだ。



 なんとか俺も自分の体を捻り、うつ伏せ状態から脱することに成功するが、今度は有栖が俺の下敷きで水に顔をうずめてぐぼぐぼ言っている。



 これはまずい。なんとか有栖を仰向けにしないと。そのためには俺が有栖の上に仰向けになってるわけにはいかない。やむを得ず体を回転させ、肘と膝だけをスライダーの底面に付けた状態でバランスを取る。急なカーブは結構怖い。



 そしてなんとか有栖を仰向けに回転させるが、苦しかった事でさらにパニックを起こしたのか暴れて手足をバタバタ振り回してくる。



「おいこら、有栖!落ち着け!もうだいじょ…」



 有栖が正気に戻るのと同時に悲劇がおきた。



 仰向けになっている有栖の上に俺がうつ伏せに覆いかぶさった状態で、有栖が足をバタつかせたのである。その足は俺の当たってはいけない場所にクリーンヒットした。



 とてもじゃないが女子には理解できない痛み。体制を維持する事も不可能になり有栖の上にそのまま崩れ落ちる。



「ひっ、どさくさに紛れて抱き着きついてくるなんてっ」



「ぐっ、仕方ないんだ…俺の、股間が…」



「こかっ!?けっ、けだものぉぉぉぉ!」



 どこからそんな力が出てくるのだろう。したから思い切り有栖に突き上げられた俺は宙を舞った。



 これは死んだかな…?



 そう覚悟を決めた瞬間、頭からプールに着水した。


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