第二十七話:新たなミッション開幕。
俺達はぞろぞろとプールのエリアへ向かった。俺だけが男子更衣室行きなので少々寂しいが女子更衣室に入るわけにも行かないので仕方ない。
適当なロッカーに着ていた服を突っ込み、鍵をかけて、鍵についたゴムの輪的な物を腕に嵌める。
「男が着替えるところを見ても楽しくないのう。男女問わずやはり恥じらいが無いと…」
「それは同感だな。やっぱり恥じらいは大事だ」
ふと背後から聞こえてきた声に同意してしまったが…
「ほれ、第二作戦といくぞよ」
「うわっ、どこから湧いて出た!!」
慌てて振り向くと、俺の後ろ側のロッカーから水着姿の白雪が上半身をにょきっと生やしていた。
「ば、ばか!こんなとこですり抜けるなよ人が見てたらどうする!!」
時既に遅し。着替えているのは俺だけじゃないのだ。周りにいる男が何だ何だとこちらを見てくる。
「ぬかりは無いぞ?今のわらわはお主にしか見えておらぬ。今のお主は一人言を叫ぶヤバイ奴じゃ」
白雪の言葉が終わる前に俺はその場所から逃げ出した。周りの好奇の目は白雪ではなく俺に向かっていたのだ。勘弁してくれ。
「待つのじゃ、わらわを置いて行くな」
更衣室から抜け出して一息つくと遅れてふわふわ追いかけてきた白雪が「第二作戦始めるぞ。女子更衣室へいくのじゃ」と言ってきた。
「なんでお前のミッションは大抵エロ方面なんだよ。もう少し何かあるだろ」
「わらわもいろいろ考えてはみたんじゃがコレが一番お主の心を乱すのに適しておるのじゃ。それにわらわが面白い」
この悪魔め…
「それで?今度は俺に何をさせようって言うんだよそもそもどうやって侵入する?」
問題はそれだ。学校の一部活の更衣室なんて規模ではない。いつでも女性が沢山いて着替えをしている。俺なんかが紛れ込む余地は無い筈だ。
「そうじゃな、実はこんなものを用意してあるのじゃが…」
…眼を疑った。それで、どうにかしろと…?
やむを得ず俺はいろいろ考えた後、多目的トイレに飛び込んだ。
男子、女子トイレとは別に用意されている多目的トイレならどちらの性別の人間が出てこようと問題ない筈だ。
「本当にこんなのでバレないんだろうな…?」
「しらん。それはお主次第じゃな♪ほれ、少しだけ後ろ向いててやるから早くせい」
こいつはそういう奴だ。結局俺の精神が揺さぶられて感情エネルギーが発生さえすればそれでいいのだ。その後俺が失敗して白雪の力で危機を脱することになろうと、それはそれでまた違うミッションで回収をする。それだけの事である。
だがそれでは俺の負債はいつまでも減らない。多少は減っているのかそれすらも解らない。ただ黙々と失敗せずにミッションをこなすしかないという事だ。俺の人生ずっとこんな思いをしていくなんてやはり無理である。早く完済してこんな関係を終わらせなければならない。
「おお、意外といい感じじゃぞ。少し筋肉質じゃが…まぁ女に見えない事もないのう」
白雪が用意したロングのウィッグを被り、パッド入りの水着を装着する。その水着はオレンジ色で、白いフリルがついたビキニタイプだった。
「ちゃんとパッド入れてあるやつじゃし下もほれ、何かと目立つじゃろうからパレオとやらがついてるのにしたんじゃぞ?気が利いとるじゃろ?」
なんていうかまぁどうせやらなきゃならないならこのチョイスはありがたい。パッド無かったら本気でぺったんだし下の方なんて万が一にもパレオ無しだったり競泳タイプの水着だったりした日にゃアレがアレで大変なことになってしまう。しかしこいついつの間にこんなに水着に詳しくなったんだよ。うちにそれ系の漫画あったかな…。
「これなら…なんとかなる…かなぁ…。それにしてもあいつらに見つかったりしないかが心配だぜ」
他の面子に見つかったりしたらさすがにまずい。こういう内容じゃなきゃ協力も頼めるってのに…。これも含めて楽しんでるんだろうな白雪のやつは。
「大丈夫じゃ。先にプールに行ってたわっぱのところへ皆いっとるよ。わらわはお主を連れて後から行くと伝えてあるわ」
その辺は準備万端って事か。もういっそ女子更衣室侵入前にあいつらに見つかって止められた方がマシな気がしてきた。
「さて、そろそろ始めようかの」
「だから俺は女子更衣室に忍び込んで何すりゃいいんだよ」
どうやって女子更衣室に行くのかっていうのは解ったが、入れたとして俺は何をさせられるのだろう。うぅ…胃が痛い。
「ああ、それな。すまん考えてなかったのじゃ。忍び込むだけでも十分なエネルギーは確保できそうじゃが…それだけじゃ確かにつまらんのう。まぁ適当に考えてみるからまずは忍び込むのじゃ♪」




