第二十二話:甘酸っぱい思い出。
その噂は瞬く間に学内中に広まってしまった。
「どどど、どういう事ですの!?乙姫さんが、その、泡海先輩とお付き合いをしているというのは本当ですの!?」
「それはボクからも聞きたいんだよ。いったいどういう事なのかな…?朝の時点ではそういう感じに見えなかったんだよ…」
この二人はまだいい。騒ぐだけだし後できちんと説明すれば多分わかってもらえる。だが、俺が何を言っても他の連中は納得などしない。
その日から俺に対する嫌がらせが始まった。泡海(付き合うからには名前を呼び捨てにしろと人魚先輩に釘を刺された)への気遣いもあるのか表立って直接何かされるわけではないが、上履きに画鋲を仕込まれたりラブレターだと思って開けたら剃刀封筒だったり…。
遅れて学校にやってきた白雪はその状況を知るや否やケタケタ笑い転げた。
とにかく最低限の理解者は必要である。昼休みに有栖とハニーを屋上に呼び出し、事情を説明した。勿論重要な部分はとてもじゃないが言える様な内容ではないので、白雪の事や俺が何をしていたのかがバレてその口止め料として先輩に協力する事になった。何故か俺と付き合う事が先輩にとって好都合らしい。という感じだ。特に嘘はついていない。
実際問題何故泡海が俺と付き合うなんて言い出したかといえば、泡海は近しい友人からはもしかして同性愛者なのでは、という噂がたっていたらしい。そうじゃないと言っているし、特に困らないのだがもし今後の活動(コレクション行為)に支障が出ると困るというのが主な理由であり、もう一つの理由は、そのほうが何かとハニーに接触しやすくなるから。という物だった。
だから特別付き合っているからといって泡海とそういう関係になったわけでも何かできるわけでもないんだぜちくしょう。
ただ、時々彼氏彼女のフリ、のように振る舞い周りに周知させておくことが重要なのだそうだ。
「ま、まぁきっとそんな事だろうとは思っていましたけれどっ!泡海先輩がこんなしょ、乙女さんとお付き合いするなんておかしいと思ったんですの」
「うーん、あまり同意するのはおとちゃんにかわいそうだけど、そうなんだよね…」
何か訳有りでそういう状況になっているだけなのだとあっさり信じられてしまうのもそれはそれで切ない。
「あ、そうだ。一つ提案があるんだけど明日の日曜予定空いてるようだったらハニーにちょっと付き合ってもらいたいんだけど」
早めに泡海との約束を進めて借りを作っておきたい。
「え、おとちゃんからデートのお誘いなら予定あっても都合つけるんだよ」
「うーん、デートの誘いっていう内に入るんだろうか…実は泡海に誘われてて、一応フリみたいなデートだからさ、誰か誘ってきてほしいって言われてるんだよ」
って事にしておくのが一番いいだろうと踏んだのだが。
「そ、それならわたくしがついていってあげてもよろしくってよ!!」
予定外の方向からOKの返事が飛んできた。有栖とデートってのはなかなか面白そうなんだが…ハニーがきてくれないと困る。
「うーん、人魚先輩と一緒かぁ…でも御伽さんが一緒にいくならわざわざボクがついて行く必要は…」
「ハニーが必要なんだ!!お前がいてくれないと…」
焦りのせいか必死になってしまった。怪しまれただろうか…。
「そう?おとちゃんがそこまでボクを必要としてくれてるんだったら一緒に行こうかな♪」
少々妙な誤解を与えてしまったが結果オーライだったようでなによりである。
「それで、わたくしはどうなるんですの?」
あ、そうだった。
「どうせならみんなで遊んだ方が楽しいだろうし有栖も一緒に来てくれ。…どうせあと一名増えるだろうけどな」
「わらわの事かえ?」
急に頭上から声がしたので俺と有栖はビクっと身を震わせた。なんでハニーは無反応でいられるんだ。
「昼寝してたらお主らが居ないので少々探してしまったではないか。それで、どこで何をするのじゃ?」
「そういえばまだそれを聞いてませんでしたわね。仮にもデートという事ならどこか気の利いた場所を考えてありますの?」
それが問題だ。いろいろ考えてはみたんだがこれだけの人数がいるとなるとゲーセンやショッピングで済ますというのも落ち着かないだろうし…。
「結構な人数になるしやっぱり誰でも楽しめるところだったら遊園地とかはどうかな?海寄うみよりランドとかならチケットあるよ?」
海寄ランドは某夢の国などと比べてしまうと規模の小さい遊園地ではあるが学生が数人遊びに行く程度だしいいのではないだろうか。最近はいろいろとアトラクションも増えていると聞くし俺ももうしばらく行っていないので今どんな感じなのか気になる。
ふと最後に海寄ランドに行った時の事を思い出して甘酸っぱい気持ちになった。あの頃は何も知らないガキだったけどその分今よりも純粋で、手を引いてくれていたあの人に猛烈なアピールをしていた覚えがある。結局あちらはどんなつもりで俺とデートしてくれていたのかさっぱり解らないまま終わりを迎えてしまったが、あの時の気持ちは今でも微妙に燻ぶったままだ。
「いいぜ、でもチケットってもう一枚ないかな?できれば誘いたい人がもう一人いるんだけど」
「誰?」
「誰ですの?」
「誰かのう?」
「んで、あたしのとこに来た、と」