最終話:星月白雪の場合2。
名も無き悪魔の頭の中ははてなマークだらけになった。
目の前の人間が何を言っているのかさっぱり理解できない。
「勝手に呼んでおいてそりゃないであろ?なんならわらわ自らお主の喜ぶ事をしてやってもいいのじゃぞ?お主が嫌だというのであれば誰か他の宿主を探すまでじゃがのう」
「悪魔の誘惑とはね。そういう言葉は確かに悪魔らしい。人を誘惑して悪に貶めるサキュバスめ…自ら呼び出してしまった責任を取って俺が封印してやる。許せ!」
そうか。
白雪は気付く。
あの時悪魔を呼び出し、封印した人間にどことなく似ているのだ。乙姫という人間は。
勿論あの人間ほど人格者ではないし自らの欲望にもそれなりに正直だ。
が、いざと言う時に他人を優先してしまうそれは、いつかのあの男と重なるところがある。
だからなのかもしれない。
自分を長い間封印し閉じ込めたあの男は許せないが、嫌いではなかった。
自分にとってまったく理解できない感情で動く人間。
興味があったし、どういう行動原理なのか、思考回路がどうなっているのか知りたかった。
それを、時を越えていま乙姫が教えてくれているのだ。
あの手の人間はこの世に沢山いるのか?
いや、多分そうじゃない筈である。
自分にとって貴重なサンプルであり、宿主である乙姫を守りたかったのだろうか。
それでも少々理由が弱い気がする。
自分の生存が一番であろう筈なのに。
そして再度封印が解かれる。
無理矢理、どこの誰かもわからぬ男の手によって。
しかも白雪の意思とは無関係に命令を下せる妙な道具を使う下衆で下種な奴。
そして事もあろうにその男が命じたのは、目の前にいる者の排除。
その他二人は正直どうでもいいとさえ思えたが、乙姫だけはそうはいかない。
その時気付いてしまったのだ。
乙姫と過ごした時間は短い。だが自分にとっては今までの時間で一番楽しかったひと時なのだと。
そして、今後もそれを続けたい。失いたくない。
そんな悪魔らしからぬ事を考えてしまったのだ。
こんなもの最早悪魔と呼べるのかどうか解らない。
だが、自分勝手な理由で自分の為に行動し自分勝手に自分の望む未来を渇望し生きる存在ならむしろ悪魔と言って差し支えないのではないか。
そう結論付けた。
だから白雪は乙姫と共にある事を選んだ。
正直いうと最初の負債など、腕輪に封印されている間にほぼ完済している。
更に言えば契約が一度切れた時点で乙姫側には背負う物など消えていた。
白雪がただマイナスとして抱えるだけだったのだ。
だが、その時もう一人契約者が居たわけで、それもひっくるめて全部そのゲス野郎に肩代わりさせてやった。
悪いとは思わない。
自分の思い通りの世界を作り、その対価を支払った上に少しだけ上乗せしてやっただけである。
それが悪魔アンラマユの決めた事。
悪魔が悪魔らしく行動した結果宿主が干からびたのである。
善ではなく悪を選択した結果がこれなら本望である。
そして、悪魔アンラマユはすぐに名前を失った。
名無しの悪魔をすぐに拾ってくれたのが乙姫で、悪魔は再び心地よい名前で呼ばれる事になる。
星月白雪。
その名前が気に入った。
二度と手放したくはない。
だからこの先も人生を謳歌しよう。
乙姫と、その他もろもろの付属品共と一緒に楽しい日々を送ろう。
自分が自分の為にやりたい事をやる。
それが悪魔ってものじゃろうよ。
「じゃからこれからも沢山わらわを満たしておくれ。期待しておるからのう?」
「お断りだっつーの。まったく…その度に俺が酷い目に合うじゃねーか。腹が減ったら俺が料理作ってやるからそれで我慢しろっつの」
白雪が言ったのはいつもの乙姫からのエネルギーという意味での食事だけではない。いろんな楽しい事をして素敵な日々を過ごして『満ち足りた』生き方をしたいという事。
楽しみで、幸せで満たされたい。
それが白雪の望みだった。
「…まぁ、それはそれで面白そうじゃのう」
乙姫はその言葉に目を丸くする。
「冗談だったんだが…まぁそのうち何か作ってやるよ。てかさ、そもそも悪魔って普通の食事するのか?」
「あたりまえじゃろ?」
自然と白雪の顔に笑みが浮かぶ。
「…悪魔でも、腹は減るのじゃ」
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