十九 召 喚
魔導士部隊は聖地の中央へと歩みを進めた。
マリウス中尉が展開している防御障壁は〝絶対防御〟と呼ばれる帝国でも数人の魔導士しか扱えない高位魔法だった。
術者を中心としたドーム状の範囲に力の障壁(次元断層だとされている)をめぐらせ、一切の物理・魔法攻撃を遮断するという強力な魔法である。
かなりの高位魔導士でも、障壁魔法は対物理か対魔法か、いずれかしか展開できない。
もっとも障壁内から外へ向けての攻撃も一切遮断するので、一長一短ではあるが、こと防御に関しては無敵と言ってよい。
マリウスに言わせると、
「こっちから攻撃できたら反則でしょう。
そんな都合のいい魔法なんてある方がおかしいんです」
ということらしい。
ユニやオオカミたち、それにアスカや獣人たちも、この魔法にはなすすべがなかった。
ただ、相手からの攻撃がないということも明らかになったので、隠れている必要もなくなったのも事実である。
「あの魔導士、どうして自分たちが攻撃できないことや、魔法の張り直しに時間をかかることをばらしたのかしら?」
ユニの疑問にアスカが答える。
「多分、わざとこちらに聞こえるように話したのだろう」
「どうしてそんなことを?」
「こちらに邪魔をされたくないのだろう。
あの障壁はただ展開しているだけでも結構な魔力を消費するはずだ。
あれを打ち破ろうとこちらが攻撃を加えれば、それに抵抗するために余計に魔力を消耗するんだろう」
ユニは感心した。
「アスカ、意外だわ。あなたがこんなに魔法に詳しいなんて」
「その言い方は心外だな。
王国の仮想敵は百年以上も前から帝国なんだぞ。
奴らの最大戦力である魔導士とその操る魔法については、軍に入るとみっちり叩き込まれるんだ。
これくらい将校クラスなら常識だ。
帝国の連中だって、わが国の国家魔導士の名前と幻獣を暗記しているはずだぞ」
「そういうものなの……。
っていうか、アスカ!
あなたさっき魔法をまともに喰らってたけど、なんで無事なのよ?」
ユニは肝心のことを思い出した。
先ほどのアスカの無茶な突っ込みは、完全にユニの想定外だった。
ファイアボールが直撃した時は、もう駄目だと覚悟したくらいだった。
アスカは平然と答える。
「あれはまぁ、賭けだったんだがな。
前にミスリル合金の断熱効果のことを話しただろう。
最初の攻撃を盾で受け止めた時、盾を持つ手にはほとんど熱が伝わらなかったんだ。
それで〝いける〟と思ったんだが、実際あそこまで凄いとは思わなかったよ。
一応息は止めてたんだけど、スリットから入ってくる空気の熱も遮断してくれたのには驚いたな」
ユニたちが話している間に、バーグルも側に寄ってきた。
彼は魔導士たちが聖地に足を踏み入れたことが悔しいらしく、口のまわりの皮膚がめくれあがり、牙が剥き出しとなっていた。
「お気持ちはわかりますが、今のところ私たちには見ていることしかできません。
どうか、今までどおり村の人たちを抑えていてください。
オークの召喚は素人がいきなり挑戦して成功するほど簡単な技ではありませんから、安心してください」
ユニはそう言ったものの、根拠があったわけではない。
ただ、召喚士としての勘が彼女にそうささやくのだ。
帝国の魔導士たちは、聖地の中央で円陣を組んでいた。
その中央には三人の男たちが立っている。
マグス大佐の部下ではない。どこの部隊から連れてこられたかもわからない男たちで、彼女はその名前すら知らされていなかった。
「では召喚実験を始める。
服を脱いで跪け」
大佐の命令で、三人の男たちはローブを脱いだ。
裸体の上半身が露わとなり、彼らの背中に刻み込まれた魔法陣がユニたちからも見えた。
それは、ユニが倒したオーク召喚士の背中に刻まれた魔法陣と同一のものだった。
男たちは膝を地面につき、頭を垂れ、手を組んで祈りを捧げるような姿勢をとった。
マグス大佐は低い声で呪文を詠唱し始めた。
ユニたちが召還の儀式で唱える呪文は、中央大陸で一般に話される言葉に訳されたものだったが、マグス大佐が唱えているそれは恐らく神聖語なのだろう、意味がさっぱりわからなかった。
かなり長い神聖語呪文を、マグス大佐はよどみなく唱えている。
すべて頭に叩き込んでいるのだろう。
彼女のような才能ある魔導士には、さほど難しいことではないのかもしれない。
大佐の呪文が始まると、三人の男たちの身体に変化が現れた。
まず、背中の魔法陣が赤熱したように赤い光を発し、ぶすぶすと肉の焦げる音がして白い煙が上がった。
嫌な臭いが広がり、それは障壁魔法にも遮られずに周囲に漂った。
男たちの顔は苦痛にゆがみ、額には脂汗が浮かんでいた。
呪文が続くにつれ、その変化は一層激しくなっていった。
一人の男は鼻血を流していたが、やがて耳からも血が滴り落ち、目からも涙のように血が流れ出した。
そして、その男は無言のまま、突然ばたりと前に倒れ、そのままぴくりとも動かなくなった。
倒れた男が呼吸をしていないのは明らかだった。
しかし仲間が倒れても、残る男たちは微動だにしなかった。
マグス大佐も淡々と呪文の詠唱を続ける。
「……やっぱりね」
ユニがつぶやいた。
「ユニ殿、どういうことですか?」
バーグルが尋ねる。
聖地を汚される怒りは別にして、彼もこの成り行きに心を動かされていたのだ。
「この聖地のように特別な場所で、召還の魔法陣を刻んだ人間を憑代にオークを呼び出す。
言葉にすれば簡単だけど、実際は相当難しいのよ。
何より憑代にされる人間がその負荷に堪えられるのかどうかね。
この方法を編み出したのは、うちの国の狂信者なんだけど、成功させるまでかなりの犠牲者を出したらしいわ」
もちろん帝国の方でも、それは承知していた。
だからこそ魔導士という一般より適性があると思われる者を選んだのだし、失敗を見越して複数の憑代を用意したのだ。
しかし、やはりどこかで甘く見ていたのだろう。
二人目の男が、最初の犠牲者と同じように倒れると、さすがにマグス大佐の顔に焦りの色が浮かんできた。
残る最後の男は目を固く閉じ、襲いくる苦痛に必死に耐えている。
やがてその努力が報われる時がやってきた。
マグス大佐の唱える呪文が終わりを迎えたのだ。
憑代の男は耐え抜いた。
大佐の詠唱が終わり、彼がほっと溜息を洩らした時、その目の前の地面が青白く光り始めた。
それは、土が剥き出しになることで聖地に刻まれていた、魔法陣のような模様をはっきりと描き出した。
それが青白い炎のような光を放ち、だんだんと強くなっていく。
「おおおおおお!
ついにやったぞ、成功だ!」
マグス大佐が歓喜の声を上げる。
部下の魔導士たちも顔を見合わせて笑みを浮かべている。
光はますます強くなり、やがて中央に収束して一つの塊りとなった。
それはどんどん大きくなり、やがて巨大な人型になっていった。
光が強すぎてよくはわからないが、二メートル半はあろうかという背丈、盛り上がった筋肉、尋常ではない体格が見て取れた。
マグス大佐は成功を確信してほくそ笑んだ。
まずはこのオークに命令して、あの鎧女をなぶり殺しにしてやろう。
彼女はそう心に決めていたのだ。
光は徐々に弱まってきた。
それとともに、人型の様子もだんだんと鮮明になっていく。
逞しい足が地面を踏みしめ、両腕を広げ、頭を上に向けている。
――そして〝それ〟は吠えた。
「ウオオオオオォォォォォーーーーーーーン!」
ユニの傍らで見守っていたバーグルの身体がびくりと震えた。
そして彼はすぐさま顔を天に向け、朗々と遠吠えを響かせた。
呼びかけに応えたのだ。
周囲の茂みに隠れていた村の戦士たちも、次々と呼応して遠吠えを上げる。
ライガたちユニのオオカミもそれに唱和した。
たちまち周囲はオオカミの遠吠えで満たされ、空気がびりびりと震えるほどだった。
「なんだ、何が起こったのだ?」
慌てたのは帝国の魔導士たちだった。
その答えはすぐに明らかになった。
彼らが召喚した怪物が、完全にその姿を現したのだ。
獣人たちをはるかに凌ぐ巨体。
そしてその頭部は紛れもなくオオカミのそれであった。
「おおおおおお、神が、神が降臨なされた!
伝説は本当だったんだ!」
バーグルはその場に跪き、歓喜の涙を流していた。
隠れていた獣人たちも我を忘れて隠れていた茂みから姿を現し、その場でひれ伏している。
魔導士たちはパニックに陥ったが、そこから真っ先に立ち直ったのは、やはり指揮官であるマグス大佐だった。
「この際なんでもかまわん。
おい、この化け物に命令して奴らを皆殺しにさせろ!」
彼女は召喚主となった男に命令した。
同時にマリウスに命じて障壁魔法を解除させ、部下たちには炎魔法の準備を指示した。
しかし、憑代の男は青ざめた顔で大佐の方を振り返った。
「駄目です!
あれとは意思の疎通ができません!」
「なっ……なんだと?
そんな馬鹿なことがあるか、もう一度やってみよ!」
大佐の命令は実行されなかった。
召喚主の目の前に出現した巨大な獣人が振り返りざまに腕を一振りし、彼の頭を吹っ飛ばしたのだ。
どこか遠くの方で、男の頭部が地面に転がる鈍い音がした。
頭が千切れ飛んだ首から血をびゅうびゅうと間歇的に吹き出しながら、哀れな男はその場に倒れ伏した。
「召喚獣が主人を襲うだと?
そんなことが有り得るのか……」
マグス大佐は混乱しつつも素早く部下に命じる。
「とにかくあの化け物を止めろ!
私が許可する、ファイアボールを撃て!」
その命に応じて二人の部下が同時に魔法を放った。
至近距離からの攻撃はかわされる恐れがなかったが、爆発的な放熱で自分たちにも被害が及びかねない危険な選択だった。
巨大な獣人はたちまち炎の塊りに包まれたが、その化け物は倒れなかった。
「ぶるぶるぶるっ」
水に濡れた犬が身体を震わせて水滴を飛ばすのと同じような動きをすると、獣人を包む炎が霧散した。
「こいつ!
抵抗するのか?」
王国の召喚士、特に国家召喚士クラスが呼び出す高位の幻獣は、魔法に対する強い抵抗力を持つものが珍しくなかった。
代表的なのは龍族で、ほとんどの魔法が効かない。
帝国の魔導士が、戦力的には王国の国家召喚士に劣ると見做されている大きな原因だった。
巨大な獣人は、魔法を放った魔導士の一人に飛びかかると、その巨大な顎で喉元を食い破った。
ばきっという首の骨が砕ける音がして、魔導士は一瞬で絶命した。
獣人はすぐに振り返ると、魔法を放ったもう一人の魔導士の方を向いた。
「何をしている、狙われているぞ!
逃げるんだ!」
誰かがそう叫び、魔導士の背中をどんと突き飛ばした。
前へつんのめったその勢いのまま、魔導士は言葉にならない喚き声を発して駆け出した。
獣人はゆっくりとその姿を目で追い、次の瞬間、ほとんど身構えずに跳躍した。
およそ五メートルも飛んだだろうか、逃げる魔導士の眼前に降り立つと、その巨大な手で獲物の頭を鷲掴みにし、持ち上げる。
そのまま「ふんっ!」と気合を入れると、気味の悪い音を立てて魔導士の頭蓋骨が砕けた。
獣人の指の間から流れ出る黄白色の脳漿と血にまみれたぐずぐずの塊りから、ぶらんと目の玉がぶらさがって揺れている。
魔導士に起きた悲劇と同時に、男の声が響いた。
「俺の周りに集まれ!
もう一度障壁を張る、大佐も早く!」
声の主はマリウス中尉だった。
彼は大佐の命令で障壁を解いた瞬間から、再度呪文の詠唱を始めていた。
仲間が怪物に次々と殺されていく時間を最大限利用して準備を整えたのだ。
そして、狙われた魔導士をわざと逃げ出させて怪物との距離をとり、集まった仲間の周囲に障壁魔法を展開しようとしたのである。
マグス大佐をはじめ高位魔導士の集団である部隊は、瞬時に彼の意図を理解した。
すぐに大佐とマリウスを中心に小さな円陣をつくり、中尉が張った魔法の壁に自分たちの運命を託した。
巨大な獣人は次の獲物を求めて、ゆっくりと魔導士たちの方向へと戻ってきた。
「まさか障壁魔法まで無効化するとか言わないだろうな?」
マグス大佐はひきつった笑いを浮かべて言ったが、それに応える部下はいない。
誰も確信が持てないでいるのだ。
獣人は巨大な腕で見えない障壁を打ち破ろうと掴みかかるが、どうにかプロテクションの魔法はそれに堪えて怪物を押し返した。
魔導士たちにほっとした表情が浮かんだが、肝心の術者であるマリウスは険しい顔で脂汗を浮かべていた。
彼は横にいる指揮官に顔を寄せ、何事かをささやいた。
「隊長、まずいですよ。
こっちの魔力が持ちません。あと十分がいいところです」
「何とか踏ん張れんのか?」
マグス大佐も表情を変えずに小声で返す。
「粘っても五分延びるかどうか……。
ここは奴らと交渉するしかないでしょう」
「獣人どもと交渉だと?」
一瞬でマグス大佐の顔が紅潮したのを、マリウスは目配せしてどうにか落ち着かせる。
この女隊長の瞬間湯沸かし器みたいな性格はどうにかならないのだろうか? 彼は内心で大いに嘆いた。
実は「魔力がもたない」というのは嘘だった。
確かにマリウスの展開した防護障壁は最上級の強力なもので魔力消費量が大きく、召喚儀式が終わるまでずっと維持してきたため消耗していたのは事実だ。
しかし、マリウスの能力(魔力量)からすれば、あと三十分や一時間程度、平気で防壁を維持できたのある。
彼が大佐を「騙した」のは、彼女に交渉を選択させるためだった。
「まず、この召喚実験……明らかな失敗です。
さっき王国の召喚士が実験が失敗すると仄めかしていました。
その理由を探ってください。
ここが召還に適さない地であれば、われわれが拘泥する理由がなくなります。
――この化け物は、獣人たちと何らかの関係があるようです。
交渉を前提とすれば、奴らに化け物の動きを抑えさせることができるかもしれません。
時間がありません、お早く!」
マリウスの必死の説得にマグス大佐は冷静さを取り戻したようだった。
すかさず彼はたたみかける。
「今なら攻撃を完全に防いでいるわれらに弱みはありません。
魔力切れがばれたら、そこで終わりですよ!」
障壁の周りでは、巨大な獣人が何とかそれを破壊しようと、攻撃を繰り返しつつぐるぐると回っている。
マグス大佐は努めて冷静を装い、大声でユニに呼びかけた。
「王国の召喚士!
貴様、さっきオークの召喚は失敗する、ここでは不可能だと言ったな?
その根拠を言ってみろ。
私を納得させるだけの理由があるというのなら、これ以上この地に用はない。
場合によっては獣人どもと今後の不可侵を約束してやってもよいぞ!」
「あなたにそんな権限があるというの?」
ユニの返事は懐疑的だった。
「少なくとも獣人たちの扱いについては私に一任されている。
皆殺しにするか、生かして放っておくのかも、私の判断で決まる」
マグス大佐は慎重に言葉を継いだ。ここが勝負どころなのだ。
「とにかく、こちらは話し合いをしようと言っているのだ。
まずはこの獣人を何とかしろ。
この村の連中の仲間なのだろう?」
ユニはバーグルの方を見やった。
「村長、あの召喚された獣人と話はできますか?」
バーグルは驚いた顔をした。
「何ですと!
ユニ殿には神のお言葉が聞こえていなかったのですか?」
「え?
あなたたちには聞こえているの?
……ライガ、来て!」
ユニはオオカミを呼び寄せた。
呼びかけに応じてライガがすぐに姿を現す。
『どうした、ユニ?』
「あなた、あの獣人の声が聞こえた?」
『いや、何も聞こえんが……』
「だったら、あなたの方から獣人に呼びかけてみて」
「ああ、わかった」
ライガは巨大な獣人の側まで近づき、声をかける(もちろん、ユニと群れの仲間以外には聞こえない)。
「よお、兄弟。
俺の声が聞こえるか?」
獣人はいかにも興味深げにライガを見つめる。
『ほう、お前もこの世界のものではないというのか。
なかなかよい毛並みをしているな。
どうだ、俺の声も聞こえているか?』
『ああ。
なるほど、あんたは声を聞かせる相手を選べるのか。
便利な能力だな』
ユニの頭の中にも、獣人の言葉が響いてきた。ライガが中継してくれるおかげだ。
彼女は帝国兵に聞こえないよう、頭の中で獣人に呼びかけた。
幻獣とは直接脳内で会話をすることで、十分に意思が伝わることをユニは経験上知っている。
『私はこのオオカミ――ライガの召喚主のユニと言います。
あなたは偶発的にこの地に現れたようですが、正式な召喚ではない以上、そう長くは留まれないのではありませんか?』
『いかにも。
われらの一族の末裔が難儀をしているようなのでな。
この人間どもを始末してから帰ろうと思ったのだが、小癪な魔法を使いおる。
お前の言うとおり、もう時間切れのようだ。……まったく腹立たしいわ!』
『何ですと!』
そこへバーグルの声が割って入る。
「声を抑えて!」
すかさずユニの注意が飛んだ。
バーグルは小声になって訴える。
「神はわれらを導いてくださるために降臨されたのではないのですか?」
『すまんな、わが末裔よ。
俺は神というほど上等のもんじゃない。
お前たちの先祖と同じ一族だというだけだ。
――だがな、お前たちがこの地で長きにわたって祈り続けてくれたことは感じ取れるぞ。
だからこそ、俺はここに来れたのだ。
この先、お前たちが本当に俺たちの手を必要とする時は、きっとまた現れよう。
今はその時ではないということだ』
バーグルは目に涙を浮かべていた。周囲でひれ伏している獣人たちの間からもすすり泣きの声が洩れている。
それに合わせたかのように、巨大な獣人の輪郭が揺らぎ、ぼんやりとし始めた。
すかさずユニは帝国兵に向かって叫ぶ。
「そちらの申し出に応じましょう!
獣人の神には、ひとまずお帰りいただくことになりました。
だが、交渉が決裂した場合には、再び現れることを約束してくださったわ。
そのように心得なさい!」
『おいおい、そんなに都合よくは来れないぞ?』
不明瞭になった獣人の意識が抗議する。
『いいんです。嘘も方便ですから。
とにかく、ありがとうございました!
いつかゆっくりお話がしたいですね』
『………』
獣人は何事か答えたようだったが、もはや理解することはかなわなかった。
青白い光に包まれていた巨体はゆらゆらと揺れ、ふいに掻き消えてしまった。