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スイートホーム  作者: 水嶋陸


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観賞用王子の日常1


 ニューヨークを本拠地として世界の主要な金融市場に拠点を擁する金融機関"ROSHE"、社員の平均年収は常に上位にランクインする一流企業――響也はその投資銀行部門で働いている。


 現在入社七年目の二十九歳。選りすぐりの人材が集まる社内でスピード出世を果たし、将来の幹部候補と囁かれ、見惚れずにはいられない容姿でしかも独身。響也に憧れる女性は数知れず、アプローチが絶えない。


 昼休み、メールの返信をしていた響也は女性社員に声をかけられた。


 「あのっ神楽木さん! もしよかったらランチご一緒しませんか?」


 「すみません。俺は弁当があるので遠慮しておきます。他の皆さんと楽しんできて下さい」


 「そ、そうですか……残念です。また別の機会にお誘いしますね」


 会釈して引き下がる女性社員に、響也は営業用に誂えた笑みを返した。彼女が去った後で給湯室へ向かい、電子レンジで弁当を温め席に戻る。


 デスク上で弁当の蓋を開けた瞬間、おかずの香りがふんわり広がり、鼻先をくすぐった。


 鮭の照り焼き、だし巻き卵、きんぴらごぼう、ほうれん草のおひたしに彩り豊かな温野菜が綺麗に詰められている。


 おかずに箸をのばし、一口食べて頬が緩む。仕事中クールな表情を崩さない響也とのギャップに、隣の席の男性社員が呆れ混じりにため息を漏らした。


 「また愛妹弁当ですか~。よく飽きませんね。たまには外食したくなりませんか?」


 「全然。工夫されているので飽きませんよ。妹の作る料理が一番美味しいです」


 毎朝早起きして弁当を作り、笑顔で仕事へ送り出してくれる帆花が脳裏に浮かぶ。響也が微かな笑みを零したのを男性社員は見逃さなかった。


 「うわ、ほんっと溺愛してますね、妹さんのこと! 飲み会とか休日のイベントは滅多に顔出さないし、来ても「妹が待ってるので」ってさっさと帰るじゃないですか。


 このままじゃ独身まっしぐらですよ! さっき声掛けてきた子もすげー可愛かったのにバッサリ断っちゃうんだもんなぁ~。勿体ない」


 「かまいません。当分結婚は考えていないのでむしろ期待されない方が好都合です」


 きっぱり言い放ち黙々と弁当を食べ進めていると、男性社員は「後悔しても知りませんよ~」と肩を竦めてパソコンに向き直った。顔には出さず、大きなお世話だと内心悪態を吐く。


 少なくとも帆花が大学を卒業するまでは自身の恋愛や結婚は後回しだ。それ以前に、帆花の存在を疎ましく思うような女性との交際は論外である。


 半分ほど弁当の中身が減った頃、スマホにメッセージが届いた。差出人は帆花だ。


 『頼まれてた書類持ってきたよ。受付にいるから、お昼食べ終わったら取りに来てね。ゆっくりでいいからね』と書かれていた。


 響也は食べかけの弁当に蓋をし、さっと席を立って受付に向かった。




 ROSHE東京オフィスは、六本木ヒルズにある地上55階建てタワービルの42階から48階に入居している。


 外部の人間がオフィスフロアに入るには入館手続きを経てセキュリティーゲートを通過し、受付に行かなければならない。


 天井が高く広々とした受付は、ガラス張りで眺望が開けている。東京のシティービューを背景に辺りを見回すと、男と談笑する帆花を見つけた。


 自然と歩幅が大きくなり、帆花がこちらに気付くのに時間はかからなかった。


 「あ、響ちゃん! お疲れ様です。早かったね」


 満面の笑みで駆け寄ってくる帆花に、ほっと気持ちが安らぐ。響也は視線を上げ、帆花と話し込んでいた男を鋭く睨むも、思いがけない人物に毒気を抜かれた。


 「昴! お前海外出張じゃなかったのか」


 「予定より早く仕事が終わってね、帰国を早めてもらったんだ。それにしても相変わらずの過保護ぶりだね。視線で射殺されるかと思ったよ」


 女性と見紛う端麗な顔に笑みを浮かべたのは、朝日奈昴(あさひなすばる)


 艶やかなダークブラウンの髪に、長い睫毛に縁取られたアーモンド型の瞳が印象的な美青年だ。物腰が柔らかく落ち着きがあり、気品漂う立ち居振る舞いから育ちの良さを感じずにいられない。


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