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スイートホーム  作者: 水嶋陸


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番外編 乙女たちのバレンタイン【となりの王子は腹黒でしたコラボストーリー】

こちらは以前投稿したとなりの王子は腹黒でしたのキャラとのコラボストーリーです。どちらの作品もお読み下さった読者様に感謝を込めて執筆しました。もちろん、となりの~を未読の方もお読み頂ける内容ですので、少しでも楽しんで頂けますと幸いです。


 二月上旬の休日、有楽町駅に降り立った帆花はルミネに向かっていた。


 ルミネは二十~三十代の働く女性をターゲットにした商業施設で、美容やファッションを中心にトレンド感のある旬なショップが集まっている。

 

 今回の目的は地下に店舗を構える富澤商店だ。製菓・製パン用の食材や調理器具、ラッピング資材などを幅広く取り扱っていて、バレンタインに必要な材料を揃えるのにちょうどいい。


 (響ちゃんに何を作るかは候補を絞ってきたけど、うーん、やっぱり実物を見ると悩むなぁ……)


 商品棚にずらりと並んだ製菓材料を前に腕組みし、優柔不断になっていると、近くで調理器具を見比べていた同年代の女性と軽く肩が触れた。


 「っ、ごめんなさい」


 「いえ、こちらこそ!」


 お互い会釈しつつ適度な距離を取った瞬間、彼女が足元に置いていた紙袋が倒れ、中に入っていた本が数冊バッと床に滑り出た。


 慌ててしゃがみ込んで集める彼女の傍らで散らばった本の一部を拾い上げると、『はじめてでも安心! バレンタイン必勝レシピ』や『どんなに不器用でも絶対失敗しないチョコレート作り』など、お菓子作りに関連するものばかりだった。


 「どうぞ」


 「すみません……! ありがとうございますっ」


 顔を赤らめて本を受け取る彼女はとても恥ずかしそうだ。


 パッと見た感じ清潔感のあるメイクに綺麗めのカジュアルな服装で、前向きに働く人間特有のバイタリティが滲み出ている。普段は勤めに出ていて、休日に買い物に来たという雰囲気だ。


 「バレンタインの準備ですか? たくさん素敵な商品があって迷っちゃいますよね」


 にこやかに声を掛けると、会話が生まれると思わなかったのか一瞬ぽかんとして、はっと我に返った彼女は顔色を曇らせる。


 触れてはいけない話題だったかと思い咄嗟に謝ると、「いえ! 違うんです」と片手を左右にぶんぶん振った。


 「あああ、違うっていうのはその、悩んではいるんですけど、たぶん他の女子とは方向性が違うといいますか……」


 語尾にかけて声量が小さくなり、どよんとした重い空気を背負う。小首を傾げると、彼女は「うっ」とたじろぎ、白状するようにため息を吐く。


 「実は私、お菓子どころか普通の料理さえまともに作れなくてですね……。バレンタインのためにネットのレシピとか色んな本を参考に何度か試作品にチャレンジしたんですけど、どうしても納得のいく出来栄えにならなくて。落ち込んでたんです。


 ~~って、初対面の人にいきなりこんなこと言われても困りますよね!」


 忘れて下さいと苦笑され、帆花は真摯な面持ちで向き合う。


 「あの、もしよかったら一緒に選びましょうか」


 「へっ?」


 「驚かせてすみません。実は私もバレンタインのお菓子の材料を買いに来たんですけど、いざ目の前にすると色んな種類があって迷っていたんです。


 こういう時は第三者と一緒の方がすんなり決められたりしますし、新しいアイデアが浮かぶかもしれません。なので、ご迷惑でなければお手伝いさせて頂けると嬉しいです」


 「!! い、いいんですか?」


 「はい。私も人に教えられるほどの腕前ではありませんが、少しはお役に立てるかと思います。それに、こういうイベントは楽しみを共有できた方がわくわくしませんか?」


 「ああっ女神様……!」


 途端にぱぁっと顔を輝かせて神仏を拝むように讃えられ、変わり身の早さにくすっと笑みが零れた。本来は明るくて、ユーモアのある人なのだろう。


 まずはいくつか質問して彼女の家にある調理器具を把握し、できるだけ買い足さずに済みそうなレシピを頭の中で絞っていく。


 普段なかなか出番のない道具は場所を取るし、不経済だからだ。最終的に勧めたのは、初心者でも簡単に作れるガトーショコラだった。


 店内で販売されているガトーショコラキットは、チョコレートにケーキミックス、粉砂糖、プリーツカップがセットになっている。そこに無塩バター、卵、生クリームを加えるだけで本格的な味を楽しむことができる人気商品だ。


 冷蔵品以外は計量済み、かつシンプルな工程で作れるため、料理に不慣れな人でも安心だ。


 「なるほど、これなら私でもいけそう! 見た目もおしゃれだし、れんさんのイメージにぴったり!」


 満足げにガッツポーズを決める彼女の姿にほっとしつつ、発言にあった恋人と思われる男性について人柄を尋ねてみると、彼女は照れ臭そうに頰を掻く。

 

 「えーと、彼は基本的に意地悪というか人をからかうのが好きなんですけど、根はすごく誠実で優しくて……私に足りないものを自然と補ってくれるんです。


 めっちゃ仕事ができるのに、全然鼻にかけたりせず周りに信頼されてて。迷った時や落ち込んだ時は、的確なアドバイスで導いてくれて。つまり……すごく尊敬できて頼りになる人、かな?」


 愛しげに言葉を紡ぐ彼女はとても可愛らしく、魅力的だ。つられて頰を染めると、彼女は熱を逃がすようにてのひらで顔を仰ぎ、質問を返してきた。


 同じようにバレンタインの材料を買いに来ていたことと、左手の薬指にはめられた結婚指輪で渡す相手を推測したらしい。


 頭の中で響也を思い浮かべると、胸の奥に明かりが灯ったように温かくなる。帆花は花が咲き綻ぶような笑みを浮かべ、胸に手を当てた。


 「響ちゃん……彼は自信家で、ちょっと強引なところもあるんですけど本当に優しくて、私の気持ちを私以上に汲んでくれる人です。


 何か嬉しい出来事があると自分のことみたいに喜んで、私を笑顔にすることに何より幸せを感じてくれる。どんな時も惜しまず愛情を注いでくれる……一生をかけて幸せにしたい、大切な人です」


 お互い照れつつ、ほのぼのした空気の中で笑みを交わす。


 無事に買い物が済んだ後、何かお礼をしたいと申し出た彼女に気を遣わないよう言い含めていると、彼女の背後から長身の男性が近付いてきて、「朱里あかり、見つけた」と肩を掴んだ。


 「蓮さん!? 一時間別行動って約束ですよね。ていうかどうして私がここにいると」


 「さっき本屋でこっそり製菓本買い込んでたろ。バレバレだったけど。で、その後俺と別行動で寄りたい場所といえば製菓材料売ってる店かなと。売り場、館内じゃここくらいだしすぐに分かった」


 「えぇっ探偵ですか!?」


 「衝撃受けすぎ。誰でもできる推測。あと一時間とっくに過ぎてる」


 「嘘っ! ほんとだっ」


 「人前でジャンピング土下座はやめろよ?」


 「しませんよ! でも連絡もせず待たせてすみませんでした……反省してます」


 しゅんと項垂れる朱里の傍らで小さくため息を吐き、「無事ならいいから」と柔らかい声で慰める。


 緩いウェーブの黒髪がよく似合うすらっとしたクールな美形だが、彼女に注ぐ眼差しはとても優しく、深い愛情を感じた。


 ふと、こちらに視線を移した蓮が意外そうに目を瞠る。 


 「へぇ、宇佐美さん以外にも女子力高い友達いたんだ。ていうかほんとに知り合い? 無理やり拘束したんじゃないの?」


 「どういう意味ですがそれはっ!!」


 「そのままの意味だけど? ああ、朱里がお世話になったみたいでありがとうございました。後は俺が引き取ります」


 「犬ですか私はっ!」


 悪戯っぽく笑う蓮に憤然と抗議する朱里。二人のやり取りが楽しくて、つい笑ってしまった。


 「ふふ、それじゃ私はこれで失礼します。あかりさん、楽しい時間をありがとうございました」


 「!! お礼を言うのは私の方です。壊滅的に料理音痴な私に嫌な顔ひとつせず親切に助言をくれてありがとうございましたっ!」

 

 朱里がぐっと距離を詰めてきて、律儀にガバッと頭を下げる。それを見守る蓮の表情に朱里への愛情が滲み出ていて、素敵なカップルだなと胸が温かくなった。

 

 「素敵な彼氏さんでとってもお似合いですね。バレンタイン、成功を願ってます」


 こそっと耳打ちすると、朱里がぶわっと頰を染めて頷く。そこへ、合流する約束をしていた響也が迎えに来た。


 「帆花。買い物はもういいのか?」 


 人混みの中でも目立つ、涼しげな顔立ちの美形が颯爽と現れ、帆花が手に持っていた荷物をさり気なく受け取る。その様子を見て、朱里は合点がいったように笑みを浮かべた。

 

 「ほのかちゃんの旦那さんですか? 奥さんのおかげで助かりました! ありがとうございました」


 改めて深々と頭を下げ、元気に手を振り去って行く。その離れ際、

 

 「めっちゃかっこいい旦那さんで美男美女カップルですねっ。ラブラブなバレンタインになりますように」


 小さな声でエールを送られ、帆花は応えるような笑みを返した。朱里と蓮が最後に軽く会釈をするのを見届けた後、響也は不思議そうに首の後ろに手を回す。


 「話が見えないが、知り合いか? 悪い、挨拶しそびれた」


 「ううん、大丈夫」


 きっともう会うことはないだろうが、友達になりたいと思えるような女性だったなと思い返す。にこにこしていると、響也はふっと笑みを零し、


 「ずいぶん楽しそうだな。何話してたんだ?」


 「女の子同士の秘密」


 口許に人差し指を立てると、気になる素振りを見せつつも、追及を止めた響也は空いた方の手でするりと手を繋ぐ。 


 「バレンタインに欲しいものあるか? なければこれから探しに行こう」


 「もうっ、すぐそうやって甘やかそうとするんだから」


 「別にいいだろ? 俺の生き甲斐だ」

 

 嬉しそうにぎゅっと指に力をこめる響也が愛しくて、手を握り返した。肩を並べて身を寄せ合い、歩き出す。


 ――この先に続く道がささやかな幸福で溢れていることを胸に願って。



FIN 

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