第21話 火蓋切られる その4
統率を失った兵たちは、我先に唯一の脱出路であるトンネルに殺到する。
だが、万単位の武装した兵たちが殺到したことで、たちまちトンネル内も周辺も兵で溢れてしまう。
「それ、やっちまいな!」
海兵団は自転車に乗って驚くべき速度でトンネル前に到着した。
そして武器を投げ捨て、押し合いへしあいになっている敵に対し、容赦なく手投げ弾を投げ、銃撃を見舞う。
混乱がより大きな混乱を呼ぶ。
トンネルの出口では、最初は逃亡を阻止しようと槍部隊で送り返そうとしたが、串刺しにされても逃げだそうとする群集の圧力は抑えきれず、逃亡を許してしまった。
出口に到達できたものはまだ幸いだった。
道中で身動きが取れなくなったところに背後からたゆまぬ圧力、そのうち他者を踏み台にしてでも逃げようとする者も現れ、隧道内は兵たちで栓詰まりを起こした。
その圧力は止むことなく増大し続け、ついに圧死者が出始める。
そして入り口では海兵隊の容赦ない攻撃が続き、ついに新兵器の火炎放射器まで持ち出された。
隧道内の人の山に向けて、炎の噴水が浴びせられ、たちまち暖炉にくべられた薪のように兵たちが燃え上がる。
かくして隧道内は圧死と酸欠死が相次ぐ、文字通り冥府への通路と成り果てたのだった。
一方、隧道に戻れない事を悟った半数近い兵たちは、進路を真逆の川側に取った。パニックに陥って、川伝いに逃れようとしたのだ。
だが、この川は下れば下るほど急流になっており、かつ山岳地帯からは一気に大瀑布に繋がっていたことを彼らは忘れていた。誰もが登る前に目にしていたにも拘らず。
追撃部隊が追い込みをかけると、川へ次々と逃れるものが続出した。
だが、彼らはほどなく急流に足を取られて流され、そして大瀑布へ飲み込まれていった。
ようやく冷静さを取り戻した者たちが、川べりに踏みとどまる。
「侵略者に告げます!命が惜しいのでしたら、今すぐ武器と鎧を捨て、両手を上げて投降してください!」
ヒトミはスピーカーを使って、敵に投降を呼びかけた。大勢が決した今、無用な戦闘を避けようというのだ。
完全に戦意を失っていた兵たちは、その言葉に従って、その場に武器を捨て、鎧を脱いで身一つになって、両手を挙げて投降していく。
僅かに残った指揮官たちにも武器と兜を捨てるよう命じると、そのうち数名が恥を忍んで自殺。それ以外は言われるまま武器と兜を捨てて投降した。
「如何しましょうか?武器を捨てたとはいえ、我らの総数に匹敵する数です」
マガフは投降兵の数に驚嘆していた。
「ヒトミ、このまま彼らを送り返そう。これだけの数の捕虜を養う余裕は、俺たちには無い」
ソウタの進言に、ヒトミは大きく頷くと命令を発した。
「では、まず貴方たちの仲間の遺体を弔いなさい!」
戦場に散乱していた、ゴ・ズマの兵たち遺体からの鎧兜と武器を外させ、川岸に集めさせた。
そして簡単に弔いの儀式を行った後に急流に投げ入れて水葬とした。
とてもではないが、穴を掘って埋める余裕は無いからだ。
戦場の整理を一日で終わらせ、そのまま隧道から捕虜たちを送り返す。
彼らは隧道内に散乱した同胞たちの遺体を横目に見ながら戻っていった。
見事に撃退に成功したカ・ナン。王都では、早速祝賀の宴が行われた。
「討ち取った敵兵は合わせて二万!ここまで打ち破ろうとは!」
「放棄させた武具だけで、新たに一万の兵を武装させることもできましょう!」
皆が勝利に沸きかえっていた。兵たちは出身を問わず酒を飲んで盛り上がっていた。
「敵の総司令官の死体は?」
「御印に兜のみ取り置き、亡骸は討ち取った首と合わせて投降兵に託したとのこと」
「晒しものにしないのか?」
「丁重に送り返したほうが後々良い方向に向かうと陛下が判断されたそうだ」
この土地の戦では珍しい処遇に、義勇兵の指揮官らは感心しているようだった。
この地域での戦争の場合、捕虜にした敵将は身代金の為に生かすが、捕虜にできなかった敵将は死体の首を刎ねて晒しものにするのが常識だったからだ。
「とりあえず、第一波は凌いだ、か」
ソウタも素直に安堵していた。
「これで諦めてくれたらいいんだけど、どう考えてもそれはないわよね」
「来るよ必ず。このままでは示しがつかないもの」
「約束したからな。絶対に本隊が来る。今度は大帝直々に」
勝って兜の緒を締めよ、の格言通りに、カ・ナン側の戦勝祝いは、この一晩だけとした。




