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第21話 火蓋切られる その3


「狙撃隊は敵の指揮官を狙って下さい!」


 銃兵たちの後方、コンクリートが張られて強固に作られていた防衛線には、等間隔で頑強に作られたトーチカが設けられていた。そしてそこには、通常より遥かに大きな銃が据え付けられていた。


 その銃口には螺旋の溝が掘られており、さらに銃にはスコープまで取り付けられている。


「さて、ようやく私の出番だな」


 巨大で特殊な銃を任されているのはアタラたち。スコープを片目で睨み、標的である派手な鎧をまとった敵の指揮官を十字の中に納める。


「いくぞ」


 引き金を引くと、後ろのハンマーが動き、銃の尾部を叩く。


 ハンマーは薬莢の尾部にある雷管を打ち、炸裂させて褐色火薬を点火させる。


 褐色火薬の炸裂で押し出された菱の実型の鉛玉は、ライフリングが施された銃身に押し付けられ、回転を与えられて飛び出す。


 飛び出した鉛玉は、長大な砲身を潜る中で与えられた直進力と、ライフリングによってマスケットの滑腔砲とは比べ物にならない精度が与えられていた。


 鉛玉は、マスケット銃の何倍もの距離を飛び、正確に標的を粉砕した。


 バン!


 炸裂音が聞こえたと同時に、華麗な鎧を身にまとっていた指揮官たちが、次々と花火のように破裂していく。


「これは凄いな……」


 アタラも感嘆してしまう威力と精度だった。


 主力のマスケット銃にライフリングを施す改造は進められていたが、この銃は特別に製造された、狙撃用のライフルだった。


 それも命中精度と安定性を求めた結果、大型化が避けられず、もはや対物ライフルと言える代物となって完成したのだ。


 その威力は凄まじく、人間に向ければどれだけ分厚い鎧を身にまとっていても貫通されて大穴が開けられるのは免れない。防ごうと思えば、人力では持ち運べないような分厚い鉄板の盾が必要になるのだ。


「敵の指揮官は失われたようで、第一陣の統制は乱れに乱れております!」


 まだ敵に手の内を見せないよう最大射程での狙撃は固く禁じられているため、本来の有効射程の半分以下の距離からの狙撃だった。だが、それでも通常のマスケット銃の射程を数倍上回っているのだ。


 その間合いが分からず接近してきた敵の指揮官は、我が身に何が起こったのか理解することもできずに、鉄芯入りの菱の実型の大型銃弾によって次々に散華していった。


 混乱が続く中、壊走する歩兵たちを蹴散らしながら、敵の騎兵部隊が突入してきた。その機動力で、一気に蹂躙しようというのだろうか。


「何と勇敢な。だが……」


「あまりにも無謀です……」


 銃器の威力を知るヒトミとマガフの目には、彼らの突撃は無謀な蛮勇にしか見えない。


「ですが、いま敵に情けをかけるわけにはいきませんぞ」


「わかっています。敵の騎兵部隊に攻撃を開始してください!」


 今度は銃兵の射撃だけでなく、ロングボウ隊の強力でさらに連射に長けた矢の雨が加わる。


 突撃してきた騎馬部隊は、馬諸共に矢と鉛玉の夕立を浴びて次々に打ち砕かれ、転げ落ちて斃れていく。


「やはりこうなりますな……」


 唯の力押しではこうなってしまう事は、カ・ナン側には分かりきっていた事だったが、改めてその威力に感嘆と恐怖を覚えていた。


「敵の状況は?」


「砦より報告!敵の前列はすでに崩壊し、騎馬部隊の突撃が失敗したことで後方の部隊にも乱れが出ているとの事!」


「わかりました!この機に乗じて騎兵団と猟兵団に追撃させて、敵の本陣を叩きます!」


「やれますかな?」


 突撃を決意したヒトミに、あえてマガフが尋ねる。


「大丈夫です。敵は布陣が完了してすぐに仕掛けてきましたから、焦っているんだと思います。それで焦ったまま勢い任せて仕掛けてきましたが、予想外に前方がいきなり崩壊してしまって混乱しています。ですから叩くなら今です!」


「お見かけと気性によらず、果断ですな」


 ヒトミは日頃の大人しさが打って変わって、凛として迷い無き態度になっている。


「騎兵団、ヒイロ!準備できたから行ってくるよ!」


「猟兵団、アタラ、出る!」


「二人とも、危ないと思ったら無理せずに、すぐに引いてください!」


『了解!!』


 陣の右側からヒイロの騎兵団が、左側からアタラの猟兵団が、敵の騎馬部隊を追撃して敵陣に突撃する。


 騎兵団は命からがら撤退する騎馬部隊を追撃していくため、敵は同士討ちを恐れて反撃できない。


 猟兵団は巨大な狼の群れが一団となって突き進む。その迫り来る威容と咆哮に、敵は人も馬も肝を潰して壊走していった。


「報告しろ!!何が起こっているのだ?!」


 壊乱して逃げ惑う兵たちは、逃げようとトンネル側にあった本陣になだれ込んでくる。


「ええい!逃げるな臆病者ども!それでもゴ・ズマの兵か?!」


 激高して斬って捨てる衛兵たちだったが、押し寄せる兵の勢いは止まらない。


「か、閣下!ここは一度後退を!」


「馬鹿者!」


 指揮官が進言した部下を指揮棒で殴打したところで、明確に敵意を持った一団が柵を飛び越え進入してきた。


「大将首、頂きぃ!!」


 馬上から刀を振りかぶり、敵将めがけて振り下ろす。だがそれより刹那早く、その敵将の額に矢が深々と突き立てられた。


「敵将、討ち取ったり!」


 ヒイロの一閃が敵将の首と胴体を切断したが、その額にはアタラの放った矢が。


「ああ~~!!アタラ姉ちゃんに負けたぁ!!」


『大将が討たれたぞぉ!!』


『もうおしまいだ!!』


『逃げろ!逃げるんだ!!』


 本陣が蹂躙され、高級指揮官の大半、何より軍の司令官が討ち取られたことで、ゴ・ズマの軍勢は、完全に崩壊した。

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