第21話 火蓋切られる その2
そして残るは出口まで100mほどに設置されたバリケードと隧道を封鎖する土嚢だけになってしまった。
「どうする?!残りは最後の鉄杭と土嚢の蓋だけになっちまったよ!」
「先ほど、敵が攻城用の大型大砲を運搬してきていると報告がありました。それを使われたら一たまりもありませんから、撤退の準備をしてください!」
ゴ・ズマが持ち出したのは青銅製の大型大砲だった。
これは攻城用に特注されたもので、石製の砲丸は30kg以上のものが使われ、長大な射程と、通常の城壁なら易々と粉砕してしまう威力を誇っていた。
「これ以上の遅れは看過できん!粉砕せよ!」
砦から、トンネル内部に、この大砲が設置されたことが告げられる。
トンネルは一直線であり、多少砲丸が跳ねても、勢いで出口まで到達するのは確実だった。
「兵員は直ちに撤退してください!」
海兵団は迅速に脱出。ほどなく隧道内で大砲が放たれた。
放たれた砲弾が直撃し、出口に積まれていた土嚢の山が勢い良く崩壊した。だが、穴はまだ小さい。
「お前ら、少しでも埋めな!」
隧道内にガスが充満してしまったために、砲丸が再装填されるまでには時間が掛かる。
その間にも少しでも突破を遅らせようと修復作業が行われたが、思っていた以上に装填が早く終わってしまった。
「再装填完了確認!」
「ちぃぃ!野郎ども、撤収だ!!」
撤退のため土嚢から離れた直後、土嚢の山が大爆発して崩落した。
「今だ、一気に突入しろ!」
濃密な硝煙が立ち込める中を、ゴ・ズマの突撃部隊が一直線に突っ走る。硝煙を抜け、明かりが、光が差す方向に向かって振り向きもせずに。
「一番乗りぃぃ!!」
ついにゴ・ズマの先兵が、隧道の出口に達した。兵たちが後から後から押し寄せて、波が浸食するように広がっていく。
「おい、何だあれは?!」
押しやられるように出口の外にでた彼らが目にしたのは、白亜の王都カナイ。そしてその前に何重にも構築された、白亜の堤防のような防衛線だった。
「皆さんががんばって時間を稼いでくれたお陰で、防衛線は完成しました!ありがとうございました!」
隧道を突破されたにも拘らず、士気高いカ・ナン軍。
「敵の数はおよそ五万。まだ大帝は来ていないようだ」
「まずはあの敵を撃退して、大帝を引っ張り出しましょう!」
翌日朝。ゴ・ズマの軍勢は布陣を終えていた。その数およそ五万人。
迎え撃つカ・ナン軍は、あえて防衛線の手前に布陣していた。その数およそ五千。
「すでに当初の日程から遅れに遅れている!陛下の到着までに、一気に粉砕しろ!!」
後方から大きな銅鑼の音が鳴り響き、返事するように前列から甲高い笛の音が返る。敵軍の進撃の合図だった。
攻め寄せてきたのは、重装備の歩兵部隊だった。
スクラムを組んで各々が巨大な盾で正面だけでなく上方まで防御することで弓、投げ槍、投石などの攻撃を防ぎながら前進し、敵を蹂躙するのだ。
「まるで古代ローマのテストゥドみたいですね」
双眼鏡でその様子を見ていたヒトミは感想を呟く。
「あれはゴ・ズマに早くから征服された国の戦術ですな。小回りは効きませんが、陣地への攻撃というなら、最適の戦術でしょう」
マガフは自身の知見を述べる。
「では手はず通りに、ギリギリまで引き寄せてください」
カ・ナンの陣地は馬の侵入を防ぐための馬防柵が二重に設置されていたが、その最初の一つまで軍勢はゆっくりと、だが確かに前進し続ける。
「いいな、まだ攻撃するな!」
指揮官たちは、敵を引き付けるように命令を出している。
前進続ける敵に、こちらからは手を出さない。ただ、防御のために待つ。
そして敵の先陣が最初の馬防柵に届いたその時だった。
「攻撃開始!」
立ち上がったヒトミが指揮杖を振りかざすと、攻撃が開始された。
横一列に並べられた何百というマスケット銃が、何十本もの雷鳴が一度に轟いたかのような轟音と閃光を放った。
「な、何が起こった?!」
マスケット銃はライフル銃への改造が済んでいないものだったが、それでも威力は十分。
一斉に水平発射されたマスケット銃の鉛の弾丸は、彼らの手にしていた木製の盾を易々と貫通。最前列に立って盾を構えていた者たちはバタバタと地に伏した。
「次っ!」
弾薬の装填を済ませた次の銃が、すぐに射手に渡され、すぐさま第二射。
盾を前方に構えなおすこともままならない歩兵たちに、容赦なく鉛の弾丸が浴びせられた。
もちろんこれで攻撃は終わらない。撃ち終えた銃を後ろの装填手に渡すと、さらに装填済みの銃が渡され、第三射。この間およそ一分半。
次々浴びせられる銃弾によって、重装歩兵たちの陣は無残に打ち砕かれ、屍の山を築いていく。
「ええい!切れ目だ、攻撃の切れ目を狙え!」
ゴ・ズマの指揮官は損害を意に介さず、さらに兵たちを投入する。
だが、銃弾は止むことなく降り注ぎ、迫ってくる兵たちを次々に打ち砕いていく。
「なんだあの武器は?!跡切れを知らんのか?!」
これは輪番射撃という戦法で、切れ目無く銃撃し続けることで、敵の進撃を阻止するのだ。
やがて、銃撃に耐えられなくなった兵たちが恐れをなして足を止め、やがて逃げ始める。
「貴様ら、逃げるな!進め、進め!」
指揮官たちの無慈悲な命令が飛び交う。指揮官たちの声が届くところでは、かろうじて崩壊が防がれていた。




