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第19話 結ばれしもの その7

 国中に緊張がみなぎる中、ソウタもヒトミもエリも、まったく怯む様子を見せずに、毅然と陣頭に立って指導を続けていた。特にエリは女王として、常に堂々と凛々しく振舞っていた。


 トップの姿勢に勇気を得た家臣や国民は、恐れることなく国難に備えて準備に邁進していった。


 日中は毅然としているエリだったが、夜になると、特に夫と共に過ごす際は随分と様子が変わってしまう。


 寝室では新婚ということもあったが、エリは胎内で精子が生存しているのはおよそ三日間と聞いていたので、それ以上の間は開けられないと、ほとんど毎晩のようにソウタとの間に証を求めてきた。


 だがそれは証を成そうというだけではなく、今の今まで女王として圧し掛かり蓄積していたストレスを必死に癒そうとして求めていた。


「陛下はこれまで、その身一つで王座の重圧に耐えてきたのです。是非、お二人は夫婦として、家族として、陛下をお支え下さい」


 長年エリを見守ってきたメーナからは、改めてエリを支えて欲しいと懇願されている。


 幼い頃さえ強く毅然としていたエリが、ここまで弱さを曝け出した記憶が無かった二人は、そんなエリを支えようと、エリの望みに応えて、毎晩傍に、そして床を共にしていた。


 この夜も、エリの寝室に三人が揃っていた。


 営みは毎回最初にヒトミ、次にエリという順で行われていた。ソウタがヒトミ相手で力尽きてしまっても、コンドームに放出された精をエリが受け取ればいいからというのだ。

 だが毎回その心配なく、ソウタは二人をきちんと相手して務めを果たしていた。


「ねえソウタ」


「なんだ?」


 息が整ってきたところで、エリが話題を切り出した。


「アンタ、私より重要になっちゃってるってわかってた?」


「あ、ああ。俺は、カ・ナン王国の宰相というだけじゃなく、この世界に名高い白銀の錬金術師と、世界帝国ゴ・ズマの大帝の甥だったわけだからな」


 ソウタはこの世界にはヒトミとエリ以外に縁がないと思っていた訳だが、気が付くと世界を動かす要人の血縁者だったのだ。


「ソウタは毎晩、私たち二人相手でも大丈夫なのは分かってるから……」


「そりゃどうも」


「だからね。昨夜、アンタが寝てる時にヒトミと二人で話し合ったんだけど……」


 エリは真剣な顔をしてソウタに告げた。


「ソウタ、許可するから、私たち以外にもお手付きしなさい」


「!!」


 エリの提言に絶句してしまうソウタ。


「妻として、女王として許可するから、ソウタの身近な子はもちろん、この王宮に出仕している若い女官たちでも構わないから……」


「俺に種馬になれっていうのか!?」


 ソウタの言葉に怒気が含まれていた。


「ソウタ、私が本気でアンタを種馬扱いするなら、問答無用で縛り上げて目隠しして、無理やり搾り取ってるわよ!だけどそこまでしたくないから、意思は尊重するって言ってるの!」 

 エリは逆切れしてしまう。


「だからってそんな無責任な!」


「責任は国全体で取るって言ってるのよ!」


 エリは“ソウタの子供”が、タツノ家の血を引く子供が必要だと言っているのだ。


「ヒトミとは戦争が終わるまで作れなくて、私はいつになるか分からないのよ……。だったら少しでも確率を上げて、少しでも早く、一人でも多く……」


「エリ……いくらなんでも焦りすぎだ……」


 ヒトミとはこの一件が終わるまで設けるわけにいかず、エリとは結婚してまだ一ヶ月程度。


 エリは何としても懐妊しようと、ヒトミとの際に使用された避妊具は破棄せず、すぐにエリが受領して、我が身にヒトミの為に出されたものを流し入れる事まで行っていたが、こんな短期間で結果を求めるのは無茶な話であった。


 それでもエリは体育座りして、ボロボロと涙を零す。焦りと悔しさで涙してしまったのだ。


「ソウタくん、初めて会った人と火遊びは絶対ダメだけど、ソウタくんの身近なひとだったら、私もエリちゃんも良く知っているから……」


「ヒトミまで……」


 ヒトミも同意していたのだ。


「私たちの事は気にしなくていいから、他のひともいっぱい抱いて、証を作っていいんだよ。だってソウタくんの子供は少しでも早く、一人でも多く居たほうがいいんだから……」


 ヒトミは小刻みに震えていた。


 将軍という国を左右する立場に立っていると、否応無く客観視してしまえるから、ソウタが自分以外、エリはともかく他の女性との間であっても、子供を設ける必要があると理解しているのだ。


 ゴ・ズマの大帝の甥であるソウタと、その子供がいるとなれば、情勢次第でゴ・ズマへの外交カードとしても大いに有効に活用できる。


 即ちカ・ナンの存続に大いに寄与できるという事も理解していた。


 だから彼女たちは自身の本心はともかく、ソウタが自分たち以外の者と関係を持つ事も容認すると言ったのだ。


「私だってこんなの嫌よ!でも、このカ・ナンが、この国のみんなが、それで少しでも救われるかもしれないんなら……」


「仕方ないもの……」


「ヒトミ!エリ!」


 ソウタはヒトミとエリを抱きしめた。強く強く強く。そして滂沱の涙を流していた。


「ごめんな!そんな辛い事、お前たちから言わせてしまって……」


「ソウタくん!ソウタくん!ソウタくん!」


「ソウタぁ……ソウタぁ……」


 しばらくの間、三人とも抱き合って号泣していた。


 ようやく落ち着くと、ソウタは口を開いた。


「こんな状況、絶対に打破してやろう。それで俺たちが落ち着いて安心して暮らせるようにするんだ!」


「うん!絶対そうしよう!」


「もちろんよ!」



 そして翌朝。


 カ・ナンの国境から約200kmほど離れた平野部。この一帯は草原であり、先年のゴ・ズマの侵攻以降は完全に無住の地となっていた。


 その平原に小高い丘があり、ここで猟兵団所属の偵察部隊がゴ・ズマの接近に備えてキャンプを張って、哨戒を行っていた。


「あれは?!」


 早朝から双眼鏡で街道を注視していると、街道に土煙が上がったのだ。


 やがて狼たちが風上からの匂いに反応してうなり声をあげる。


「あれは先鋒の騎馬だな……」


 街道を進んできたのは十頭ほどの騎馬集団。その装備からゴ・ズマの斥候に違いなかった。


 隊長も斥候を確認すると、トランシーバーで連絡を取る。


「敵の斥候を確認!」


 いよいよ、その時が来たのだ。

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