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第19話 結ばれしもの その3

 その夜は急遽ではあったが、リュウジの協力に感謝の意を示す為とエリとソウタの婚約を祝して盛大な晩餐会が開かれた。


 リュウジの周囲にはかつて教えを受けた者や、彼に救われた者たちが集まり再会を喜び、高名を聞いて技師たちも話を聞こうと集まっていた。


 そして何より、懸案になっていたエリの婚約がようやく決まった事を、集まった誰もが歓喜していた。


 宴は大いに盛り上がったが、主催者の意向もあって、ほどほどの時間で切り上げとなる。


 リュウジを賓客用の屋敷に案内し終えると、三人でエリの私室に入った。


「ん~~!何とかなったわ~~!」


 エリは大の字になってベッドに飛び込む。


「お疲れ様、エリちゃん」


 ヒトミは優しく微笑む。


「色々あったけど、リュウジ伯父さん引き込んで、今までより大規模に資材を持ち込めるようになったからな」


 ソウタも安堵の色を見せる。


 これまで休学生の自分たちだけでの活動だったが、小規模とはいえ様々な資格を持ったリュウジと、社員たちが全面協力してくれるのだ。


 アルバイトで面々の事を良く知っているソウタは、自分ができなかった調達に資格が必要な危険物の持込や、専門的な技術の移転がこれで行えると、喜びを隠さなかった。


「これで何とかなるかな」


「なるに決まってるじゃない!いえ、何とかしてやるのよ!」


 三人でタッチを繰り返す。そして落ち着いたところで、エリが静かに微笑んで切り出した。


「それじゃあ、ソウタ、ヒトミ。不束者ですが、末永くお願いします」


『こちらこそ、お願いします』


 エリは二人に改めて一礼した。二人もそれに返した。


 披露宴は先送りだが、簡単な婚約の儀式は宴の前に済ませてあった。


「エリちゃん、本当にあれでよかったの?」


「平和だったら長々と儀式をするところだけど、今は国家存亡の危機的状況っていうのと、リュウジおじさまの前で、きちんと婚約したのを証明しなきゃいけなかったんだから、とりあえずあれでいいのよ。とにかく私は……」


 エリは出掛かった言葉を飲み込んでしまう。


「少しでも早く、ソウタくんと愛し合いたいからだよね、エリちゃん」


 ヒトミはクスクスと笑った。


「ま、ぶっちゃけそういう事よ!」


 濁した言葉を口に出されて、エリは顔を赤らめた後で開き直った。


「じゃあ、ソウタくん、エリちゃん。私は帰るね……」


 ヒトミは退席しようとした。


「ごめんねヒトミ。明日の夜からは三人で一緒に寝ましょう」


 エリとしても、この夜はソウタと二人きりが望みだった。


「ヒトミに我慢させて、私も凄く心苦しいけど……」


「気にしないで。エリちゃんは我慢なんかしなくていいんだよ。エリちゃんは女王なんだから、お世継ぎを作らないといけない事ぐらい、私、わかってるよ」


「すまないヒトミ……」


「ソウタくんいいんだよ。だって私、ソウタくんに抱かれるのを我慢するわけじゃないんだから。戦争が終わってから、私も追いかければいいんだから……」


 ヒトミと口付けを交わすソウタ。続けてエリとヒトミも交わす。


『じゃあ、また明日……』


 ヒトミが部屋を出て戸が閉まると、エリはソウタに飛び掛って唇を重ねた。我慢の限界を超えていたのだ。


 あの時のようにエリはソウタの口に舌を入れるが、今度はソウタも動じない。互いに舌と口中を舐りあい、唾液をゆるやかに交換し合う。


「あれから二ヶ月ちょっとで、随分手馴れたじゃない」


「ああ。お陰様でね」


 自信を持ってソウタは答える。


「それにしても昨夜はやってくれたわよね……」


 極端に呆れた顔をしてみせるエリ。




 それは昨夜のことだった。


 エリたちはソウタの家で、三人並んで眠りについていたのだが、エリは夜中に違和感を感じて目を覚ましてしまった。


 両隣にいたはずのソウタとヒトミがいなくなっていたのだ。


(!?)


 察しはついていたエリだったが、どうしても気になってリビングを抜け出す。


(やっぱり……)


 僅かな物音と、二人の小声が階段の方から聞こえてきた。


 案の定、二人とも二階のソウタの自室に移動していたのだ。


 エリは気配を殺して二階に上がる。


 そしてわずかに開いていた戸の隙間から部屋の様子を伺うと、ソウタとヒトミが常夜灯の下で、声を殺して夫婦の営みを行っている様子が見えたのだ。


 エリはその光景に釘付けになって、営みが終わるまで見届けてしまった。


 二人が営みを一度終え、小休止して再度臨んだところで、エリは二人の物音を背に静かに離脱する。


 寝室に戻ると頭から掛け布団を被ったが、あてられた熱が冷めずに身悶えしてしまうエリ。


 やがて二人がしずしずとリビングに戻ってきたが、エリは堪えきれなくなって起き上がると、二人に苦情を言った。


「あ、アンタたちね!するならするで止めないから、最初から私を隔離しときなさいよ!」


 顔を真っ赤にしてエリが怒ると、ソウタはばつが悪そうにしていたが、ヒトミはあっけらかんとしていただけでなく、逆に切り出した。


「エリちゃん、起きてたんだったら覗き見なんかしてないで、一緒に入ればよかったのに」


『!!』


「おい、ヒトミ!」


「だってエリちゃんもソウタくんに抱かれたかったんだよね?私、エリちゃんだったら全然構わないのに……」


 その言葉にエリは本当に怒ってしまう。


「ヒトミ!私は女王なのよ!軽々しく遊びや気晴らしで、純潔を失う訳にはいかないのよ!」


 だが、ヒトミは優しくエリに告げる。


「だったらエリちゃんも、ソウタくんのお嫁さんになればいいんだよ」


『!!』


「日本だとソウタくんは私と籍を入れちゃったから無理だけど、カ・ナンは夫婦は合計5人までは大丈夫なんだよ。エリちゃんだって、カ・ナンには他のお母さんが居たじゃない」


 エリの実母は日本人のマナだったが、他に二人、義理の母が居たのだ。


 義母の一人はエリがカ・ナンに来る前に亡くなっており顔を合わせた事はなかった。


 もう一人はエリより10ほど年上で、会ってからも仲は悪くなかったのだが、父が亡くなったショックで衰弱し、早世してしまっていた。


 だからエリにとっては、重婚そのものは特に気にせず受容していたのだが、ソウタとヒトミがそれを受け入れるとは思っておらず、最初から想いを封じて断念していたのだ。


「ヒトミ、本気で言っているの?」


 エリの問いに、動じずヒトミは答える。


「私は本気だよ!だってエリちゃんなんだよ!?私、エリちゃんの事も大好きだから!」


 ヒトミは本気で、エリが自分と同じくソウタの妻になる事を望んでいたのだ。


「カ・ナンだと、奥さんを増やすときは必ず第一夫人の許可が必要だけど、その私が“認める”んじゃなくて“望んでいる”んだよ。私、エリちゃんとも家族になりたいの!」


「そ、ソウタはいいの?!」


「俺も欲張りだからな……。俺はヒトミだけじゃなくてエリ、お前も欲しいんだ!」


 二人の言葉を聞いて、エリはさめざめと泣きだしてしまう。


「わかったわよ。私だって……自分に正直になりたいもの!」


 こうして、エリは日本に逃れるのではなく、カ・ナンに戻る事を、三人で夫婦になる事を決意したのだった。





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