第19話 結ばれしもの その2
皆が驚く中でリュウジは続ける。
「かつてカ・ナンに助力した時、僕たちは約束をしていたんだ。日本で産み育てた二人の娘は、タツノの血を絶やさない為に、弟タイガの息子の妻にする事を」
ソウタがヒトミと結婚する際に、シシノ家の者たちに告げた内容を、リュウジは裏書した。それも、エリとも同じ約束を条件にしていたと付け加えて。
「しかしオオトリ家もシシノ家も、娘に家を継がせるために、僕に黙ってカ・ナンに返してしまった。だが、その娘二人はその約束を知らずにソウタを招聘し、そしてヒトミちゃんがソウタと結ばれたのは知っての通りだ。だからその約束は一つ果たされていた訳だが……」
「私の約束が果たされていない、というわけですね」
「うん。そういう事なんだ」
カ・ナン王国にとっては衝撃的な話であった。さらにリュウジは、ソウタがシシノ家に提示した文書と同じ紙に記された書面を提示した。
「この約束を履行して、弟の、いやタツノ家の血を確実に残して欲しい。その約束を果たしてくれれば、僕は再びカ・ナンの為に、いや前回以上に支援を行う。それはこの世界において、大国一つが全面支援を行うに等しいはずだ」
ソウタの尽力だけでも、状況が劇的に改善された事を疑う者は誰一人いない。それをさらに上回る支援が受けられるというのだ。
皆の視線がエリに集中した。
「白銀の錬金術師リュウ殿、親たちが結んだ約束の話、恥ずかしながら私は、今まで存じておりませんでした」
「白銀の錬金術師殿から支援を頂けるのでしたら、確かに言われたように、大国一つに匹敵する力添えになる事は疑いはありません」
「ですが私の伴侶は、親たちの取り決めではなく、政略的なものでもなく、あくまで私の意志で決めます!」
力強いエリの宣言に、その場の誰もが驚きの声を漏らした。
エリは皆を一瞥すると、ソウタとヒトミのもとに歩み、声を掛けた。
「タツノ・ソウタ!シシノ・ヒトミ!」
『ハッ!』
席を立ち、恭しくかしづくソウタとヒトミ。
「二人とも、構わないからお立ちなさい」
ソウタとエリは再び立ち上がった。
「ソウタ、ヒトミ。二人とも、私の望みはわかっていますね?」
『はい。そのつもりです女王陛下』
「貴方たちが私の望みを叶えてくれたら……どんなに幸せでしょうか……」
主君の立場として命じる訳にはいかないので、エリは二人に懇願したのだ。
ソウタに対して求婚を、ヒトミに対してソウタの二人目の妻となる事を。
そんなエリの懇願に、二人は静かに答えた。
「第一夫人として、陛下の願いを拒むものではありません」
ヒトミは目に涙を浮かべて、エリの懇願を快諾した。
「陛下の願い、私で良ければ叶えてさしあげましょう」
ソウタは笑顔で求婚を受け入れた。その返事に思わず涙ぐむエリ。その目元をソウタが優しく指で拭うと、エリは崩れるようにソウタの胸元へ飛び込んだ。
その様子を見て、ナタルは真っ先に拍手を送り、刹那遅れて、皆も続いた。
「これで私の望みは果たされた。この白金の錬金術師リュウは、魔法使いたるティア共々、このカ・ナンの為に尽力する事を誓おう」
カ・ナンでは伝統的に重婚は認められていた。
何よりソウタは、すでにカ・ナンの目覚しい発展に尽力し実績を出し、かつての救国の英雄の甥にして、敵ながら世界帝国の皇帝の甥でもある。
そのソウタが女王の夫となる事そのものに、反対の声はこの場から上がらず、巷からも上がる事は無かった。
なお、この結婚を後々問題視したのは周辺国だったが、碌に手を貸そうともしない他国の事など、カ・ナンで気にする者は皆無だった。
「しかし陛下!陛下は宰相閣下の第二夫人になられるのですか?」
確かにカ・ナンでは重婚は認められていたが、上司が部下の、それも主君が家臣の第二夫人となる前例など無かった。
それだけに、身分を考えれば、ヒトミとは離婚せずとも、序列を組み直すのが当然ではないのかというのだ。
そんなバ・ラオムからの問いに、エリは笑顔で返事した。
「ええ。私はタツノ・ソウタの二番目の妻です。それも私自身の望みで妻となる事を、二人に承諾してもらったのです。主君である事を振りかざし、ヒトミから第一夫人である事を奪うなど許される事ではありません!」
その言葉に、ヒトミは嬉しさで泣き崩れてしまう。
「当たり前でしょヒトミ。あなたはソウタが自分で最初に選んだ妻なのよ!」
こうして、円満にエリからソウタへのプロポーズは完了した。
エリがリュウジにカ・ナンに戻ると宣言した理由の一つは、日本では重婚が認められていないため、ソウタと結婚ができないというものだったのだ。
「私とソウタの結婚式と新婚旅行は、ゴ・ズマとの戦が終わってからとします。その代わり、その時は盛大にさせてもらうから!」
和やかな雰囲気のまま、御前会議は終了した。




