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第19話 結ばれしもの その1

 翌朝、三人はリュウジの会社の事務所で、リュウジとティアと相対した。


「では改めて、結論を聞かせてくれ」


「はいおじ様。私たちは、カ・ナンに戻ります!」


 エリは毅然として答えた。


「日本に戻ってやり直したいという気持ちも確かに強くあります。でもそれは、カ・ナンの人々を見捨てて引き換えにできるものではありません。それに……」


「それに?」


 エリは日本では不可能だが、カ・ナンでは実現可能な己の願望を、リュウジとティアに堂々と語った。それを聞いた二人は揃って愉快そうに笑っていた。


「なるほど、確かにそれは“現代の日本”では無理だな」


「はい。ですから私はカ・ナンに戻って、責務を果たさなければなりません!」


「ソウタ、ヒトミちゃんは?」


「私はエリちゃんを絶対に見捨てたりしません!」


「リュウジ伯父さん、俺も自分の女を絶対に見捨てたりはしない!」


 リュウジとティアは三人の決意に満足げに頷く。


「分かった。お前たちの判断を尊重しよう」


「転移門、きちんと開き直すわね」


『ありがとうございます!!』


 三人とも深々と頭を下げた。


「三人とも、相手が兄貴と分かったから、今度は僕も全面的に協力する。身内の行いだから、そのままにはしておけないからな」


 その言葉に三人とも驚く。


「ただ、どうしてもタダというわけには行かないから、期間中の人件費と資材代をもらえればいい。ソウタ、お前だけじゃ手に入りにくいものでも、必要なものは極力手配してやる」


 実のところ、一介の学生(しかも休学中)に過ぎないソウタだけでは、望んでも入手困難な物品は数多かった。


 だが、様々な資格を持ち、様々な処理を行う事ができる企業を経営しているリュウジが、全面的に協力してくれるとなれば話が変わる。


 これまでは欲しくても、規制が厳しいために手が出せなかった薬品等の調達も可能になるのだ。


「そして、うちの従業員たちも全員何かしら技術を持っているから、短期間だが、指導が行える。とにかく後のことは考えなくていいから、お前たちのやりたいようにやりなさい」


 ソウタがこれまで持ち込んだのは、書籍からの知識ばかりでソウタにとっても完全に理解できるものばかりではなかった。


 だが、各分野の専門家が直接指導してくれるというなら、一気に進捗できるのだ。


「本当に、本当にありがとうございます!」


 エリが涙を浮かべて頭を下げる。


「そして僕も、もう一度カ・ナンに出向こう」


 三人はカ・ナンに戻ってきた。だが、場所はいつもの場所ではない。


 王宮の隣、馬車を留め置く区画にあった、城壁に作られていた用途不明の門。そこから突如として現れたのだ。


「物資の搬送を行うなら、ここが便がいいだろう」


 リュウジが転移門を開いたのは、スクラップ工場の奥と、この王都の城壁に作られていた門だった。


 三人が突如出現した事で驚く衛兵たち。エリはリュウジも連れて王宮に向かい、幹部たちを招集するよう命令した。


「うんうん。ニライはきちんと清潔に保たれているようで何よりだ」


 道中の王都の様子を見てリュウジは満足げに頷く。


 リュウジはフードつきの白装束姿に、稲妻のようにくねった、透明なアクリル製の杖を手にしている。


 これが白銀の錬金術師リュウとしての姿だったのだが、その姿を見ると年長者たちは次々に驚きの声を挙げて地に臥して祈りを捧げ始めた。


「白銀の錬金術師さまだ!」


「再びカ・ナンをお救いに見えられたのだ!」


 三人が着替えを済ませて会議室に入ると、幹部たちは全員集合していた。そして白銀の錬金術師の姿を見ると、数少ない年配者である外務大臣バ・ラオムらが驚嘆の声を挙げて駆け寄ってきた。


「おお!リュウさま!」


「久しぶりだねバ・ラオム。随分老けてしまったな……」


「そういう貴方様は、あまり変わっていない……」


「いや、白髪もしわも増えたけどね」


 全員が席についたところで、エリが切り出した。


「ゴ・ズマの侵略軍が本国を出立し我が国に向かっている事を把握したので、この国難を乗り切るべく、私は自らに架した禁をあえて破り、生まれ育った日本に帰りました」


「そしてこちら。白銀の錬金術師リュウさまを、再びカ・ナンにお連れする事ができました」


 カ・ナン出身者以外には事の重大さは理解できていないが、カ・ナンの者たちは一様に驚嘆の声を挙げた。


「今回のカ・ナンの国難、その原因が分かったから、座視し続けるわけにはいかなくなったんだ」


「原因とは?」


「ゴ・ズマを統べるゲンブ大帝が、僕と袂を分かった実の兄だと判明したからだよ」


 その言葉に皆が驚きの声を挙げた。


「兄とは袂を分かったといっても喧嘩別れしたわけじゃない。兄は遥か東の果てで自らの国を持つ事を選び、僕は世界を見届ける為にカ・ナンに来た」


「カ・ナンに来て指導を行った後、僕は弟たちの住む故国に帰って、こちらには干渉せずにいた。だが弟の息子、つまり僕の甥のソウタから、兄が自分の国を手に入れて、あまつさえカ・ナンに攻めてくると聞いたからね」


 その言葉に、ナタルが反応した。


「リュウ殿、その甥というのは、タツノ宰相の事ですか?!」


「そう。タツノ・ソウタは私の弟、タツノ・タイガの息子だ。私の本名はタツノ・リュウジ。そしてゲンブ大帝の本名は、タツノ・ゲンイチ」


 リュウジはソウタが自らの意思でカ・ナンに助力してきた事、そしてゴ・ズマの皇帝が兄であった事は、昨日ソウタの口から初めて聞かされた事を告げた。


「ならば、大帝への説得はできないのでしょうか!?」


 バ・ラオムが縋る様に問うが、リュウジは首を振った。


「兄は言葉だけで折れるような男ではないんだ。例え友人、身内であっても、決心を変えようとすれば、相応の実力を示さなければならない」


「事実、兄はこのカ・ナンが、かつての友人たちの娘たちが治める国だと、自分の甥が手助けしていると知っても、侵攻を止める気はないと言い切っているからね」


「だから僕はそれを聞いて、三人に日本への帰国を勧めた」


「ですが私たちは断りました。私たちは断じてカ・ナンを見捨てません」


 その言葉に、一堂は感嘆の声を漏らし、特にカ・ナン出身の家臣たちは涙を流した。


「エリ女王の覚悟を聞いたから、僕は再びこのカ・ナンのために助力する事を決意したんだ」


 かつて疫病に苦しめられたカ・ナンを救い立て直した、白銀の錬金術師の助力が再び得られると聞いて、一堂は沸き立つ。だが、白銀の錬金術師は手で皆を宥めて話を続けた。


「だがそれには条件がある」


『条件?!』

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