第18話 明かされた事実 その1
翌朝。ソウタとヒトミ、そしてエリは、ソウタの伯父のリュウジの会社の事務所に来ていた。
「おお、三人とも揃って」
いつものようににこやかに笑顔を向けるリュウジに、三人とも険しい顔を崩さない。
「お久しぶりですおじさま」
「小学校以来か……。エリちゃんも随分綺麗になったね」
「ありがとうございます。今日は自分に架した禁を破って日本に戻ってきました」
世辞に軽く礼を言った後、エリは厳しい声で語る。
「リュウジ伯父さん、これを」
ソウタは鞄から、あるものを取り出して見せた。
「腕時計か……。ん、これは!?」
やはりリュウジは、この時計に見覚えがあるようだ。
「これはゲンイチ伯父さんから預った時計です」
「ソウタ、兄貴に会ったのか!」
さすがにリュウジも驚きを隠せなかった。
だがその驚きは、消息不明になっていた兄の生存がわかったというよりは、随分と便りをよこさなくなった身内が見つかった時の驚きのように思えた。
「ええ、ゲンイチ伯父さんはとても元気にしてました」
「で、兄貴は何をやっていたんだ?」
「はいおじさま。ゲンイチさんは異世界アージェデルで巨大帝国の皇帝に即位して、その世界を征服をするんだと、大軍を率いています」
まともな者なら、一笑に付すような突拍子も無くインチキ臭い話である。だが。
「そうかそうか!ゲンイチ兄貴、本当にやりやがったのか!はははははは!」
しばらく笑いが止まらないリュウジ。やはり彼は事情を知っているのだ。
「でも、エリちゃんと私の国、カ・ナンは滅ぼすって言われたんです!私たち三人は殺さないけど、他の人は皆殺しにするって言われたんです!」
「……。そうか」
「今までリュウジ伯父さんに隠してた事は謝ります。でも、教えてください!伯父さんたちやヒトミとエリの両親のことを!」
三人が詰め寄ると、リュウジはイスから立ち、窓の外に目線を向けた。
「わかった。洗いざらいお前たちに説明しておこう。いいかな、“ティア”」
伯父はここに姿が無い誰かに同意を求めている。すると虚空から声が聞こえてきた。
「そうね。この子たちに教えてあげてもいいでしょう」
すると伯父の背中から薄い紫の光が上ったかと思うと、銀色の輝く髪をした女性が現れた。
「あ、あなたは?!」
「紹介するよ。時の魔法使いにして僕の伴侶のティア。ガナ・ム・ティアだ」
「タイガとカナエの息子、ユキヒロとミーナの娘、そしてユーゴとマナの娘。直接姿を見せるのは初めてね。私は今まで、ずっと貴方たちの事を観察し続けていたの」
時の魔法使いティアは転移門を開く事ができる当世唯一の魔法使いであった。
彼女は本来の肉体を異次元世界に置いて、リュウジの肉体に魂を宿らせていたというのだ。
「私の師はさらに時間さえ超えて、より巨大な門を繋ぐことができたけど、私の力量ではあの位の門を繋げるのが精々なの」
今、カ・ナンと日本を繋ぐ転移門は、ティアの力で繋いでいるというのだ。
「じゃあ、貴方を通じてリュウジ伯父さんは全てを知っていたんですか?!」
「ああ。そういうことだ」
「私は観測するのが趣味なの。だけど最近はこちらの方が面白いから、こちらばかり見てるんだけどね」
リュウジは事の始まりから語り出した。
「秘境探訪同好会。学生のころ、ゲンイチ兄貴が立ち上げたサークルさ。僕たち三人兄弟と、ヒトミちゃんのお父さんのユキヒロ、エリちゃんのお母さんのミユキ、そしてソウタのお母さんのカナエの六人がメンバーだった」
「メンバーで登山していたときに、雨宿りしようと偶然見つけた洞窟の中に転移門があってね、それで向こうに行ったんだ」
「あれは私が気まぐれに開いた転移門だったの。適合した反応を持った者があんなに固まっているのを見つけたから、試してみようと思って」
こうしてティアの導くまま、彼ら秘境探訪同好会は異世界アージェデルに到着したのだった。
「話の腰を折ってすいません。ティアさん、貴方は他にも同じように転移門を開いた事はあるんですか?」
ソウタの念頭にあったのは、アユムや、サナの親たちの事だった。
「私が意図して開いたのは、あの時ぐらいよ。自然発生的に開く事は極々稀にあるけど」
「わかりました」
「話を戻そう。僕たちが出たのは、カ・ナンのずっとずっと東、ナタイと呼ばれる地方だった。そこには恐竜みたいなドラゴンやら怪物たちがうじゃうじゃいてね、地元の国はそいつらに随分苦しめられていたんだ」
「だから秘境探訪同好会はノリと勢いで、国々を苦しめる化け物どもを討伐することにしたんだ。兄貴がそのままリーダーになって、地元だけじゃなくずっと西から武者修行に来ていた連中も加えて総勢二十四人でな」
ソウタは似たような経緯で向こうに渡ってきた者たちが居た事を知っていた。
そして多くの者たちが、異世界で活躍するどころか、生き延びるので精一杯だったり、それさえ叶わずあえなく命を落としてしまう事例の方が圧倒的だったことも知っていた。
「それで、どれだけ生き残ったんですか?」
「全員生還したさ。そして腕と科学知識と魔法を駆使して、見事に怪物たちを一掃したんだ」
「すごい……」
「当然、みんな英雄になって凱旋したんだが、ナタイの偉い連中からは煙たがられてな、とうとう追討されることになっちまったんだ」
「僕たちは決断を迫られた。日本に帰るか、このまま残るか。残るにしてもナタイか、遥か彼方に向かうのか」
「それでお前の両親になるタイガとカナエは日本に帰った。僕とユキヒロとミユキは、カ・ナンに行くことにした」
「そして兄貴と他の連中は、自分たちの国を作るんだと、そのまま残った」
「どうしてリュウジ伯父さんはカ・ナンに?」
「僕はアージェデルがどんな世界なのか、早く見たかったんだ。あとの二人はもうその時には相手が居たからね。ユキヒロはミーナが、ミユキはユーマが」
「知っての通りユーマはカ・ナン王家でありながら武者修行の旅に出て、ミーナはその御付だったんだ」
一行は丸一年の旅路を経て、カ・ナンに到着したという。
「カ・ナンに着くと、盛り上がっていたから二人とも早々と結婚してしまった。そして僕は道中で出会った、いや、向こうから接触してきたティアと」
「白銀の錬金術師リュウには、私の伴侶になってもらうことになったの。私はリュウの記憶を辿ってから、こちらの世界の方に興味が湧いたのよ。でもじっくり観察しようと思ったら、肉体が必要になるの」
「白銀の錬金術師リュウ!伯父様だったんですね!」
エリとヒトミが驚きの声を挙げた。白銀の錬金術師リュウは疫病に苦しんでいたカ・ナンを救った英雄としてその名が知られている。
「まあね。とにかくそれでティアには僕の身体に居候してもらう事にしたんだ。そして僕たちは弟の波長を辿って連絡をつけて、カ・ナンと日本を繋ぐ転移門を安定して設置する事にしたんだ」




