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第17話 歴訪 その1

 宴から二日後。


 ようやく後片付けが終わったニライから、ソウタとヒトミは発った。


「新婚旅行が各国歴訪か。観光だけなら良かったんだけどなぁ」


 などとエリに愚痴ると、


「公費で回れるんだから文句言わないの!」


 と半笑いで返されてしまう。


 そう。ソウタとヒトミの新婚旅行は、周辺国から協力を取り付けるための歴訪が主な目的なのだ。


「O.K.わかった。まあ、そんなに期待しないで待っててくれ」


 とまあ、そんな調子で歴訪に出発した。


「それでは閣下、参りましょう」


 外務大臣のバ・ラオムの馬車が先導し、一行は進む。


 バ・ラオムはカ・ナンの要人において数少ない先々代から仕える年長者である。といっても年齢は50歳なのだが。


 彼はソウタが就任してから、タイミングの都合、中々顔を合わせることができずにいて、ようやく昨日顔を合わせることができた。


「お初にお目に掛かります宰相閣下。しかし……、似ておられますな……」


「といいますと?」


「白銀の錬金術師、リュウさまです」


 白銀の錬金術師は、エリの父親が即位した際にカ・ナンに現れた人物で、王に力添えして、国内の衛生状態を改善し、合わせて医療関係の知識や、学校制度の整備に尽力したという。


 エリとヒトミの両親が日本に居た事を考えると、彼もまた日本からの訪問者だったのではないかと思われたが、二人の両親はすでにこの世にいないため、正体を調べる術はなかった。


「リュウさまも未曾有の危機に瀕していたカ・ナンを救ってくださいました。きっと閣下もリュウさまと同じく、カ・ナンを救って下さるでしょう」


「そこまでできるかわかりませんが、手は尽くすつもりです」


 元々病気で伏す前から、宰相自身による各国歴訪は構想されていた。


 各国の様子を直接見聞し、あわよくば援軍、同盟にまで運べればいいのだが、これまでの複数回の使節が梨のつぶてだったことを考えると、自分が出向いたところで大したことは期待できないだろう。


「だけど、何もしないよりはマシだろうからな」


 今回はソウタにとって気心知れた海兵団でなく、妻の騎兵隊が護衛で同行する。


 あわよくばシシノ家の当主の座を狙えたであろう者たちの心中を察するに有り余るものがあったが、だからといって彼女を渡すつもりなど毛頭無い。


 一族会議に出向いた際は直接声を挙げる者は皆無だったが、明らかにほとんどの者の目に恨めしさが浮かんでいた。


「大丈夫だよ、お兄ちゃんお姉ちゃん。邪魔する奴がでてきたらボクが五部刻みでバラしちゃうからさ!」


「O.K.わかった。はしゃぎすぎるな。お前は宰相と将軍の護衛なんだから、自分から騒動起こしてくれるなよ」


 馬車のなかでヒトミと一緒に苦笑い。


 今までであれば、ヒトミは愛馬に乗馬して同行していたのだが、今回は国の代表としてなので、共に馬車に同乗である。


「乗り心地、良くなったね」


「まあな」


「我が国の馬車は、閣下が持ち込まれた機材で改良致しましたから」


 リンの言うとおり、馬車はこれまでの木製車輪でなく自動車のゴムタイヤと板バネのサスペンションに変更され、座席も同じく自動車用のシートを用いるなど、自動車のスクラップ等を使って、走破性と乗り心地が良くなるよう改造されていた。


 思慕する上司の新婚旅行に、車内で同席するのは辛いだろうと、今回の歴訪へのリンの同行を見送ろうとする動きはあった。


 だが、リンは毅然と歴訪に同行するのだと、車内にも同席すると言って聞かなかった。


「私は閣下の秘書官です。その務めを果たせなくなる事の方が、私には何にも勝る苦痛ですから……」


 過労で倒れたソウタの看病を、エリの命令とはいえ一切できなかった事が、よほどリンには堪えたらしい。


 予定は一ヶ月で周辺諸国を歴訪し、国王もしくは宰相らと会談して各国からの協力を取り付けること。


 護衛も合わせて全員騎乗としたのは、少しでも移動時間を短縮したかったからである。


「威厳出そうと髭伸ばそうかと思ったけど、これじゃ間に合わないな」


 会談に備えてソウタは付け髭。

 ヒトミは女性がショートカットで要人との会見に臨むのは厳しいと、バ・ラオムからの助言があったので、カツラを被って各国との会談に臨む。


 事前にバ・ラオムが手配を済ませてあったこともあって、会談に持ち込むことは各国ともスムーズだった。


 ソウタが手土産に用意した、真円で大きさが揃っている真珠のネックレスと、きらびやかな宝飾時計は、どこの国でも大好評だった。


 女の身でありながら騎兵を陣頭で指揮しただけでなく、自ら先陣を切って5倍以上の大軍を打ち破った武功を持つヒトミには、軍人たちばかりでなく王族貴族問わず女性たちから囲まれ、熱烈な歓迎を受けた。


 だが、歓迎こそされるものの、肝心の援助、援軍、同盟となると、自国の防衛で手一杯だと色よい返事はほとんど無く、かろうじて侵攻時に敵対しない事と食糧支援の約束を取り付けるに留まった。


「ねえお兄ちゃん、どこの連中も弱腰ばっかりだよね」


「まあな。前回直接戦わなかったところにしてみれば、まだ実感沸かないんだろ」


 せめての慰みは、各国でのパーティーの席で若手将校たちがこぞって二人に話を聞きに来てくれた事だった。


 彼らはヒトミから戦術を、ソウタから新技術や新兵器の話を求めてきた。


 他にも道中で話を聞きたいという者が毎日現れ、会談の無い日であっても、毎晩対話の日々が続いている。


「ああいった人たちが変えてくれたらいいんだけどな」

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