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第16話 祝宴 その4

 メーナがエリの背中に薄手の外套をかける。


「宰相閣下は陛下にも事あるごとに言われていたではありませんか。陛下が向こうに戻れと。戻らないなら自分もここに残って戦うのだと。シシノ将軍も陛下がおられる限り、残って戦うのだと。大変失礼ながら、頑固なところは負けず劣らずです」


「そっか……。頑固は一緒か。そうね、そうよね」


 振り返って笑顔をみせる。


「では陛下、私たちはこれにて」


 メーナとリンは退席する


「ええ、二人ともお疲れ様」


「陛下、人払いをしておきますので、どうか今夜は無理をなさらずに」


「……。ありがとう」


 メーナの察しに、エリは静かに感謝した。


 そのまま寝室に向かいベッドに静かに横たわる。そして愛用の水鳥の羽毛が詰められた枕を抱きしめて、呆然と天井を仰ぐ。


 リンも小走りして自室に急ぐ。あちこちから聞こえる酒宴の声が、夜空の光が、花火の残り香が、夜風の冷たさが、五感に突き刺さる。

 わき上がる感情を押さえ込める臨界点に間もなく達してしまうのがわかっているので、全力疾走に切り替える。息を切らして自室にたどり着くと、床へ飛び込むように潜り込み、頭からシーツを被って丸まった。




 その頃、宰相の屋敷の寝室にソウタとヒトミは居た。


 ヒトミは透き通るほど薄く白い絹の着物。白い身体が透けて見えているが、これが結婚初夜の花嫁の衣装という。


「昼は虹、夜は月光の女神さまか……」


「ありがとう」


 抱き寄せて自分の胸に月光の女神を優しく沈める。女神は嬉しそうに耳をソウタの左胸に押し当て、その鼓動を聞いて安堵している。


「ねえ、ソウタくん。私がソウタくんに助けてって電話で呼んだ時の事だけど」


「ああ、あの雨の夜か」


「ソウタくん、あの時、私に身体で支払ってもらうって言ったよね」


「ああ」


「今だから言うけど、私、期待してたんだよ。一緒に寝ようって、抱いてくれるかもって」


「あの時は、てっきりバケモノが徘徊する魔境にでも連れて行かれるんじゃないかって考えてたからな。だから荷物の準備で頭が一杯だった」


「他の日も、二人きりだった時に、何もしてくれなかったよね」


「やらなきゃいけないことで頭が一杯だったからな。あとそれが楽しくて仕方なかったからさ」


「……。それに、責任取れないのは嫌だったからな」


「だから他の人から誘惑されても応えなかったの?」


「ああ。でもまさか、拗らせたお前から襲われるとは思いもしなったけどさ」


「私があんな事してなかったら、やっぱりソウタくんは私を選ばなかった?」


 ソウタはゆっくりと首を振った。


「お前が望んでもない相手と強引に結婚させられるって聞いた時だよ。あれで、自分の中に押し込んでいたものが爆発したんだ」


「プロポーズした時も言っただろ。もしお前が俺が知らない、お前が望んでもいない相手と結婚するって聞いていたら、式典の最中に殴り込んでたぞ」


「海兵団と猟兵団みんな引き連れて、お前を奪って、そのまま王宮か転移門だな。お前が俺を拒絶しない限り、そのまま略奪婚だ」


「ありがとうソウタくん……」


 ソウタはヒトミの身体に残ってしまった矢傷を、指でなぞって口をつける。ヒトミは思わず小鳥のような声をあげる。


「俺の知らないところで、こんな傷跡作って死に掛けて……」


 そのまま、ヒトミを優しく抱きしめる。


「もうお前を手放したくないんだ。傷つけさせたくないし、取られたくもない。見ず知らずの認めてもいない奴や死神なんかには絶対に渡さない……」


 ヒトミをより強く抱きしめ、そのまましばらく呼吸の音だけを響かせる。

 外はまだ喧騒が続いていたが、警邏の者たちが鎮めに来たのか、徐々に静まっていく。


「宴会、終わったのかな」


「ああ。きっとまだ騒いでる人はいるだろうけど」


 窓から空を見上げる。花火の煙は祭りの熱気と共に澄んだ夜空に流され消えている。


「まあ、それはそうと……。俺たちはこれからだから」


 かしこまって、ベッドの上で二人とも正座して向かい合う。


「ふ、ふつつかものですが、よ、よろしくおねがいします!」


「こちらこそ。これからずっと、お願いします」


 互いに頭をぺこりと下げる。顔が上がると二人とも思わず笑い出し、笑い終わると唇を重ねる。

 すでに日本では幾度も重ねていた行為だが、このカ・ナンで行うのは初めてになる。


 同じ星空の下。同じ相手を想い、涙する者たちが、この王都に六人。


『もう我慢しなくていいんだ……』


 優しい腕に抱かれてたのは只一人。嗚咽を漏らして床に伏すのは、ほか五人……。

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