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第16話 祝宴 その3

 ほどなく。サナが経営する飲み屋の、頑丈な城門に用いられるほど分厚く強固な木の扉の向こう、細工が施された調度品が並ぶ特別な一室。


 ここはメリーベルがサナに依頼して、調度品と酒を持ち込んでこしらえさせた、彼女最優先、いや、彼女専用の部屋だった。


「かんぱーい!」


「……」


 メリーベルはアタラと二人で酒宴を開く。

 壁に並ぶのは半数以上が彼女が日本で購入して持ち込んだ、ラム酒、ジン、焼酎、ウイスキー、ブランデーテキーラ、ウォッカなどの蒸留酒の数々。


 今回メリーベルが選んだのはテキーラだった。


 二人とも、酒に強い事もあり、グラスに注いだテキーラを一飲みにしてしまう。


「っ、かぁ~~~!んまい!」


「……焼けるように熱い酒だな」


 メリーベルはそのまま二杯目を注ぐ。


「いいよアタラぁ。どれでもいいからさぁ」


「強ければ、強いほどいいな。今夜は特に」


「そりゃそうだよぉ。そのためのこの場所、この酒なんだからさ」


 二杯目も互いに一飲みにすると、次にウォッカを注ぐ。こちらもやはり一飲みに。


「……。良い具合だ。余計な事に頭が回らなくなってきた」


「……。同感だねぇ」


 飲み終えたグラスにさらに半分ずつ注ぐと、ウォッカの瓶に栓をしてテーブルに転がす。


「回らなくなってきて、ようやく素直になってきた……」


「おうおう、冷徹な狩人の目にもってヤツかい?」


「お前もだ。波濤万里をものともしない海賊さえ、か」


 グラスに雫が一つ二つ波紋を立てる。雫で若干薄まったそれを、再度口に運んで一飲みに。そしてグラスを下ろしたところで臨界点を突破してしまったようだった。


『!!』


 一人は闇夜の山野を駆け巡る猛獣の嘶きのように、もう一人は暴風の吹き荒れる最中に落ちた轟雷のように、言葉にできないものを腹の底から振り絞り始めた。


 店内に他に客の姿は無い。

 店主が入り口に陣取って大きな酒瓶を開けて無料で振る舞い、店内はしっかりと戸が締められ中からの音が外に漏れないように配慮されていた。


 奥の部屋の様子を察したサナが店主に耳打ちすると、店主は黙って頷き二人で道行く酔いどれ客に酒を振舞い続けた。


 結局、二人は朝日が昇るまで奥から出てくる事は無かった。




「無事、終わりました。花火のほうも事故も無く安心しました」


 メーナが報告する。


「まあ、こんなところね」


 満足げに頷くエリ。


「本当にお二人とも……、素晴らしいお式で……」


 リンの頬に涙が光っていた。


「貴方、ソウタのこと好きなんでしょ?」


「閣下は元来眼が悪かった私に、世界が鮮明で、美しいこと、それに触れる機会を与えてくださいました……」


「その眼鏡、公費じゃなくて、ソウタの自腹だったんだっけ。結構したでしょうに……」


「分不相応は承知していますが、あれほど素晴らしい方に、こんなに目を掛けて頂けて……。つい思慕を……」


「まったく、罪作りな男ね……」


 エリはハンカチを差し出す。


「へ、陛下!!私ごときにこのような!」


「いいから使いなさい。この件では私たちは同志なんだから」


 驚きひれ伏すリンの目元を、エリは優しく拭った。


「しかし陛下、何故将軍の大任についていたシシノ将軍だけを介護に出されたのですか?それこそニヨ秘書官を同行させても」


 メーナの問いにエリは思い返しながら答える。


「物心付いたときから私たち三人は遊ぶときもずっと一緒。そして昔から、ずっとずっと昔からヒトミはソウタのことが大好きだったの。ソウタのほうは全然感づいていなかったんだけど」


「私がこっちに来てからも二人で同じ学校通っていたんだけど、関係全然進展してなかったし、ヒトミも何にも言えないままこっちに来たって聞いたから、その時はこっぴどく叱ったのよね。最後になんできちんと気持ちを伝えなかったの!って」


「言い出せないまま抱え込んで、こっちに来たら問答無用で婚約者決められてて、だから余計に言えなかったって。本当にヒトミはバカなのよ」


 窓側に立って星空を見上げる。


「それでこの間の戦いで一番危ないところに率先して突っ込んでいって、私のところに帰ってきたら力尽きて。その後うなされながら、ずっとソウタのことうわ言で呼んでたのよ」


「確かに。あの時は誰のことを呼んでいたのかわかりませんでしたが……」


「だからヒトミの意識が戻って、ソウタを呼ぶって言い出した時は、そのままヒトミが向こうに帰ってしまえばいいって私は考えてたの」


「命まで賭けて義務はきちんと果たしたのよ。命を危険に晒してまで戦ってもらおうなんて、私はヒトミに望んじゃいなかったの。相談相手になってくれたらいいなって、それだけだったの」


「それどころか、そもそもこっちに来る必要だって無かったのよ。お母さんがこっち生まれだったからって、私がここに居るからって。命張るほどのことなんかじゃ絶対にないのに」


「だからあのような命令を下されたのですね」


「二人とも、命落としかけたのに、それでも私がいるからって……。うれしいけど、うれしいけど……。私のためにそこまで意地張らなくていいのに!」


 臣下二人の前で、エリは肩を震わせていた。


「お言葉ですが陛下、お三方はやはり似た者同士です」

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