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第13話 赤銅の都 その7

 その夜。晩餐会を終えた後、ソウタは真っ直ぐに屋敷に帰っていた。


「ようやく一息つける……」


 久々の入浴を終えて寝室のベッドに転がるソウタ。


 カ・ナン湖への視察からセキト経由でクブルに向かい、大口融資を獲得してカ・ナンに戻るまで約一ヶ月間、本当の意味で気が休まる日は無かったからだ。


 この日の夜は山中にありがちな急な冷え込みが予想されていたので、屋敷の者たちが気を利かせてペチカに火を入れてくれていた。


 今まで体感したことのない暖かさに心の底から安堵し癒されるソウタ。


「今回は本当に色々あったな……」


 横たわったソウタが思い出すのは、山から海に駆け回り、特に海で初めて戦闘に参加した事。そしてゴロドに襲撃されて、命の危機に瀕した事。


「あの二人が居てくれればこそ、か……」


 改めてアタラとメリーベルの勇姿を思い出す。


「……」


 二人の勇ましい活躍の姿。


 海を駆けて矢を放ち、海賊船を次々に仕留めていったアタラ。


 海賊船相手だけでなく、逃げ落ちたゴロドに向かって、一切怯みもせずに鉄扇一本で立ち向かい、ゴロドを打ちのめして片づけて見せたメリーベル。


 正に女傑と呼ぶに相応しい活躍だった。


 だが直後に脳裏に浮かぶのは、そんな二人の、女としての艶めかしい姿だった。


 カ・ナン湖に向かう途中の泉で見せつけられた、神々しいほどに白く美しいアタラのあられもない裸体。


 そしてクブルでの最後の夜に、触れられ、そして触れてしまったメリーベルの柔らかく艶めかしい肉体と、彼の身体を這った彼女の指先と舌の感覚。


 他にもクブルでは現地の美女たちから夜な夜な際どい姿を見せ付けるなどして、ソウタは誘いを受けていた。


 これらはすでにアンジュと親しくなっていたバンドウ家ではなく、それ以外の商家からのハニートラップであったので、ソウタはこれらを全て退けていた。


 だが、女性への性欲を人並みに持っていたソウタには、これらを決然と退けるのは身が引き裂かれんばかりの苦行であった。


 性欲を発散しようとして他の土地でハニートラップに引っかかるのは論外だが、アタラにせよメリーベルにせよ、ソウタに積極的に迫ってくる女性たちは押しも押されぬ絶世の美女ばかり。


 恐らくソウタが望みさえすれば、彼女たちはソウタの欲望を受け入れ、肉体関係を許容してくれるのだろう。


 彼女たちだけではなく、リンは国内視察の宿泊の際に、自分が夜伽しても良いと意を決して告げてくれた。ズマサで最大手の店を切り盛りするサナからは、店に来店すれば望む相手と最優先で遊ぶ事を、何なら派遣して遊んでも良いとさえ言われていた。


 つまりソウタは、その気になれば思うままにバラ色の肉林生活を送る事が可能なのだ。


 だが宰相である自分が彼女たちに手を出す事で、カ・ナン王国の、何よりエリの評判を落としてしまう事をソウタは特に恐れていた。


 麗しき若き女王が治める国の宰相が、色に狂ったケダモノであっていいはずがない。


 とはいえ、こちらで発散できないからといって日本に帰った時に発散するのは、ヒトミが同伴しているので不可能という状況でもあった。


 故に発散する場所と方法は自ずと限られてしまう。


「……。クソっ」


 ソウタの寝室の隣はペチカを焚く部屋になっている。


 最初の火入れは男の使用人が行っていたが、この日の夜間に火が消えないように番をするのはファルルが買って出ていた。


 火の明かりで勉強ができるという理由もあって、誰の反対もなくこの仕事を任されたのだが、彼女が志願したのはもう一つ理由があった。


(気付かれてないよね……)


 この部屋の道具入れになっている小部屋は彼女がきれいに整理していた。薪をくべたので当分火が消えることは無いのを確認して、その戸を開けて小部屋に入る。


(今夜は閣下は何をされるのかしら……)


 実はこの部屋にはソウタの寝室が覗き見できる小さな隙間が空いていた。この事に気が付いたのは屋敷の中でも彼女だけ。片付けの際に偶然発見してしまったのだ。


 それからファルルはタイミングがあった時に、ソウタが寝室で何をしているのか覗き見るようになっていた。


 多いのは彼女が知らない音楽がどこからともなく聞こえてきたり、小さな明かりに人などが写っている様子だった。


 これはソウタが寝る前にタブレットで音楽や映像を再生して見聞きしていたのだが、この日は様子が違った。


(?)


 この夜、彼女が見たのは不思議な光景だった。


 ソウタはズボンを下ろしてベッドに腰かけ、股間からそそり立った不思議なものを、息を荒げて扱いていたのだ。


 だが、そういった事への知識の無い彼女には、その行為が何なのか全く理解できなかった。


「……くっ!」


 ソウタが息を荒げるだけでなく小さいが声まで上げた事に驚くファルル。


 やがてソウタはゆっくりと息を整え、立ち上がってズボンを履きなおすと部屋から出た。


 慌てて彼女も焚口の前に向かうが、ソウタは厠に向かったようで、すぐに戻ってくると、そのまま明かりを落として眠ってしまった。


 やがてガラスの窓から月明かりが差してソウタの顔を照らす。


 ファルルはその無防備な笑顔を眺めることができて嬉しくなったが、先ほどソウタが何をしていたのか、疑問を抱えてしまった。


 ファルルがその行為の意味を知ったのは数週間後のこと。

 使用人仲間との雑談の席で、他の屋敷に勤めていた友人から聞いた話からであった。


 何でも勤め先の騎兵団員の若党と恋仲になり、その若党がズマサで学んできた技術を二人で行ったという話だったのだが、その具体的な内容を聞いてようやくファルルの疑問は氷解したのだった。


(わ、私はあの時、閣下の大変な秘密を覗き見てしまったんだ……)


 以降ファルルは、ソウタが屋敷に戻った時は積極的に母屋のペチカの番を買って出るようになった。


 ソウタは自分の寝室が、そこでの行いが彼女に覗かれていたことを知るのは随分と後になってからであった。

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