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第13話 赤銅の都 その6


 翌日。出向の時を迎えたソウタたちを、リオウ財務官らが見送る。ソウタたちが乗り込む船は往路で用いた船の倍以上の大きさの、クブルでも最大級の船舶だった。


「イコエ殿。こちらがゴロドの賞金になります。いやはや、まさかゴロドが生き延びて、それも貴方の命を狙って襲撃してくるとは。我々の警備の至らなさ、改めてご容赦ください。そしてお手並み、まことにお見事でありました」


 渡されたのはゴロドの賞金と詫び代を合わせた金貨入りの箱だった。


「トウザ様は海賊にはお強い方ですから」


 詳しい事情を知らないアンジュは、ソウタがまた一つ海賊相手に立ち回った武勇伝が増えたと上機嫌になっていた。


 そのゴロドはメリーベルによって体中を文字通りに破壊されながらも、辛うじて虫の息で生きていた。


 だが治療どころか、港の入り口に吊るされた人の形をした檻に生きながらに入れられ、今まさに最期の時を迎えようとしていた。


(チクショウ……チクショウ……)


 絶命寸前のゴロドが最期に目にしたのは、出港する船団の先頭を行く黄金のカード号。


 今の彼にできることは、自分をこんな目にあわせたカ・ナンの一行への呪詛だけだったが、その最期の呪詛は彼の命の灯火と同時にあえなく海風に吹き消されてしまった。


 かくして出港した船団。


 船数は往路の倍以上となり、求めた銅は当初の見込みの三倍以上の量。


 その上、今回のセキトからの取引の上前の1/3に、カ・ナンの例年の総収入をはるかに上回るクブルからの膨大な融資の土産付きである。


「さっきの賞金、俺じゃなくてメリーベルの取り分だけど」


「ありがとう閣下ぁ……。だけど素直に喜べないよぉ」


 今までならこれほどの大成功を収めていれば、メリーベルは数日間は上機嫌なはずなのだが、この日は最初から静かに、どこか心ここにあらずの様子だった。


 だが、部下たちは誰もそのことを指摘しもしなければ口にも出さない。昨夜のことは彼らには知れており、誰もが彼女を気遣って、見て見ぬふりをしていたのだった。


 ともあれ船団の帰路は襲撃もされず嵐にもあわず、全く持って順調。丁度一週間でセキトに帰港した。


「戻りの船旅は事もなしだったな……」


 船旅の間は、カ・ナンと定時連絡を行う以外は、ソウタにできることはほとんどなかったので、のんびりとした休暇となっていた。


「さて、陸に上がったら活動再開だ」


 セキトへ到着したクブルの使節団は、セキトへの挨拶もそこそこに、そのままカ・ナンに向かう。


 使節団はクブルからの大量の銅のインゴッドと機械系の技術者が同行していた。


 すでに情報を得ていたカ・ナンは国を挙げてクブル使節団を受け入れた。国境からヒトミが着飾った騎兵団を率いて護衛に当たり、女王であるエリが自ら王都ニライの城門で出迎えする歓待ぶりだった。


 そしてソウタは早馬、いや、こちらに持ち込んでいた原付バイクに乗って一足早くカ・ナンに戻っていた。


「流石です閣下!これで我が国の慢性的な資金と資源不足の解消に光明が差しました!」


 例によって同行できなかったリンは、心からの賛辞を上司に捧げる。


「まあ、本当に今回は大成功だったよ」


 ソウタは宰相としての正装を整えて、協定の調印式に臨む。


「カ・ナン王国宰相、タツノ・ソウタです」


 使節団に一礼するソウタの姿を見て、クブルの使節団から驚きの声が挙がった。


 ガネ商会の若き筆頭イコエ・トウザが、カ・ナンの宰相という噂は聞き及んでいたが、それが事実だと満天下に明かされたからだった。


「トウザさま、何とお凛々しい……」


「私はタツノ・ソウタですよ、バンドウ・アンジュ殿」 


 そんな二人の様子をヒトミは複雑な表情をして見ていた。


 かくしてカ・ナンとクブルの協定が無事に締結された。電化を中心にした技術移転を条件に、クブルからカ・ナンへの膨大な資源・資金の援助が正式に行われることになったのだ。


「ソウタくん、これでみんなの食べ物や装備のことも……」


「ああ。大分心配しなくてよくなったな」


 調印式の様子を見ながら、ヒトミがソウタに話しかけ、ソウタも安堵して答える。


 これで当面、物資の調達のために必要な資金と、食料などの物資の確保の目処が立ったのだ。融資である以上、いずれ返済せねばならないが、金策そのもののために駆け回る必要性は薄れることになる。


 協定の締結が無事完了すると、使節団は一泊して後、技術者たちと共に電化事業の現場に向かう。ソウタは宰相として、引き続き使節団を案内する事に。


「凛々しい女王陛下がお治めする流麗な都に、豊かな森林と清涼な水。確かに訪問してよかったですトウザさま!」


「そう言ってくれるとうれしいよ」


 上流で銅の大規模な採掘と精錬が行われているクブルでは、徐々にではあるが環境汚染が問題になっており、清涼な水は他から持ち込んでいたほど。


 自国や各国の港町を頻繁に回っているアンジュにとって、山の奥にあるカ・ナンのような国に来るのは初めての事だった。


 そしてニライでの最初の夜の晩餐会。


 エリと話をしたアンジュは早速エリと意気投合し、二人で大いに盛り上がっていた。


 続けてナタルを紹介されると、その境遇にいたく同情し、思わず貰い泣きしてしまう。


 次にヒトミを紹介されると、ゴ・ズマを蹴散らした果敢な女将軍のイメージとは程遠かったので、そのギャップに関心していた。

 対してヒトミにとってはアンジュは苦手なタイプだったようで、戸惑い気後れしているようだった。

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