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第13話 赤銅の都 その3

 ソウタはパーティを終えると、遅くならないうちに引き上げて宿泊先の部屋に戻っていた。


 アンジュは良家の令嬢だけあって、パーティが終わるとそれ以上ソウタを引き止めずに送り出してくれたのだ。


 なのでこれ以上遅い来客は無いだろうと、部屋でゆっくりしていた。


「さて、明日からまたしばらく船だな……」


 二日酔い対策の薬をブドウジュースで流し込むと、窓からクブルの町を見下ろす。


 この方面では最大規模の港町だけあって、祭りでもないのにまだまだにぎやかな様子である。


 ドアを叩く音がした。開けてみるとメリーベルが酒瓶を抱えて立っていた。


「なあ閣下ぁ、一杯つきあってくれよぉ」


 ソウタは溜息をついてメリーベルを部屋に入れた。


 彼女が持ってきたのはカ・ナンやセキト、そしてクブルの酒ではなく、日本で購入した日本のボーディという銘柄の国産ウイスキー。丸っこい独特の瓶が特徴の、少々値が張るウイスキーである。わざわざ持ってきていたのだ。


「閣下と日本に行っていろんな酒を仕入れて飲んできたけどさ、アタシはこいつが一番お手頃で気に入ってるんだよぉ」


 日本で流通している酒は、こちらの同価格の酒よりも質がはるかに安定していて、それでいて味も良いのだ。


 ソウタもセキトで出された酒を思い返すと質が安定しているのは間違いないと思うところだった(ソウタはカ・ナンでは酒をほとんど口にせず、クブルでは賓客待遇なので常に最高級の酒が供されていた)。


「クブルでの成功、かんぱーい」


「かんぱーい」


 ソウタはウイスキーの水割りをお猪口程度の小さなガラスコップに少々。メリーベルはグラスに一杯。どちらも1/4ほど水で薄めていた。


「旨い酒だねぇ……。いやさ、この酒はもちろん、こうやって飲めるのが良いんだよ」


「この部屋、品はいいと思うけど、豪勢というほどじゃないと思うけど」


「そうじゃないよ。閣下のお陰で、アタシら赤いスペード団は壊血病で全滅しなくて済んだし、カ・ナンの海兵団になれたし、ニホンで良い思いさせてもらってこの酒も手に入ったし、今度は新しく船も手に入ったし、本当にいいことづくめだよぉ」


 すでに酒が入っているらしく少々顔が赤らんでいる上に、口調も回りが悪くなっているが、日本での旅行を思い出すに、メリーベルにとってこの程度は軽く酔った程度で、酩酊には程遠いことはわかっていた。


「まあ、そういう星の巡りだったってことさ」


「何だい、いつになく感傷的じゃないかい閣下ぁ……」


 ぐいっとグラスのウイスキーを飲むメリーベル。


「そういやそうだねぇ。今回はシシノ将軍も、リンも同行してないからねぇ」


 赤らんだ顔でニヤニヤ笑いながら、距離を縮めてくる。


「で、閣下は誰が本命なんだい?」


「本命?」


「しらばっくれちゃって、まったく」


 飲めと手でせかされたので、ソウタは小さなグラスを一気に飲み干す。琥珀色の液体が喉から胃を焼く感覚が痺れるようだった。


「幼馴染のヒトミちゃんとエリちゃん、そして側近のリンちゃん。アタシが見る限り、タツノ・ソウタの本命は、この三人の誰かなんだよ」


「ちょ、ちょっと待て……。ほ、本命って」


「なに~、しらばっくれちゃうのぉ?」


 頬を指で軽くつつかれるソウタ。今しがた入ったウイスキーがぐるぐる回って思考が混濁してくる。


「女王やってるエリちゃんはともかく、ヒトミちゃんとリンちゃんは、日ごろから仲良く傍に置いてるじゃないかい」


「それと一体どういう……」


「アタラから聞いてるんだよ。閣下に裸で迫ってもはぐらかされたってね。アタラほどの美女に裸で迫られてはぐらかすんだったら、女に興味が無いか、本命に操立ててるかのどっちかしかないじゃないか」


「な、ちょちょちょっと……」


 思わぬ質問に酒が入っていたこともあって、思い切り取り乱してしまうソウタ。


「大体ねぇ、閣下はいい年してるのに、ここやセキトだけじゃなく、ニライやズマサでだって女遊びをしてないじゃないかい。男なんてのは、どこだろうと(酒を)飲む、(博打を)打つ、(女を)買うって相場が決まってるんだよ!」


 メリーベルはさらにグラスにウイスキーを注いで口に含む。飲んで吐き出した息は、酒と女の色香が強い。


「んで閣下ときたらどれもしない!男好きな様子もない!こうなると年増のアタシとしちゃあ、気になっちまうのさ」


「な、なにをだよ?」


 メリーベルは鼻と鼻が触れてしまうギリギリまで顔を近づけてきた。


「閣下が本当に男なのか、ってねぇ!」


「?!」

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