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第13話 赤銅の都 その1

 ソウタたちのクブル滞在は、荷降ろしと、入手した銅のインゴッドの積み込みなどで時間が掛かるため、一週間に及ぶ事になった。


 その間、ガネ商会の代表であるイコエ・トウザは、エリ女王からの全権委任状を託されたカ・ナンの代表として、クブル各地の視察だけでなく、財界・政界の要人とも会談を行っていた。


 イコエ・トウザは小国の代表という弱い立場でありながら、ぞんざいな扱いを受ける事は一切無く、常に賓客として扱われていた。


 もちろん、理由あっての事である。


 一つはここ最近、カ・ナンから極めて高度な機械時計などが売りに出され、セキトを起点に各国でも評判になっていたが、その仕掛け人がイコエ・トウザである事が知れ渡っていたことだった。


 その仕掛け人がクブルに出向いたと聞いて、評判の機械時計だけでなく、他にも革新的な品を持ち込むかもしれない。

 その時には我こそが窓口になろうと、他の商家も大小問わず接近してきたのだ。


 そしてもう一つは、クブルのナンバー2のバンドウ家の令嬢にして、自身も積極的に事業を手がけてるアンジュが常に同行していたことだ。


 イコエ・トウザは小国の代表というだけでなく、バンドウ家がバックについた事。


 そして妙齢になったアンジュの伴侶候補、すなわち将来のバンドウ家の当主候補になるのではと噂されていたからだ。


「よぉ若旦那!今日も“嫁さん”とご一緒かい?」


 今朝もメリーベルがソウタを茶化してくる。他のカ・ナンからの同行者たちからも似たような反応を示されていた。


「おいおい……。相手が相手だから、こっちは気遣いしてるんだぞ」


 正直なところ、ソウタはどうしたものかと困惑していた。


 アンジュからストレートに好意を寄せられる事が嫌なわけでは全く無いのだが、昨日カ・ナンと直接無線でエリと会話したときは、その事に触れられて茶化されたりしたからだ(しかも決してアンジュに気を悪くさせないように立ち回れと注文さえつけられた)。


「まあ、贅沢な悩みだからな……」


 イコエ・トウザは出向く場所で必ず歓待されているが、彼はある小国の財務官の一行の様子を目にしていた。


 彼らは金の無心に商家を回るものの、面会すらなかなか許してもらえず、無為に過ごしていたのだ。


「トウザさま、あの国が無心に来るのは、王族の、特に王妃の贅沢を満たす為だとか。国土は小さく、作物も並み、鉱物も木材資源も無いので、目先の収入のために領民を傭兵や農奴として売っていると言われているような国なのです。相手にされないのは当然です」


「本当なら酷い話だ……」


 ソウタはカ・ナンの、特に女王であるエリの暮らしぶりをアンジュに語った。


 国難に直面し、少しでも国防にお金を回さねばならないからと、王宮は儀礼、対外面談に用いる場以外は切り詰め、自室の調度品も必要最低限に。


 食事も調理に手間は掛けているが、高価な食材は用いさせず、国内の市場で求められるものに限るよう指示していた。


 そして年頃ならば位に関わらず求めるであろう、衣類や装飾品は、儀礼用は維持するものの、プライベート用は購入せずに親からのお下がりなどをそのまま使うか、仕立て直して着ていたのだ。


 エリからは特に贅沢を戒めるお触れは出していなかったが、自身の姿勢が知られている。


 それだけでなく、彼女に最も親しいヒトミからして贅沢に程遠いどころか、日頃から軍服に身を包んで執務に教練に回る日々を送っているのも知られていたので、例外であるズマサ以外で放蕩する者の姿を見ることはできないのだった。


「それならばまさしくエリ女王こそ、国を統べる者の鑑です。私もお目にかかりたい……」


 ソウタの口から話を聞いて、アンジュは自らがカ・ナンに赴く決意を固めていた。

 ともあれ、その間にまとまった大きな話は、黄金のカード号に積み込んでいた船舶無線機を使って、エリの下に報告される。


 協定の内容は前述したとおり、クブルからカ・ナンへの膨大な資源・資金の援助と、その見返りとして通信・電力技術の移転。


 そして秘密協定として、万一の際にエリをはじめとする要人の受け入れと、クブルで匿えなくなった場合のさらなる亡命先の確保、そしてその際の脱出船の手配が約束された。


「エリのヤツ、この話は知ったらキレるかもしれないけど、打てる手は打っておかないとな……」


 協定の正式な書面での締結はカ・ナンで行うことになり、クブルの代表団も含めるため、帰りの船団は往路の倍以上の15隻に膨れ上がることになった。

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