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第12話 波涛を越えて その1

 翌日。準備が整ったのでクブルに向かう船団が出航する。


「しかし、敵は大型1、中型5。こちらの船団は5隻で、戦闘に参加できるのはこの1隻だけで勝てるのか?」


 乗り込む前にアタラがメリーベルに問うが、彼女は笑って答える。


「なーに、数だけで勝負が決まるなら、アタシらはとっくに魚のエサになってるさ。アタシら赤のスペード団は少ない数で大戦果がモットーだからねぇ。それはアンタも一緒だろ?」


「確かにそうだな。私も、いや、カ・ナン自体がそうだと言える」


 かくして船団は出港した。先頭を行くのはカ・ナンの国旗と赤いスペードの旗を掲げた“金色のカード号”。この船にメリーベル以下の海兵団の主だった者たちが乗り込んでいる。後続の4隻も一塊になって続く。


 先頭を行く黄金のカード号には、日本から調達してきた様々な装備が搭載されていた。

 遠くを見る為の双眼鏡はもちろん、オイル充填型の方位磁針に、天体の高度測定、自身の位置の割り出しなどに使われる六分儀などの航海用具だ。


 海鳥をも探知できるレーダーであれば、小型の木造船の探知も十分可能というので、レーダーの導入も検討しているが、設置に時間が掛かると思われたので、今のところ購入を見送っている。


 ともあれ用具については、カ・ナン湖での船舶の運用で用いているので、習熟は完了していたが、実際に海で使うとその性能の素晴らしさが実感できると、使う者は口々に言う。


『メリーベル、そっちは順調そうだね』


『ああ若旦那。久しぶりの海だよ。本当に楽しくて仕方ないねぇ』



「トウザ殿、先ほどからうわごとを話されていますが?」


 アンジュがソウタに尋ねてきた。何かを手にして空を見ながらうわごとをつぶやいていたからだ。


「ああ、これはトランシーバーという機械で、遠く離れた相手と会話ができるんだ」


「本当なのですか!?」


 ソウタは後ろの船から、先頭を行くメリーベルに無線機を使って交信していた。


 ソウタは後続船団の旗艦、バンドウ家の姉弟が乗る大型のキャラック船に、アタラとシーナと共に乗り込んでいた。カ・ナンの者が全員黄金のカード号に乗っていては、何かあったときに見捨てられると思われるわけにはいかないからだった。


「その機械があれば、伝令を出さなくても意思の疎通ができるのですか?!」


「この機械は、あまりに遠く離れていると使えないけど、肉眼で見える範囲なら会話ができるんだよ」


 アンジュは令嬢だが、商才を見込まれて若くして船団の代表を任された才女である。情報を伝令なしで瞬時に届けられる事の意味をすぐに理解して驚いたのだ。


「日本だと、電話越しだとこっちの言葉は翻訳されなかったけど、こっちで使う分には大丈夫なのか」


 カ・ナンに試しに映像プレイヤーを持ち込んだが、こちらは翻訳されていなかった。よくわからない翻訳魔法だと、首をひねるソウタ。まあ、無線が楽に使えるならその方が良いわけだが。


 なお、黄金のカード号には、船舶無線と発電機を持ち込んでおり、これを使ってカ・ナン本国とも通信が可能になっていた。


 甲板の上ではシーナが剣玉で遊んでいた。才能があったので、少々揺れる甲板の上でも難易度の高い技を次々繰り出して、見物していた船員と、特にジュシンを大いに喜ばせていた。


「実は海に繰り出すのは初めてなのだが、この辺りの波はカ・ナン湖と大差は無いのだな」


 アタラが波を見ながら呟く。


「ああ。この位の波なら、こいつは十分使えそうだ」


 ソウタはあえてこの船に積み込んだ品に目をやる。どうにも大型の機械のようだが、当然、この船内にこの機械が何なのか理解できる者はいなかった。


 出港してから五日が経過していた。この間、風も海も荒れず、航海は全く持って順調だった。


「今のところは、すれ違う船も漁船だけだな」


 ソウタはのんびりひと欠伸。船酔いには強い体質だったのも幸いして、ここしばらくはのんびりとしたクルージングの日々だった。


 楽しみといえば、食事とシーナが繰り出す技の数々。


 食事は長距離航海の場合は、二度三度と焼き上げてきつく水分を飛ばしきったハードビスケットや、野菜、肉、魚の塩漬けか干物ばかりになってしまうが、今回は一週間ほどの船旅なので、陸上と大差ない食事が出される。


 何よりソウタは船団主であるアンジュやジュシンの賓客ということで、彼女たちや船長と同等の食事が供されるので、他の船員たちより上等なものになる。

 具体的には麦系の穀物で作られた焼きたてのパンやスープ類の具の優先、食後の新鮮なフルーツなどだ。


 なお特別待遇というと、ソウタにはベッド一つ分だけだが個室が与えられていた。この船は船団の中はもちろん、クブルを含めたこの地域では最大級の船舶だが、個室が与えられているのは船長以外は船団主の姉弟とソウタだけなのだ。


 シーナは剣玉だけでなく、ヨーヨーにも精通していたので、この船一番の人気者になっていた。特に夜の帳が下りてからの、プラスチック製で発光ギミックを装備した剣玉やヨーヨーの大技のコンボは、驚嘆するような腕前だった。


「シーナ、それだけできるなら大道芸でも食べていけそうだね」


というと、


「私ね、もしもお父さんの商売が失敗しちゃって一文無しになっちゃったら、起死回生のお金稼ぎにしちゃうかも。でも私はこれでご飯たべようなんて思わないよ。ちゃんとお商売したいもん!」


と、力強い返事をかえすのだった。

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