第11話 雷の力のために その4
早速、船団主と会見に向かうソウタ。
「はじめまして。私はカ・ナンのガネ商会の筆頭、イコエ・トウザと申します」
「はじめまして。わたくしはバンドウ・アンジュと申します。貴方のお噂は聞き及んでおります」
クブルの船団の代表は女性だった。
アンジュはソウタと同年代で、淡い紫色の流れるような長い髪が美しい、大商家のご令嬢そのものの出で立ち。
だが、世間を知らずに育てられたのではなく、すでに自ら率先して何度も船団で航海に出たり取引を行ってきた経験があるためか、傲岸ではなく物腰柔らかな口調であり、かつ経験と自信に裏打ちされた力強さがあった。
その傍らには気弱そうな男の子が、アンジュのスカートの袖を掴んでいる。
「こちらは弟のバンドウ・ジュシンです。ほら、お客様にご挨拶なさい」
「は、はじめまして」
弟のジュシンは姉より一回りほど年下の少年。
どうやら彼が船団に加わって航海に出たのは初めてだったらしく、思わぬトラブルで消耗していた上に、初対面の相手に警戒していたのか、姉とは対照的に自信なく怯えているようだった。
クブル共和国は、大まかに言えば、商店ごとの売り上げに応じて税金を徴収し、その金額に応じて政治的発言権が変動する共和制を採用していた。
ただ、元首の永久独裁権は否定されていて、任期は連続十年。しかも同じ家から連続で輩出することは禁じられていたので、一家のみで国を支配することはできないが、自然、有力な商家は固定されてしまうので、おおよそ五家で政治を回しているという。
この二人は、クブル共和国でも指折りの有力商家、バンドウ家の当主の孫たちであるという。
そして当主はクブルのナンバー2である財務官に就任していることから、彼女たちはクブルの要人と言って差し支えはない。
「お恥ずかしながら、私たちはクブルへの帰路を海賊たちに妨害されてしまい、このセキトで足止めされているのです。私たちだけであれば、陸路で帰れるのですが、積荷を持ち帰れず放置していくわけには参りません。ですが護衛のあてがないのです……」
船団主としては荷を届けねば信用問題になるので、何とか出航させたいが、護衛が確保できずに悩んでいるとのことだった。
「承知しました。我々が護衛をお引き受けしましょう」
笑顔でソウタは護衛を引き受けると告げた。
「トウザ殿、本当に大丈夫なのですか?」
「中型で足の速い船を用意して下さい。カ・ナンは内陸の国ですが、今は多くの“船乗り”を抱えています。彼らに船さえあれば、必ず護衛の任を果たしてくれるでしょう」
「ええ。元海賊をカ・ナンが大勢引き受けたとは聞き及んでおります。目には目を、海賊には海賊を。確かに有効かもしれませんね」
海賊と聞いて怯える弟の頭を撫でながら、姉は愛らしい笑顔をソウタに向ける。
「我々の下についているのは、見た目は確かに荒々しいですが、義理堅い者たちばかりです。彼らは陸路で荷運びの護衛を果たし、私も何度も窮地を救われてきました。決して同じ海賊だからと、積荷や雇い主を売り渡す事は無いでしょう」
確信に満ちた笑顔をアンジュに向けるソウタ。
「護衛の見返りはなんでしょうか?」
「無事にクブルに着いたら利益の三割と、帰りの便で我々の荷を最優先にしてくれるのが条件です」
「相場よりは確かに若干高い気がしますが、各国の海軍は動かず、護衛の引き受け手も無かったところですから……」
アンジュは軽く目を瞑り、右手の指を泳がせ始める。
「わかりました。護衛用の船の手配をすぐに行いますので、なるだけ早く出港できるようお願いします」
「ありがとうございます」
アンジュの手配は驚くほど早かった。半日も経たないうちにバンドウ家からの使いが来て、船の手配ができたことを告げた。
「おおっ!結構いい船じゃないかい!」
アンジュがこちら用に用意した船は、中型の三本マストのキャラベル船だった。建造されて数年程度で状態もいい。
「トウザ殿、これが我々が貴方に用意できる唯一の船です。船は用意できても、多数の海賊と戦ってくれる船員・船長を見つける事ができなかったので、宝の持ち腐れになっていました」
「アンジュさん、無事に事が運んだら、この船を相場の半値で譲って頂けませんか?」
ソウタが切り出した。
「畏まりました。クブルに到着できれば、現状での見積もりで、その1/4の値段でお売りしましょう」
その言葉に一同どよめく。
「聞いたか野郎ども!この仕事、キッチリ片付けて、自分たちの船を手に入れるんだよ!!」
『おおーー!!』
意気揚々と海兵団は持ち込んだ機材を船に搬入していく。
「あ、姉上……。大丈夫なのでしょうか?」
ジュシンが不安そうにしている。
「ジュシン、よく御覧なさい。彼らはみな士気高く、しかも手馴れて無駄なく機敏に動いているでしょう?」
海兵団はメリーベルが特に指示を出さずに立って見ているだけでも、手早く必要な機材を積み、船の各所を点検、整備していた。
「少なくとも腕が立つという話は間違いなさそうですね」
こうしてバンドウ家の姉弟は笑顔を浮かべて立ち去ったのだった。




