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第10話 カ・ナン王国宰相のとある一日 その3

 ソウタは練兵場の視察後、ニライに真っ直ぐ戻らず、途中ズマサに立ち寄る事にした。


「随分とにぎやかになったな」


 ズマサでのレースの開催は週に数日に限られ、映画の上映も同様。


 だが、斬新なものが見れると評判になっていて、国内はもちろん国外からも人々が訪れるようになっていた。


 向かうのはできたばかりの庁舎。ここでズマサの町長に会って話を聞く。


「この町が大まかに仕上がって二ヶ月ですが、連日大勢が出入りするようになっております」


 再建できたばかりであり、定住する住民以上に客が多いこの町の町長は多忙を極めていたが、宰相のソウタに貴重な時間を割いてくれたのだ。


「この町はかつて疫病で滅んだ土地だ。きちんと住民や“労働者”たちの検診は行っているのかな?」


「ご安心ください。検診は徹底しております」


 聞けば、ズマサに来た元締めは驚くほど理解が良く“従業員”が国外から到着すると、すぐに全員に検診を受けさせたという。


 そしてリンが同席しているので言葉を選びながらだが、商売の際にも事前に洗浄と道具の着用を徹底していると説明してくれた。


 その方針に従えない客には高額な請求を行って、それが飲めないなら叩き出しているという。


(こういう事に理解ある業者が見つかって本当に良かった……)


 実は一ヶ月前、ソウタはメリーベルの紹介でセキトにて、ある女主人に会っていた。


 ソウタの身元が公になっては事なので、この時はメガネ型のサングラスの着用はもちろん、カラースプレーで髪の色を、そして得意の演技で声色まで変えてからの接触だった。


「紹介するよ旦那。アタシの友達さ」


「キドー・サナだよ。良しなに」


 黒く長い髪に、黒い瞳の妖艶な美女。肌に白い化粧をしているが、顔立ちから東洋人に似ている。


 サナは需要に応じて港から港に拠点を変える、表向きは酒場、そして同時に売春宿を経営する女主人だった。


 メリーベルとは彼女が海賊稼業に入って以来の友人で、彼女は酒場の上得意であり部下たちもよく“宿”を利用していたという。


「赤いスペード団は上客だから、話を聞いてカ・ナン行きを考えていたところなんだよ」


 メリーベルがわざわざ自分に引き合わせた相手である。会わせたい理由があるに違いないと考えていたところ、彼女が身に着けていたある物に気が付いた。


 それはブレスレット、いや腕時計。それも金属製のデジタル式腕時計だった。


 電池が切れているので画面に時刻は表示されていないが、デジタル時計に間違いは無い。


「そのブレスレット、一体どこで?」


「親の形見だよ」


「?!」


 メリーベルはソウタに出会い、そして日本を訪問して思うところがあったので、サナを引き合わせたのだろう。


「貴方の親の話を知っている限り聞かせてくれないか?」


「どこまで本当か知らないけどね……」


 サナを育てたのはカナコという女とマサトという男。

 だが二人はサナの実の両親ではなく、実母の名はキミエだという。


「何でも仲間たちと遊びで船出したら、嵐に出くわしてこっちに流れ着いちまったんだと。他に十人ぐらい居たらしいけど、親たち以外はあっけなく全滅したんだとさ」


 漂着した先で早々と怪物たちと風土病に襲われて、殆どの者は早々と命を落としてしまい、かろうじて生き延びたのは、この三人だけだった。


 町に逃げ延びた三人。このうちマサトが計算に長けていたことから商家に目を掛けられて雇われ、カナコとキミエを食べさせていたという。


 こうして異世界アージェデルでも生きていく目処が立ったと思われたのだが、今度は町ごと領主たちの戦に巻き込まれてしまった。


 町は戦火に包まれ、略奪と暴行の嵐が吹き荒れたのだ。


 カナコは用事で外に出ていたので何とか無事に逃げおおせた。


 だが、マサトは勤めていた店と片足を失い、キミエは逃げ切れずに兵たちに捕らえられて暴行を受けて操と正気を失ってしまった。あげく彼女は望まぬ子供を身に宿されてしまったのだ。


 命からがら他の町に落ち延びた三人。


 だが今度は前のようにはいかなかった。片足を失ったマサトは職を見つけることができなかったのだ。


 そのため今度はカナコが路上で身体を売ることで、かろうじて生活する足がかりを得たという。


 その後、カナコは店に雇われ、合わせてマサトを番頭として雇わせることができた。


 こうして次の町でも生活する目処を立てることができたのだが、約一年後にキミエは娘を出産して命を落としてしまった。


 残されたカナコとマサトはキミエが産んだ娘を捨てず、サナと名付けて育てたという。


「マサトはあの商売やってたにしちゃあ随分優しい男で、失敗やらかしても一度も殴られた事はなかったね。カナコ師匠はその分厳しかったけど、まあ実の娘でもないのに食わせてくれたからね……」

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