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第9話 人は食の為だけに生きるにあらず その4

 かくして、ソウタはメリーベルとヒトミを車に乗せて、走らせること20分ほど。


 郊外の幹線道路にある夜間のみ開店している、「書店」を謳った店に車を停める。


 店を見て、口を金魚のようにパクパクさせているヒトミ。


 店舗の外観はともかく、開いた入り口の奥に、性的な商品を扱っているのが丸分かりになっていたからだ。


「か、買出しって……」


「そういうわけだよ将軍さん。閣下は自分のためじゃなくて、他の野郎たちのために、こういう店で買い物してたんだよ」


 実のところ、ズマサの建設の直前から、メリーベルは部下たちの欲求を発散させる手段として、アダルトソフトの上映をホームシアターを使って密かに行っていたのだ。


「カ・ナンは辛気臭すぎて遊ぶ場所が無かったからねぇ。かといってすぐに遊女を大勢集められるわけでもないからさ、閣下と相談して映画を使う事にしたってわけなんだよ」


 メリーベルは頭目として日常的に荒くれ者たちと接し、率いてきただけに、その手の問題には敏感だった。


 これまではソウタがアンケートの結果を基に、どの方向性が良いのか探りながら選んでいたのだが、ついに痺れを切らしてメリーベルが直々に動いたのだという。


「ヒトミ、そういうわけだから、こんなところに無理についてこなくていいんだ。車に残ってていいから……」


 ヒトミは言われるまま車内に残る事にした。待機する事20分。


 袋を提げて二人が出てきたが、買った品物について聞く事もせず、それからヒトミは一切口を開かなくなってしまった。


 翌日。カ・ナンに戻ったところで、ヒトミは即座にエリに直訴した。


「え、エリちゃん聞いて!ソウタくんたちは……!」


 ヒトミの訴えを聞いたエリは、直ちにソウタに出頭を厳命した。人払いが行われ、三人だけになる。


「ソウタ!」


「ああ……」


「アンタねぇ、ヒトミに感づかれるなんて、油断しすぎよ!!」


 エリからソウタに厳しい叱責を期待していたヒトミだったが、叱責の方向が自分の思い描く方向とかなり異なっていた事に動転してしまう。


「どうせ自分の部屋だからってパソコンの画面つけっ放しにしていたとか、エロ本放置してたとか、そんな事してたんでしょ!」


「ち、違うの!様子が変だったから、ソウタくんがいない間に、部屋に変なの置いてないか私が勝手に探したんだよ!」


「おい」


 ヒトミはソウタが外出していた間に、部屋を調査していたことを告白してしまった。


「でも非はソウタにあるわ!すぐバレるようなところに置くほうが悪いに決まってるじゃない!」


「……」


「あの、エリちゃん……?」


 やはりヒトミはエリが怒る方向に戸惑っていた。


「いいヒトミ!男ってのはどこの世界だろうとみんなケダモノなの!たとえそれがソウタだろうと、本性はそうなの!」


 無言で頷くソウタ。


「でも、それを制御する、しなきゃいけないのが人間なのよ」


「だから私は、ズマサに映画館だけじゃなく、しれっと色町を作ったり、エッチな映像を持ち込んで上映するのを咎めたりはしないわ。むしろ私にはその発想が無かったから、すぐに気づいて動いてくれた事に感謝してるくらいよ」


 エリはソウタが表に出さずに進めていた事を、表向きの資料だけで、ほぼ正確に把握していたのだ。


 ズマサは再興にあたって、元々疫病が原因で廃村になった過去があるのを理由に、再発を防ぐためとして全住民はもちろん、新規の労働者に名簿への登録と、定期的な健康診断を義務付けていた。


 これは住民と労働者全員を対象にしているが、実のところ外国から流れてくる遊女経由で病気を持ち込ませないためと、罹患したまま仕事をさせないための方策だった。


 これに合わせて法を厳しく運用し、カ・ナン国内での遊女屋の営業を厳しく制限することで、規制が緩いズマサに流れるよう手を打っていた。


 さらに医学校に依頼して、兵士たちを対象に性病について教育を行い、日本から業務用のコンドームを大量に調達して事前配布さえ行っていた。


 これに合わせて業者にも対応するよう指導を行い、違反が発覚した場合には営業停止処分、悪質な場合は、法を厳格に適用して国外追放を行うとした。


 病気の蔓延と望まぬ妊娠を阻止する事は、発生する諸問題や悲劇を完全に防止できなくとも緩和する事はできる。


 その上で、ホームシアター設備を使ったアダルト系の上映館も開設。


 こちらは物珍しさと、その“革命的”な内容が評判を呼び、連夜満員御礼となっていた。


 なお、ここのズマサで上映された作品群によって、様々な日本の“技術”が一気に各地に波及する事になったのだが、それは別の話になる。


 ともあれ、ソウタはエリにそこまで見抜かれていた事に、ヒトミはエリがそこまで想像できていたことに驚いていた。


「え、エリちゃん……。日本には小学校までしかいなかったよね?」


「私、昔からマセてたから、そっちの情報は一杯仕入れてたのよ」


 ソウタは小学五年生の頃に、エリがやらかしたある事件の事を思い出していた。


 森の中にあった西洋のお城風の建物が何なのか、壁の向こうを覗いてみようとしていたのだ。


 ヒトミは木登りの時点で断念し、ソウタは途中の踏み台になって脱落したので、覗き見たいという目的を達したのはエリだけだったのだが。


「そんなわけだから、私は一切見なかった、知らなかったことにするから。ヒトミもそういうことで片付けて頂戴」


「……」


「あとソウタは、表立って介入してる事がバレないように、もっと気をつけること!これでこの話はおしまいよ!」


「あ、ああ……」


 安堵してソウタは退出した。ヒトミは混乱しているのか、呆然と立ち尽くしていた。


「で、ヒトミ?」


「ふぁ、ふぁい!」


 耳元でそっと小声で尋ねる。


「で、ソウタってどんなタイプが好みだったの?私にも教えなさいよ!」


「ふ、ふえええぇぇぇぇぇ//////」


 その夜はしばらく、エリからの追及にヒトミが呂律をまわせず、てんてこ舞いし続けることになったのだった。

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