第9話 人は食の為だけに生きるにあらず その3
「廃村を娯楽の町として再生させる計画……」
数日後。ソウタはエリに謁見し、計画を説明する。
練兵場から数キロ離れた場所に、十数年に発生した大規模な疫病のせいで廃村になってしまったズマサという村があった。
疫病が去った現在は、ガンプやエ・マーヌからの難民キャンプ地として使われているが、彼らに住居と職を与えるべく、合わせて娯楽の町として再度整備しようというのだ。
「工事は海兵団を中心に、訓練の合間を縫って国軍からも工事を手伝ってもらう。建設するのは酒場もだけど、公営ギャンブルのウルフレース場に、一番の目玉は映画館だ」
「映画館!いいわねそれ!」
エリは計画書に目を通すと、一ヶ所熟視する。
「映画館とウルフレース場に飲食店。その奥に酒場と宿屋、疫病の再発防止と監視の為に病院の設置……」
映画館だけでなく、賭博を制御する為に公営ギャンブルも必要と判断して、競馬ならぬオオカミによるレース場を設置する事にしていた。
さらに酒場と宿屋の区画が今回の計画の肝だが、決しておおっぴらにできないだけに、ソウタは気をもむ。
「まあいいわ。ソウタのやりたいようにやりなさい!」
こうして、ズマサの再建が動き出した。
技術者たちの指導の下、区画を整え、井戸の再生と念入りに下水の整備を行い、簡素ながら建物の建設を進める。
元ガンプの住民は元々商業に携わっていたものも多かったので、店が持てると聞いて、積極的に工事に携わり、かつ商売も平行して行っていた。
「お前ら、アレが好きなように拝めるようになるんだ!キビキビやれ!」
この町の建設には、訓練の合間を縫って徴兵された国軍も多数投入。さらに海兵団に至っては、訓練そっちのけで建設工事に携わっていた。
「閣下、建設は順調なようですね」
様子を見たリンが、進捗の早さに感心していた。
「まあ、娯楽の乏しいカ・ナンにしっかりした遊び場ができるんだ。そりゃあ真剣になるよ」
二ヵ月後に完成を予定していた工事だったが、工事は雨天であっても中止されず自発的に強行され、工期を約二週間短縮して完成しようとしていた。
「やるじゃない!」
ズマサの整備がおおよそ整い、その中心になる映画館が完成したので、こけら落としが行われた。
映画を上映できる環境をできるだけ早く整える事を優先したので、巨大なテントの中ではあったが、この世界では初の大規模上映とあって、エリを筆頭にナタルなど、要職者が軒並み参加していた。
「で、何を上映するの?」
「世界のクロサワ監督の代表作だよ」
「なるほどね……」
言わずと知れた、村を守る為に雇われた武士が七人、村人と共に野武士たちに立ち向かう地球の映画の歴史に名を刻む不朽の傑作映画を、ソウタはこけら落としに選んだのだ。
日本語を解する者たちにカ・ナンの文字への翻訳を依頼し、字幕をつける事に成功したので、言葉は分からずとも字幕でカ・ナン人は意味が分かり、かつ映像と音楽は言葉が分からずとも観客の度肝を抜いた。
かくしてこけら落としは大成功となった。こうしてズマサは映画館を中心に飲食店や酒場が日を追って整っていき、連日大勢の客を集め、兵士たちの欲求不満を発散させる事に成功したのだった。
それからもソウタはヒトミと共に、カ・ナンと日本を頻繁に行ったり来たりを繰り返す日々が続けていた。資金を調達するためと、稼いだ資金を基に、装備やインフラを整備が進めるために。
その他にも映画館の用の映画の選定も行う。表で上映する作品はヒトミに任せてよいのだが……。
「ねえソウタくん、最近、夜中に外出する事多いよね?」
「ああ、そうだな」
映画館の計画が立ち上がってから、日本に来ると高頻度で夜中にソウタがでかけるようになっていた。
「私に何を隠しているの?」
「……。男には色々あるんだよ」
そっけなく返事するが、ヒトミに何をしているのか語るつもりは無かった。
その手の事に理解があるエリと異なり、ヒトミはその手の話題に疎いというより、隠避するタイプだという事をソウタは承知していたからだ。
「ふ~~ん」
実のところヒトミは、最近ソウタがアダルト系の情報を集めている事を把握していた。
ソウタに隙があったのが原因だったが、ヒトミはソウタの部屋に入った時に、アダルトソフトの内容が記載されたカタログを見つけてしまったのだ。
ソウタが“男”だと、頭では理解していても、幼い頃からずっと知っているだけに、感情が伴わず混乱もひとしおなヒトミ。
とりあえず見なかった事にはしていたが、悶々とした感情を抱えてしまっていた。
そんな折、次の日本での活動ではメリーベルが同行する事になったのだ。
航海に必要な機材の購入が目的というが、日中ならまだしも夜間に一緒に出かけるとあって、とうとうヒトミの感情が爆発してしまった。
「こ、こんな夜中に!二人で外出って!ぜったい!ぜったいおかしいよ!」
顔をトマトのように真っ赤にして、機関車のように感情を吐き出しながら大声を挙げるヒトミ。
それをみて顔を見合わせるソウタとメリーベル。
ソウタは大きく溜息をつき、メリーベルはカラカラと笑っていた。
「なあ、だったら将軍もついてくるかい?」
「わ、わかりました!」




