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第9話 人は食の為だけに生きるにあらず その2

 ソウタは慰安旅行の次の日に、マガフとメリーベル、そしてビルスを呼んで、ある問題を協議していた。


「マガフさん、メリーベル、エ・マーヌの軍と海賊もとい海兵団がカ・ナンに来て三週間だけど、問題はまだ発生していないですか?」


「今のところは、ですが……」


「まあ、まだ三週間だからねぇ……」


 二人とも口を濁す。時間の問題、というわけだ。


「エ・マーヌは、これまで家族を連れて流転を続けて参りました。ようやく落ち着いたところですが、落ち着くと特に独身の若者たちが、どこまで大人しくしてくれるか……」


「野郎には酒と賭場と女をあてがってやれば、大体大人しくなるもんだけど……。けど、この国はどうにも小奇麗過ぎてさぁ、酒以外に娯楽が無いんだよ」


「確かに。今までは臣民のほとんどは村に篭っていて、若い男が何ヶ月も集まることなどありませんでしたからな。その上、外国から男ばかりがさらに何千人も加わった訳ですから」


「盛り場が足りない、か……」


 これまでのカ・ナンは滅多に戦争に巻き込まれるもなく、有事の際は各村に一家二家ある戦士の家が参加するようになっていた。


 戦争以外でも彼らが集められることはあったが、それは三年に一度行われる大演習の時ぐらい。


 そのため、若い男たちが一ヶ所に集い、しかも長期間滞在する事はこれまで無かったのだ。


 故に盛り場というと各町に酒場が数件、多くても10件ある程度。


 王都ニライには歓楽街と言える区画があるが、国内を頻繁に移動する商人や役人相手の小規模なもので、集められた何百、何千もの若い男たちの欲求を晴らすには、あまりにも貧弱すぎたのだ。


「徴兵たちなら、定期的に休暇を与えて故郷に帰せば済んでいたのですが、この度増えたのは異国の男たちばかりです」


 欲求を持て余した男たちは少数でも問題を引き起こしかねない。そんな者たちが、この国の許容量を上回る規模で集まっているのだ。


 カ・ナンが傭兵の募集に積極的でなかった理由は、高額の給与だけではなかったのだ。


「目先の娯楽に閣下の国からいくつかゲームを持ち込んだけど、根本的な解決にはならないだろうからねぇ……」


 ソウタはすでに電気を使わないアナログのゲームをいくつか持ち込んでいた。


 具体的にはルールがシンプルで、カ・ナンでも容易に似たものが製作可能なダーツやオセロなど。


 だが日常的な暇つぶしには使えても、抜本的な解決にならないのは明白だった。


「やっぱり、(酒を)飲む・(博打を)打つ・(女を)買うは必要か……」


「特に……」


「この国に一番足りてないのは女遊びの場所だよ。女のアタシが言うのもなんだけどさ」


 ソウタもまだ調査していないが、先に滅ぼされたガンプから逃れてきた者たちに遊女が混じっていたり、生きる為に身を売った者たちが、避難所から王都に来ているとは耳に入っていた。


 さらに周辺からも商売の匂いをかぎつけて、業者がカ・ナンに遊女を送ろうとしているという話も耳に入ってきている。


「やはり遊女は必要ですな……。しかし」


「制御どころか実態が碌に把握できていないし、推定数でも足りなさそうということか」


「ええ。それにカ・ナンは女王陛下を頂く国ですから」


「女王陛下や姫君を頂く国で、露骨に風紀を乱すわけには行きませぬが、禁欲を強いるには限度があるのも事実……」


 国家元首がうら若き女王である事が、さらにこの問題の解決を難しくしていた。


 確かに大々的に色町を建設すれば目先の問題は片付くのだろうが、国が主導したとあれば、カ・ナンの、エリの汚点になりかねないのだ。


 かといって、野放図にしていれば、地元住民とのトラブルだけでなく、遊女たちとの“接触”に伴う病気の蔓延、女性たちの保護なども問題になるだろう。


 何よりゴ・ズマと戦う前に、性病が蔓延して戦えなくなってしまうという事態は、絶対に阻止しなければならない。


「マガフさん、エ・マーヌはこれまでどう対処していたんでしょうか?」


「ええ。我が国は戦に望んで禁欲の薬を配布するのが常でして、道中でも備蓄が続く限り兵たちに処方していたのですが、この度尽き果ててしまいまして……。原料も栽培しようにも熱く乾燥した土地でなければ育たぬので、冷涼なこのカ・ナンでは見込みが……」


 さらにその薬は日常的に服用していると、性欲を抑えるばかりでなく、生殖機能まで破壊する副作用が確認されているという。


 エ・マーヌの僧侶たちが俗世から離れるために日常的に服用し続け、我欲を絶つためにも用いているという。


 だが、そんな薬を兵たち全員に、一時的ならともかく、ゴ・ズマの侵攻を待つ間に全軍に服用させ続けるわけにはいかない。侵略を撃退する事と引き換えに、子孫を、未来を絶やすわけには行かないからだ。


「メリーベル、この間君を日本に連れて行ったのは、この問題にどう対応したらいいのか、意見が欲しかったのもあるんだ」


「なるほどねぇ。閣下はあれだけお日様の光みたいに娯楽がありふれてる国から来たんだ。逆に何していいか、わかんなくなるのも無理はないかもねぇ」


 机に肘をついてニマニマ笑うメリーベル。


「そうだねぇ……。アレがあれば随分といいんじゃない?」


「あれって?」


「アレだよ……」


 メリーベルは腰元に入れていたカタログを差し出す。


 それは慰安旅行中、ホテルに宿泊した際に手に入れた、有料チャンネルの番組表だった。


 彼女は興味を持ったので有料チャンネルを視聴し、カタログも持ち帰っていたのだ。


「なるほど……」


 ソウタは指差された箇所を見て、大きく頷いた。

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