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第8話 慰安旅行は日ノ本で その4

 ナタルとシーナの部屋の戸を開けると、すでに部屋には布団が敷かれていた。


 事前の説明も仲居さんから受けているが、改めて部屋のあれこれについて二人に説明をする。


 説明が終わったので、宴席に戻ろうとしたところ、ナタルからどうしても外に出たいと頼まれたので同行することにした。


「ソウタ殿、わがままを聞いてくださってありがとうございます」


 旅館の屋上に出ると少しひんやりした空気が、多少酒でほてった体を冷やす。


 空を眺めると月がすぐに沈んだためか、満天の星空が光っていた。


「これが……ニホンの、アユムさまの故郷の星空なのですね」


 そういうと、ナタルは手にしたものと星空を見比べはじめた。彼女が手にしていたのは星座早見盤だった。


「それが、アユムさんが持っていたものなのですか」


「はい。これが自分の故郷の星の地図だと言われていました」


 偶然、エ・マーヌの地に来てしまったアユムという青年は、元々、天体観測をするために山に入り、その帰り道にエ・マーヌに迷い込んでしまったという。


「アユムさまは政務の傍ら、夜になると熱心に望遠鏡で星空を眺めておられました。故郷とは異なる星空で、まだまだ知られていない星が沢山ある。それをできるだけ自分が見つけて、命名できれば、こんなに嬉しいことはないと」


 エ・マーヌはあまり雨が降らず雲も少ないこともあって観測しやすいと、この世界の技術では知られていなかった星々を次々に見つけるだけでなく、運行の観測も行っていたという。


 天文と占いがいまだ不可分である彼の世界で、アユムの観測による発表は大きな意味を持っていた。


 エ・マーヌ国内だけでなく周辺国の天文学者や占い師たちは、競ってその成果を受領しようと頻繁に訪れていたという。


「私も度々、アユムさまの望遠鏡で星を見せていただきました。そしてこの図を眺めて、これが自分の故郷の星の並びなのだと語っておられました」


 そしてこの思い出の品が、彼女がアユムから受け取って手元に残る、唯一の品となったのだという。


「未だアユムさまと再会することは叶っておりませんが、今こうしてアユムさまの故国の景色を、星空を観ることができました。ソウタどの、真にありがとうございます……。うっ。うっ」


 やがて、こらえてきた感情が一気に噴出した。


「アユムさまぁ、アユムさまぁ!うわぁあん!うわぁあん!」


 シーナも思わずもらい泣きしてしまった。


 ソウタはしばらくかける言葉なく、旅館の手ぬぐいを差し出し、優しく背中をさすった。


「ナタル姫、あきらめる必要はありません。兄君のリーン王も、アユム殿も、亡骸が見つかっていないと言うなら、どこかに、もしかするとこのニホンに逃れているかもしれません」


「!!」


「私のほうでも、アユム殿についてお調べしておきます。こちらに来ているかはわかりかねますが、行方不明になっているのであれば届けが出ているはずですから」


「あ、ありがとうございます!」


 ようやく涙がおさまってきたようだった。


「ではお部屋に戻りましょう。夜風が随分冷えてきましたから」


「ですね」


 こうして二人を部屋まで案内し終えたソウタは意図的にマナーモードにしていたスマホを確認する。


 案の定、ヒトミからの着信がひっきりなしに入っていた。ヒトミは日本を去る前に解約していたのだが、頻繁に日本に来る事になったので再度契約していたのだ。


「遅れてすまない」


「ソウタく~ん、おっそ~~い!」


 ヒトミの傍らに、日本酒の2合瓶が置かれていた。さらに空になっているようで、手酌でしずくを猪口に注いでいた。


「ヒトミ、お前そんなに飲めたっけ?」


「それよりソウタくん!お姫様とシーナちゃんと何やってたの!」


「ナタル姫にお願いされて外で星を見てたんだよ」


「二人で?!」


「三人で」


 フグかハリセンボンのように顔を膨らませるヒトミ。


「閣下と夜風に当たりながら星空……。いいなぁ……うらやましい……」


 うっとりしながら目を不自然に輝かせるリン。その様子をゲラゲラ笑いながら見ているメリーベル。彼女の周りには焼酎やウイスキーの空き瓶が何本も。


「まあ、お子様たちは寝たんだから、これから付き合いな!」


「明日朝の運転があるから、俺は今夜も11時までしか付き合えないぞ」


「そんだけありゃあ十分さ!さあ閣下も飲みな!」


 時刻は午後9時半過ぎ。残りは1時間半を切っていた……。

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