第8話 慰安旅行は日ノ本で その2
異世界からの面々は、切符の自動改札にも、カードタッチで改札が通れる事にも、電車が指定通りの箇所で止まって自動でドアが開くことにも驚いてくれる。
電車の車内は、平日の昼前ということもあって空いていた。下の車の混雑振りを眼下に、都心部の最高峰のビルに向かう。
動く階段エスカレーターや垂直に上下する部屋エレベーターに都度一行が驚きつつ、最上階のレストランに到着し少し早めの昼食。ここでは眼下の景色に驚嘆しながら、中華料理店で高級ランチコースに舌鼓を打つ。
食後は百貨店や商店街などでのウインドウショッピング。ナタルの願いでオルゴールを購入。優しい音色が気に入ったようだった。
その足で映画館に向かう。
メンバーを鑑みて選んだのはギリシア神話を題材にした作品。
ソウタとヒトミ以外は言葉が分からず、字幕も読めないが、幸い他に観客が居なかったので、字幕をソウタが読み上げて対応。
この手の映画を見慣れていたソウタとヒトミにとっては、もはや当たり前の映像だが、他にとってはその映像と音響に圧倒され、ところどころで思わず歓声を挙げていた。
映画館を出ると、地下街を巡って地下鉄に乗りこみ車を駐車した駅に戻る。
駅から車を少し走らせて湾岸に到着。先にホテルにチェックインを済ませ、ナイトクルーズの船が出るまで湾岸を歩くことにした。
「港にしちゃあ、随分人は少ないんだな」
メリーベルは海賊だけに各地の港を知っているためか、日本の港の人の少なさに驚いているようだった。
「飛行機があるから、空港が無い島に行く人か観光に使わない限り、港に人は来ないからね」
「だけど沖には城みたいにデカい船がゴロゴロしてるぞ。積荷は運んでるんだろ?」
「荷物の積み下ろしはもっと離れたところで、大型機械を使うからね」
船の荷物は第二次世界大戦の頃までは積み下ろしに大勢の人員を必要とし、かつ時間も掛かっていたのだが、戦後のコンテナの発明と普及で、一気に自動化が進んだ経緯がある。
「まあ最近は豪華客船も増えたみたいだけど。ほら、あれとか」
「ちょ、あれが船なのか?!」
湾岸には6万トン級のクルーズ客船が停泊していた。確かに初めて見た者が、これを船と認識するのは現代人でも難しいだろう。
「こ、これは……」
ナタルは言葉に詰まった。
「まさに白亜の城だな……」
アタラもこれには驚いている。
「なあ、マストが無いぞ!」
メリーベルは船の専門家だけに、マストが無い船に驚いていた。
「もう帆船は限られた数しか無いよ。今はほとんどが油を燃やして動く船ばかりさ」
帆船はもはや趣味と観光ぐらいでしか残っておらず、現在は運搬船から漁船に至るまで、全ての船は石油系燃料を用いた内燃機関を動力に動いていると説明した。
「本当にこの国っつーかこの世界は何もかも鉄でできてて油で動かすようになってるんだな……」
「どうしてここまで来たのか、話せば複雑だし長くなるけど、年月を重ねて技術を進めてきたからね」
歩いているとヨットハーバーのエリアに。一枚帆のヨットは畳まれているなどで判別は困難だったが、メリーベルが興味深く見ているものがあった。
「なぁ閣下、あれは?」
「ああ、水上オートバイか」
ヨットより更に小型で、速度も通常の船とは比べ物にならないほど速いのが水上オートバイである。
「ありゃすげえなぁ……。海の上を馬より早く突っ走れるなんて堪らないよぉ」
日が沈む頃に、レストラン船に乗り込む。先日の山頂から展望とはまた異なる、海から湾岸の夜景と食事を楽しむのだ。
コースはカ・ナンが持つので奮発してプレミアムコース。洋食系のディナーを堪能する。
ソフトドリンクはもちろん、ワイン、シャンパンなどが飲み放題となっていた。
「天上にも劣らぬ地上の星の光、まばゆいな」
飲み放題のシャンパンを口に含みつつアラタが呟く。どれだけ酒を飲んでも表に影響が全く現れないのはエルフの血を引いているからだろうか。
「いいねぇ。こうやって呑む酒も格別だよ」
メリーベルは顔が多少赤らむのでまだわかりやすい。
「そんなにお酒とは美味しいものなのでしょうか?」
二人の様子を見ながらナタルが呟く。
「姫様はこの国では未成年だから、まだ、お酒は飲んではいけないんです」
ヒトミが苦笑いしている。ヒトミはソウタと同い年なのですでに飲めるのだが、シャンパンには少し口をつけただけ。
「ええ。閣下が御飲みになれないのに、飲むわけには参りません」
リンも少し口をつけただけでほとんど飲まない。
クルージングを終えてホテルに到着。今夜は大人しく皆部屋に向かうと思いきや、酒豪二人は飲み足りないようだったので、外に出さず、ホテルのバーで飲ませる事にした。
「よ、閣下!今夜は私たちにしっかり付き合いな!」
「O.K.わかったわかった。ただし、明日も運転があるから、11:00までだからな」
かくして一日目の夜が更けていく……。




