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第6話 訪れて港町 その3

 宝石商を出た後は、薬を商う区画に足を運んだ。


 薬といってもほとんどが生薬を販売してる店で、素人目にはどれも得体が知れず、札に効能が記されていても、本当に効能があるのか疑わしいものばかりが並んでいるようだった。


 特に羽振りのよさそうな店で呼び止められるソウタ。この店主も腕時計を巻いている。


「カ・ナンの若旦那、これの薬はどうですかね?」


「……」


 見せられたのは、ガラスの瓶に異形な形の蛇らしき動物が漬け込まれた赤黒い液体。どうやら精力剤らしかった。


「俺はまだ若いから大丈夫だよ」


 同行するアタラは苦笑し、シーナはその薬が何なのか全く理解できていない様子だった。


「失礼。貴方はカ・ナンの商人なのですか?」


 その時、ソウタに呼びかけてきたのは、大学で助教授を務めていそうな才気ある声。


 振り向いてみると、30ほどに見える、知的で精悍な亜麻色の髪の豊かな女性だった。お供に二名の女性も連れている。


「え、ええ。イコエ・トウザといいます」


「あ!メレク先生だ!」


「あら、シーナちゃんじゃない」


 シーナはその女性の事を知っていた。先生と呼ぶという事は、教師なのかはたまた。


「イコエお兄ちゃん、この人はメレク先生。お医者さんなんだよ」


 メレクはカ・ナン出身の女医という。さらに連れの二人は看護士だった。


 ソウタは出張所に戻ってメレクとゆっくり話をすることに。ソウタはここで自分の素性を明かした。


「貴方が、ソウタさま……。ええ、女王陛下とヒトミ騎兵団長が度々お名前を呼ばれていたので存じております」


 彼女がヒトミの怪我を治療したという。


 矢傷の処置は適切で縫合も見事だった為、ヒトミの傷跡は残ってしまったとはいえ、かなり綺麗に処置されていたのだ。


「ヒトミの事を救って頂き、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げるソウタに、メレクは医者として当然の事をしたまでと応える。


「私はカ・ナンの農家の娘でしたが、先君の時代に整備された教育体制のお陰で、師範学校から医学校に進むことができ、カ・ナンでも初の女医になることができました」


 この世界でも極めて珍しい女医であるメレクは、先日まである国の王妃の治療を務めていたという。


 女性でありながら腕は確かだと王妃たち女性からの評判は良かったのだが、現地の他の医者たちに睨まれてしまい、結局居場所がなくなってしまったので、あきらめて他国への移動を検討していた最中だったという。


「失礼ながらどういった教育受けられたので?」


「薬の選定・調合はカ・ナンに古くから伝わるものですが、診断や止血・縫合については、エリ女王陛下が持ち込まれた医学書で学びました。陛下には特に目をかけていただき、日本の文字を読めるように直々に教えも頂いています」


 彼女は特に優秀だと見込まれ、かつエリが気に入ったこともあって、直々に日本語を読めるように教えを受けていたというのだ。


 カ・ナンの衛生・医療についてはエリの両親や前宰相ワジーレの時代から熱心に整備されていた。


 エリの両親は地球の技術そのもの移転にはかなり慎重だったが、教育と医療・衛生の“知識”は熱心に導入していたのだ。


 各村ごとに初等学校を設置し、成績優秀な者は補助金を与えて将来の教師となるべく師範学校に進学。


 さらに優秀で医者の適正がある者向けに医学校を設立しており、特に女医の育成に熱心だった。現在ではカ・ナンの医師の二割が女医だという。


 これはカ・ナン首脳部が各村に一人ずつ医師を常駐させる事を将来の大目標に掲げて、医師を教育、増員を目指していたからである。


 そのため、成績と適正が認められれば、女性であっても門戸を開くように、王家から強く要望が出ていた。


 さらに医師は知識と技術が肝要なので、医学校で免状を得るだけの知識と技術の習得がなければ医師として認められないとしていた。


 その上、定期的に国に実績の報告と、十年おきに免状の更新のため医学校に出向くよう義務付けられていた。

 

 現在では国外でもカ・ナンの医者は確かだと評判が高い。特に名医と名高いメレクは国外に呼ばれることもしばしばだったという。


「ですがカ・ナン以外ではどの国でも、高度な医療は男にしかできないと決め付けられて、定着させてもらえないのです」


 メレクも他国の王妃や姫君など最上流層の女性の治療を任されることはあっても一時的なもので、すぐに追われるだけでなく、身の危険に晒される事もしばしばあったという。


「メレク先生、これからカ・ナンはさらに厳しい戦いに挑む事になります。俺は日本から技術を持ち込むことに躊躇しませんし、エリからも許可はもらっています。日本語が読めるというのでしたら、より高度な医学書や、器具を持ってきますから、是非とも故国カ・ナンに力を貸してください」


「願っても無いお言葉です閣下。私でよければ……」


 こうしてソウタは日本語が読める医者という貴重な人材を確保できたのだった。

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