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第6話 訪れて港町 その1

 ソウタは港町セキトに向かうガネ商会の一行に同行した。


 だが、カ・ナンの宰相という身分を晒したままでは国外で活動がし難いだろうと、イコエ・トウザを名乗って身分を隠して同行する。


 なお、今回は身分を隠す都合、ヒトミもリンも同行させなかった。


 ヒトミはカ・ナンを救った救国の女将軍として名を馳せていたこと。


 リンは眼鏡無しでは仕事ができないが、眼鏡自体が有力者の象徴になるので、眼鏡を掛けている女性を連れていると活動に支障が出かねないため、お忍びには難しいので同行させなかったのだ。


「それで私が同行なのか?」


「顔が割れてないし、何より腕が立つからね」


 そんなわけで、今回はアタラに護衛として同行を依頼した。


 向かう先の港町セキトは都市国家である。


 王政ではなく、この世界の都市国家では多数見られる有力商家の合議制による共和制が採用されていた。そして経済規模は山奥にある王都ニライの三倍というところ。


 だが、これまでカ・ナンは国外との貿易に、このセキトを使って訳ではなかった。


 これまではカ・ナン川下流の河口にあったガンプという都市を主に使っていたのだが、先のゴ・ズマの侵攻の際に襲撃されて文字通りに焼き滅ぼされてしまい、今は無人の廃墟に成り果てていた。


 やむなく先日からガネ商会は、セキトに置いていた小規模な出張所を拠点にすることになったという。


「閣下、先日は私と娘にあれほどの品物を賜り、真にありがとうございました」


「ありがとうございました!」


「いいんだ。それで活動の助けになればいいから」


 道中、ビルスとシーナが礼を言ったのは、二人にソーラー電卓をプレゼントしたからだった。


 ソーラー電卓はしっかりした光源があれば作動し、打ち込めば即座に正確な回答を出す。この世界の技術では複製が絶対にできない、魔法の道具としか言えないシロモノだ。


 ソウタはこちらに持ち込む物品については機械式に限って、電気式は極力避けるつもりだったが、電卓は耐久性が高く、叔父の会社で経理担当者が使っているのが20年持っているのを知っていたので、持ち込んだのだった。


「今回、電卓はあんまり調達してなかったんだけど、もし売り出すとしたらどれぐらいになるかな?」


 しばらく沈黙してビルスは口を開く。


「これほどの品であれば、屋敷一件分は確実かと。大商家であればなおのこと、垂涎して買い求める事でしょう」


「わかった。次の仕入れで優先しておこう」


 ソウタは電卓の価値を見誤っていたと少し反省していた。電卓が地球ではあまりに安価でありふれていたからだ。


 丸二日掛けて一行はセキトに到着すると、城門を潜って出張所に向かう。


 道中、市内を見て回るが、建物は木かレンガ造りの二階建てから三階建ての雑居ビルほどの敷地面積の建物がひしめいている。


 人の数もニライの市場の高密度の場所がかなり続いているように見受けられる。


 出張所はなるだけ中心部に開設したかったのだが、場所はこれまでセキトを重視してなかったこともあって、外れにしか構えられなかったという。


「覚悟はしていたけど、まあ」


「申し訳ありません。現在地権者と交渉中なのですが、他にもガンプから逃れてきた者たちも多く……」


 本格的に貿易の拠点をこちらに移そうとしているのだが、中心部から離れていても最近は土地建物の需要が高まり、手広い場所が確保できずにいた。ガンプから逃れてきた他の商人たちと取り合いになっているのだ。


 そのため常駐は数人で、扱う物品も大した量がなかったので、拠点も国の看板を背負っている割に個人商店程度の建物しか確保できていなかった。これでは寝泊まりもガネ家親子と数人が限度だろう。


「ですので閣下……もとい“若旦那”様には、別に宿をご用意しております」


「ありがとう。気を使わせて済まない」


 恐縮だと首を振るビルス。宿は中程度の商人が宿泊する標準ランクだという。


「やはり商売は私どもにお任せいただいてよかったのでは?」


 だがソウタは首を振る。


「カ・ナンだけでなく、大きな商売が行われている都市の事はせめて一度は実際に訪れて調べておきたいんだ」


「実地を知る必要があるというわけですね。流石です」


 ソウタは早速、商売に使う物品を出した。


「ビルス、現地の時計商人にこれを見せてやってくれないか」


 箱から出したのは腕時計。


「おおっ!腕に巻くほどの小型の時計とは……」


「小さいだけじゃない。こいつは一日で一秒も狂わない精度と、多少濡れたぐらいじゃ壊れないようにできてるんだ」


「これほど小さい上に、それほどの技術が……。いえ、この算盤を生み出す技術があれば不可能ではない」


 その腕時計は一本二本ではない。約五十本用意してあるのだ。


 ソウタはこの土地にもすでに機械時計は存在しているのを把握していた。


 だがその時計は、初歩的なもので大きく重く精度も不確かな物。精度が高い、それも腕時計を持ち込めば、かなりの高値で売れるとにらんで仕入れてきたのだ。


 早速ビルスが使いを出した。しばらくすると、多くの商人たちが血相を変えて飛んできた。


「一体これをどこで?!」


「まとまった数とは?!」


 反応は上々だった。


 聞けば、装飾重視で欲しがる貴族や大商人はもちろん、信仰上、礼拝の正確な時刻が知りたいと言う聖職者や、航海にあたって東西の経度を計測するために少しでも正確な時計を求めていた船長(船団の主)などにも需要があるという。


 そのため買い付けに来た商人たちは誰もが血眼になっていた。


「すごい反響ですな……」


「よし、さっそくオークションにかけよう」

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