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第5話 一振りの日本刀よりも その3

 ソウタは物資を送り出し終わると、フォークリフトを伯父の下に返却してからカ・ナンに戻る。


 数日後。日本側での片づけを終えたソウタが鍛治町タクミノに向かうと、町は活気に沸いていた。


「閣下ぁ、すげえ量ですな!」


 親方が大喜びしていた。


「まだまだ。最低でもこの三倍は用意するよ」


 指を三本立てて宣言すると、職人たちはさらに沸きかえった。


 今回持ち込んだのはスチール缶の塊100トン。この量で5,000人分の槍と剣などは生産できるだろうが、その他の用途を考えると、鉄はまだまだ足りない。


「それにしてもこのくず鉄は一体……」


 プレスした塊をほぐした破片を手にとる親方。


「これは缶といって、飲み物や食べ物を詰め込んでおく容器だったものだよ」


「鉄をこれだけ薄く、それもこんなに……」


「俺の国ではこんなもの、道端にでも転がってるさ」


「閣下が酒の席で言っていた、家でも橋でも全部鉄でできているというのはホラじゃないんですな……」


 具体的に大量の屑鉄を見せられれば、ソウタの話を受け入れるしかなかったようだ。


「とにかく、これを溶かして武器を、道具を作ってくれ!」


「任せてくだせえ!」


 そして工匠たちに、あるものの現物と図面を見せて製作を依頼したのだった。



 王都ニライに戻ってエリに報告する。


「さすがソウタね。スチール缶で武器をつくろうなんて、全く考え付かなかったわ」


「これも、この国に職人たちと設備があればこそさ」


「で、どういう装備を考えているわけ?」


「長槍、短剣、そしてシャベルを全員に装備させる。余裕があったら鉄兜と胸当てもだな」


 持ち込んだくず鉄を材料にすれば、この国の兵士全員にそれだけの装備を用意することができる。


「銃は無いの?機関銃でバリバリバリって敵をなぎ払えたらいいんだけど」


 二人の会話を理解できるのはヒトミだけだった。他の面々は、聞きなれぬ単語を理解できずにいる。


「機関銃って簡単に言うなよ。でも参考の火縄銃の現物と作り方の図面は渡しておいた」


「やるじゃんソウタ!」


 工匠たちに渡して来たのは、火縄銃の現物と、作成方法が記された図面だった。


「元々簡単な火薬の手持砲は作られていたから、それだけあれば火縄……、マスケット銃はこっちでも作れると思う。ただ、火薬はこっちでどうにかするしかない」


「火薬は日本で調達できなかったの?花火ぐらいどこでも売ってるでしょ」


「花火ほぐして用意って、割に合うかよ……。爆竹一箱分で銃一発やっと撃てるかどうかだぞ。それも大量仕入れは無理だ」


 花火でも一個人があまりに大量に買い付けるのは不審がられて当然の話である。


「じゃあ火薬の材料は?」


「火薬の原料はどれもこれも規制が厳しすぎるんだ。とてもじゃないが一般ルートじゃ調達できない。だからこっちでどうにかするしかない」


 そんなわけで、一番の問題は火薬の調達だった。


 黒色火薬の材料になる木炭はこの国に豊富に存在しているので調達は容易だ。

 硫黄も各国に比較的安価で出回っているので、こちらでも比較的容易に調達できる。


 だが、硝石の鉱脈はカ・ナンだけでなくこの世界ではそもそも発見されておらず、硝石の調達が比較的容易な乾燥地帯は遥かに遠かった。


 また、火薬兵器そのものは火薬ギルドがこの国にもあったように各国でそれなりに普及している。

 そして各国にも脅威が迫っているとあって、硝石は高騰していたのだ。


「古土法でかき集めても、とても必要量には届かない。硝石丘法は何年もかかるから今から始めても間に合わない……」


 家の床下や洞窟の土を集める古土法はすでに行われているが、とても必要量には届かない。廊下をブツブツと呟きながら歩くソウタ。


「閣下、時間の短縮でしたら、彼らに頼めばもしかします。我が国に時折顔を見せる、魔術師たちなら……」


 リンが進言した。


「魔術師?!そんな事ができるのが居るの?!」


「ええ。彼は時間を操ることができると言われています」


 驚いた早速ソウタは直々に挨拶に向かう事にした。話では最近、コボルトたちの坑道後に住み着いているという。


 魔術師たちが住むという坑道に来ると、奥から声が。


「ようこそ異界から来た宰相閣下。お師匠様から話は聞いています」


「お師匠様?」


「ええ、異界とこちらを繋ぐ次元の扉は、お師匠様が開き維持しております」


「また、異界の方がこちらで、逆にこちらの者が異界で意思の疎通が可能なのも、お師匠様の施した術によるものです」


「ちょっと待ってくれ。そんな人、今まで会った事ないぞ!」


「我々の師の名はガナ・ム・ティアさま。お師匠様は直接お姿を見せることはほとんどありません。ですが、常に見ておられるのです。この今はこのカ・ナンに肩入れされていますが、変わり行く様子を眺め続けるのが今の目的」


「会えたらいろいろ言いたいけど、今はいい。それより貴方たちに力を貸して欲しくてここに来たんだ」


「私はアス」「私はマキ」「私はマァ」「私はビィ」「私はジュ」


 姿を現した五人の魔術師たちは、みな性別がわからない幼子のような姿をしていた。


「私たちはまだ修行中で人間の身。ゆえに、この国の民として力をお貸ししましょう」


「ありがとう!」


 まず頭を下げて礼を尽くす。その上で話を切り出した。


「貴方たちが時間を加速させる魔法を使えると聞いたんだが、本当に可能なのか?」


「確かに可能です」


 色よい返事が返ってきた。だが、条件が限られているという。


 時間加速が行える条件は、ほとんど閉鎖された場所に限られ、魔方陣の中にある対象が、ほとんど動かないこと。一日で約一年ほど時間を加速させられるぐらいという。


「例えば病人の死期を早めようとする使い方もできますが、準備に時間がかかりすぎる上に、探知も妨害も容易なのでそれも困難なのですよ。なので、薬品やお酒を熟成させるために使うぐらいしか使い道が無いのです」


「どのぐらいの広さまでならできるんだ?」


「試したことはありませんが……」


 今まで試した限り半径約10mの円で行うのが最大だったという。


「O.K.わかった。さっそく試したいんだ」


 大き目の家畜小屋の一角で、実験が行われた。効果を検証するため、魔方陣はできる限り小さく緻密に。籠の中に窒素を含む木の葉や石灰石・糞尿・塵芥を土と混ぜて積み上げた。


 サイズを小さめにしてあるので、儀式開始から約一日で五年分の時間加速ができたという。


「これでよかったでしょうか?」


 早速、土から抽出が行われた。これまでの古土法よりはるかに量が多く、上質の硝石が取れたのが確認できた。これには火薬ギルドの面々も驚きが隠せない。


「これなら硝石が大量生産ができる!」


 こうして火薬の調達にも目処が立った。


「さあ、後は資金の調達だ!」

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