第4話 日本での買い物 その2
机の上に昼食の用意がしてあったことに気が付くリン。
「あ、あの……。宰相閣下自らがご用意をなされたのですか?!」
「ああ、そうだよ。手抜きしてるけど」
用意したのはご飯パックとレトルトカレーを皿に盛ったもの。すでに暖めてあるので、湯気が出ていた。
「そ、そういえばかまどは?」
驚くリンに手品の種を教える。
「うちはオール電化してるから、火は直接使わないんだ」
『火を使わない?!』
リンもアタラも話を聞いて驚きを隠せない。
「一から作るわけじゃないからこれぐらいしか用意できないけどね」
ご飯パックは電子レンジで数分ほどチン。レトルトカレーは電磁調理器でお湯を沸かして五分ほど湯煎。お皿に盛り付けスプーンを用意すればあっと言う間に出来上がりだ。
「そ、ソウタくん。カレーの辛さは?」
「ああ。いきなり辛口はキツイだろうから、俺以外はみんな甘口にしたよ。ヒトミも甘口のほうが好きだったよな」
「う、うん!」
全員が着席したところで昼食となる。
「はううぅぅ。カレーは久しぶりだよぉ」
ヒトミは久しぶりのカレーに満面の笑みを浮かべている。
「うまい!」
「お、おいしい!」
カレーが異世界人の舌に合わないのを危惧していたが、とりあえず大丈夫だったようだ。あわせて飲み物に出された氷水にも二人は驚く。
「こんなに暖かいのに氷をお出しされるなんて」
「氷はいつでも作れるから気にしないでいいんだよ」
氷は冬季から蓄え保存しておくのでなく、容易に作り出せると聞いて驚いていた。
「この水は……さっきから気になったが何か加えているのか?」
「こっちの水道の水はお薬で消毒されているんだよ」
アタラの舌は敏感なようだった。これはヒトミが説明した。
ソウタはテレビをつけてニュースを見る。物騒な話題も流れてくるが、生活が一変しかねないような重大な話題は無いようだ。
「あの……」
「箱の中に人が住んでいるのか?」
「限りなく本物そっくりに写し取った動く絵が映る板と思ってくれたらいいよ」
「それはすごい」
「残念なのは全く聞いたことが無い言葉でしかどなたも話されないことですね」
『え?!』
転移門を通過する際に、自動的に施される翻訳の魔法は、耳と口に施されているようだった。
そしてどうやらその効果は、直接相対したもの同士でしか翻訳されず、機械を通してしまうと、効果が無くなってしまうようだった。
「文字を読めないのは仕方が無いけど、機械を介したら言葉も翻訳されなくなるのか」
「声じゃなくて、思いを伝えているのかな」
と、皆が食べ終えたところで、缶詰のパイナップルのシロップ漬けを開けて出す。程よい甘さと保存性の高さで常備しているのだ。
『甘ぁい~~』
女性三人、見事に声を合わせる。
昼食が終わったので、ソウタは最寄の衣類の量販店に車を走らせた。
ソウタは女物を選ぶセンスは持ち合わせていないので、ヒトミを連れて行くのも考えたが、彼女たちだけを自宅に残していくのも不安がある。
「ねえ、画像をスマホからタブレットに送信したらいいんじゃないかな?」
「ああ、その手があったな」
こうしてスマホからタブレットに商品の画像を送ってヒトミに選んでもらう事にしたのだ。
店員からはいぶかしがられたが、ともあれ買い物は完了。リンにはドレスシャツとレギンス、アタラにはブラウスとジーンズを購入した。
「これで傍から見ても、二人とも海外からの観光客にしかみえないだろ」
二人の着替えが終わったので、車に全員を乗せて、早速、近郊最大の都市に向かう。
車で一時間ほどで、この地方の中核都市に到着。
「これが都、なんでしょうか?」
リンが思わず呟く。ぼんやりした視界でも、周囲の建物がこれまで見たことも無いほど巨大であることはわかるようだ。
「巨大な塔が林のように並び立ち、人の数も多い」
「違うよ。今日は平日だから全然少ないし、ここより大きな町もいくつもあるんだよ」
ヒトミの説明に二人は驚く。
「ねえ、どうしてこの二人を連れてきたの?アタラさんは何となくわかるけど……」
道すがら、ヒトミが尋ねてきた。
「お察しの通り、アタラは弓をあげようと思う。リンは秘書やってもらってるけど、近眼すぎて仕事に支障来たしているから眼鏡をね」
「コンタクトレンズじゃなくて?」
「コンタクトレンズもいいけどさ、あれ不慣れだと、すぐ無くすし。何より……」
「何より?」
「俺は眼鏡の方が好みだから」
「そ、そうだったんだ……」
思わぬところでソウタの好みを聞いて、複雑な表情を浮かべるヒトミだった。




