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第3話 コノクニ☆リサーチ その2

 練兵場の次は、王都に最も近い町、工業都市タクミノに向かう。

 ソウタは道中の風景を見た。ほぼ真っ直ぐに作られ馬車二台が離合(行き違い)できる広さの国道に感心する。


「この国道は誰が整備したんだろう?」


「はい。こちらも基礎は神代の時代に整えられたとされています」


「この国の古代には、一体どんな技術者集団が居たんだ?」


 やがて一行はタクミノに到着した。川のほとりに建設されていて、その水を引き込んだ水堀が周囲を囲み、およそ1kmの範囲に工房を中心に町が形成されていた。


「ここは職人たちの町、タクミノです。この町の職人の多くはドワーフ族の末裔を称する一族の出です。ドワーフ族の末裔を自称する者、ドワノフたちは我が国だけでなく周辺諸国にも点在していますが、このタクミノに最も多く集まっていると聞いています」


「ドワーフ族、この世界にはいるのか!」


 ドワーフと聞いてソウタは驚く。


「はい。本来のドワーフ族は混血して溶け込んでしまったか、神代の時代に遥かな土地を目指して旅立ってしまい、完全なドワーフ族はすでにこの地には居ません。ですが、その高い技術を受け継ぐドワノフ一族は健在なのです」


 ドワーフの末裔の町と聞き、興奮冷めやらぬまま、真っ先に鉄を扱っている工廠に足を運ぶ。

 工廠の入り口には技術力の高さを示す為か、まるで鉄骨のような巨大な剣と、封筒ほどの板金に細かな細工が施されて青地に塗られた鎧兜が展示されていた。


「ヒトミが着ていた鎧、やっぱりこっちで作ってたんだな」


「うん。私の体格に合わせて、特別に作ってもらったんだよ」


 鎧も剣も、このタクミノで製造されたという。


「このタクミノの鉄の技術は、周辺国と比較しても劣るどころか高品質として評判が高いのです」


 剣の切れ味も確認していたが、高い水準にあることは素人にも理解できる。


 工房の奥に通されると、ソウタは思わず声を挙げた。


「おおっ」


 工房には二階建てほどの高さの高炉があった。いわゆる“たたら式”より数段技術が進歩したものだ。

 工房の親方が説明する。


「ここで鉄の原料と木炭をくべて鉄を取り出します。その上で鋳物にしない分を、こちらの炉で鋼にしやす」


 炉は随分と小さいが、構造からみて反射炉のようだった。


「この炉を拡張すことは可能なのかな?」


「そりゃあもちろん。材料になる火に強いレンガも用意できますぜ」


 頼もしい言葉だった。


「だったら、大幅に増やした兵士の分の武器の製造は可能なんだね?」


「ええ、まあ……。材料の鉄があれば、ですがね」


 聞けば先日のゴ・ズマの侵攻以降、この国はもとより周辺国も危機を感じて軍備の増強に踏み切った。

 そのため当然、武器を製造するのに必要な鉄が、くず鉄はもちろん鉄鉱石から砂鉄に至るまで高騰しているという。


「今まで材料の鉄鉱石を買ってきて、ここで道具や武器にして、我が国や他の国に売っていたんですが、材料が手に入らなくなっちまったんじゃあお手上げなんでさぁ……。先の戦で使えなくなった分や、敵の武具を溶かして作り直してはみましたが、あっという間に底をついてしまって、これ以上の生産はとてもとても」


「なるほど。鉄が足りないわけか……」


 次に道具や機械を作っている工房に向かう。こちらも鉄が足りずに開店休業状態になっていた。


「機械屋はあるのかな?」


「ええ、一軒だけですが、他国から購入した置時計の修理を主に行っている店があるようです」


 店の主人は寡黙だが、品ぞろえを見ると修理だけでなく、試しに作ったランプなどもあるようだった。


「親父さん、見てほしいものがあるんだけど」


「へぇ」


「これを、作れるかな?」


 ソウタが取り出したのは筒のようなもの。


「こいつは一体何の機械で?」


 ソウタが取り出したのは、ファイアピストン。空気が漏れないようになっている管の空気を一気に圧縮して熱を出させ、押し込んだ棒の先につけられた綿や炭に火をつけるという発火機だ。

 通販で売っている子供向けの実験器具だが、リュックの中に入れていたのだった。


「これは原理をみせるための特別なつくりだから、同じことができれば材料は何でもいいんだ」


 そう言って器具の先端に綿をつけて一気に押し込むと、綿に火が付くのがよく見えた。


「すっげー!魔法じゃん!」


「閣下、すごいです!火打石を使わずに火を熾してしまうなんて!!」


 ヒイロとリン、そして機械屋の主人も驚く。


「参考に置いていくから作っておいてくれ。そうそう、いずれどこの家にも一つずつ、置けるぐらい普及させたいからね」


「へ、へへぇ!」


 早速、機械屋の主人はファイアピストンを持って奥に引きこもってしまう。


「ソウタくん、こんなの持って来ていたんだね」


「最初はヤバい場所でサバイバルを想定していたからな。火付けの道具は安いガスに高めのオイルライター、防水マッチに、金属削って火をつけるファイヤスターターまで一通り持ち込んだんだ」


 そう言うとリュックのポケットを広げて、それらが入っているのを見せたのだった。


「火というと、銃とか大砲、火薬はあるのかな?」


「火薬でしたらギルドがあります」


 案内されて向かうと、町の一角に臼砲らしいものが玄関に置かれている建物があった。


「火薬について話を聞きたい」


 カ・ナンの火薬ギルドは設立されて30年ほど。エリの祖父の代に設立され、家々の床下や洞窟などの土を採取する特権を与えられていた。


 だが、例によって詳しい製法は秘伝になっていて、大砲などを持って誇示していても実際に使える戦力と見なされておらず、製造した火薬は祭事の際の花火以外は、国外に輸出しているという。

 ソウタが尋ねてきた事は想定外で、しかも露骨に警戒していたので、手持ちの量などについてははぐらかすばかりで教えようとしなかった。


「わかった。火薬の秘密を知られたくないんだな。だったら俺が製法を知っていることを教えてやるよ」


 ソウタは口元をニヤケさせて得々と語る。


「火薬は硝石と硫黄と木炭を混ぜて作るもので、お前たちが床下の土を集めるのは、その土から火薬の主な原料の硝石が抽出できるからだ」


 ソウタが火薬の製法と、硝石を抽出する古土法を本当に知っていたことに驚嘆した親方は、態度を変えて平伏した。


「俺は別に火薬の製法を暴露して、お前さんたちの特権を剥ごうなんて考えちゃいないよ。今の手持ちの量を教えて欲しいのと、今後、素直に協力してくれるか確認したかっただけだよ」


 素直に協力してくれれば、より効率的な硝石の製造方法を教えてやると告げたところ、話に飛びついて全面協力を誓ってくれた。


 はなしを詳細に聞いたところ、玄関にあった臼砲や、金属製の壺の下に棒を取り付けたハンドカノンの技術はあるが、あくまで城攻めの際の城門やぶりに使える程度のものしか持たず、黒色火薬も今の所ドラム缶ほどの樽に30ほどしか持ち合わせていないという事だった。


 夜は町長の邸宅で宿泊、だったのを、ソウタは広間に主だった職人たちを集めさせての酒宴に切り替えさせた。


「この国を救うには皆さんの力が必要です。どうかよろしくお願いします!」


 宴な開幕に、ソウタが大声で協力を頼み込む。先日の夕食でこの国で出回っているお酒の度数は把握していたので、持ち込んだ焼酎を1/3程度に薄めたものを出した。


「おお、これが新任閣下の国の酒ですかい!」


 旨いという者、舌にあわない様子の者、あまり耐性なく酔いつぶれてしまった者と反応はそれぞれだったが、悪い効果にはなっていないようだった。


 ギリギリまでソウタは彼らと酒を飲んだ。そして気が付くと、用意されていた自分用の宿泊所の床の上に転がされていた。


「ソウタくん、いきなり無茶しすぎだよ!」


 リュックの中に入っていた二日酔い対策の薬を見つけたヒトミは、水と一緒にそれを差し出してくれた。


「仕方ないだろ……。あの人たちにそっぽ向かれたら、本当にどうしようもなくなるからさ……」


「それはそうだけど……」


「閣下、シシノ騎兵団長の言われる通りです。何卒ご自愛ください」


「ありがとう。明日から注意するよ……」


 薬を水で一気に流し込んで、そのままソウタは床に沈んでいった……。

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