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第23話 膠着状態 その4

「衛生兵は負傷者を早く収容して後方に送ってください!他の部隊は防衛線の修復と整理をお願いします!」


 第一線の一部が一時的に突破されてしまったカ・ナン軍。敵に比べれば圧倒的に少ないが、彼らにとってはこれまでで最大規模の負傷者が発生していた。


 だが、彼らは後方に整備されていた病院に続々と送られ、この世界では最も手厚い治療が受けられるのだ。


「敵兵も混じっていますが?!」


「ここまで乗り込んできた勇敢な者を無下にはできません。我が軍の兵たちと同等の治療を」


 こうして生き残って捕虜になった者たちも病院に送られた。捕虜たちは脱走できないように事前に準備されていた隔離棟に送られたが、治療は自軍と同等に行われていた。


(これがカ・ナンか……)


 グナージは指揮官ということもあり、特に隔離された部屋に入れられる事に。


「へぇ。中々立派な寝床じゃないか」


 観念したグナージは傷が癒えるまでは脱走せず、この国の様子を中から眺める事にした。そして久しぶりの整った寝床で、思うまま睡眠を貪った。


 負傷者たちを収監すると同時に、工兵隊が夜を徹して防衛線の修復、有刺鉄線の張り直しを行う。有刺鉄線の張り直しは白色の照明の下で行われ、その様子はゴ・ズマ側にもあえて晒していた。そして翌朝には昨日の戦の後が残らぬほどに修復されていた。


「見ろよ。やっと空けた穴がもう元通りに塞がれてるじゃないか!」


「あれだけ犠牲を払ったのに……」


 それを遠巻きに見たゴ・ズマの兵士たちに落胆の声が漏れる。


「一度成功したのだ!二度三度、敵が力尽きるまで続けるのだ!」


 前線指揮官が激を飛ばすが、応じて鬨の声をあげるものは無かった。それを見た上層部の誰もが、兵たちの士気低下を実感せずにはいられなかった。


 昼前にグナージに訪問者が。


「貴方が昨日の指揮官なのですね?」


「ああ。俺はサンダソー・グナージ。ゲンブ大帝率いる二十四勇士の一人、ファルコの息子だ」


 グナージは全身に包帯が巻かれ、無闇に動かないように衛生兵に取り押さえられていた。


「私はタツノ・ヒトミ。二十四勇士のユキヒロとミーナの娘です」


「おお……。貴方がヒトミ親王妃殿下であらせられるか」


 グナージは強引に体を起すと、ベッドの上で深々と頭を下げた。ヒトミは彼の示した態度に驚きを隠せない。


「親王妃殿下、何故に私の命を取らなかったのですか?」


「私たちが心血注いで築き上げた防衛線に、最初に踏み込んだ勇者の命を奪うのは忍びなかったからです」


 ヒトミは表情を崩さずに告げた。戦闘の経過を見て、奪還が目前になったところでできるだけ進入した敵兵を生かして捕らえる様、彼女が指示していたのだ。


「お褒め頂き、恐縮です」


「お疲れヒトミ。彼が捕虜にした敵将か」


 遅れて来たのはソウタだった。


「ありがとうソウタくん。この人は私たちの両親たちの友達のお子さんのグナージさん」


「俺はソウタ。カ・ナンの宰相タツノ・ソウタだ」


「おお、親王殿下まで!」


 グナージはヒトミに対してと同等の礼をソウタにも捧げた。


「君の名前と出自は聞いたから、後は話せる事だけ教えてくれ。無理に機密を聞き出そうとも思わないから。その代わり君は怪我が治ったとしてもこの戦いが終わるまで、伯父貴の所には返さないよ」


「ははぁっ!生き残った部下たちの処遇共々、親王殿下と親王后殿下に感謝致します!」


 グナージは明確に、ソウタたちを敵国の首魁ではなく、ゴ・ズマの親王として敬意を払っていた。


「しかし親王って……、俺たちはゴ・ズマに敵対しているんだけど」


「テラ参謀総長より、ソウタ親王殿下、ヒトミ親王妃殿下、エリ親王妃殿下のお三方は、必ず生かして捕らえる様にと命令を受けておりました。しかしその私が逆に捕虜にされようとは……。さすがです!」


 グナージはエリに対してもカ・ナンの女王と呼ばず、ソウタの妻として親王妃の肩書きで呼んでいた。

 ゴ・ズマ側でも上層部では、三人が二十四勇士の子供らであり、特にソウタがゲンブ大帝の血族であることは承知されているということなのだ。


 視察を終えたソウタとヒトミは、王宮に戻ってエリにその旨を告げた。


「なるほどね。つまりまだ私たち“だけ”は投降すれば助けてもらえるって事ね。でもそんな事をしたら、他のみんなを見捨てることになるわ」


「だからこのまま抵抗続行だな」


「もちろんよ。向こうが根を上げるまで徹底抗戦あるのみよ!」


 そしてエリはソウタの話を聞いて、グナージに面会する事を決めた。


「私はカ・ナンの女王よ!ゴ・ズマの親王妃じゃないんだから!」


 一方、昨日の敗北は、ゴ・ズマ側に大きな波紋を広げていた。


「これが我々の現状か……」


 ここは被征服国の部隊の天幕。ゴ・ズマからの割り当てで派兵した一国の将たちは悲鳴をあげていた。

 昨日の出撃で加わった兵たちの三割が戦死し、大半が負傷して戻ってきたからだ。それも矢傷や槍や剣での切り傷とも異なる、肉をえぐり骨をも砕く銃撃での傷を受けて。


「もはやこれ以上は攻撃に参加できん!このままでは我らは使い潰されて全滅してしまう!」


 一般兵たちはもちろん、被征服国の部隊の指揮官である将軍たちや王らは、完全に戦意を喪失していた。一部の兵に至っては、反乱を起こす機運にさえなっていた。


「監察官が来たらこの様子を隠さず晒せ!当分我々は戦えんぞ!」


 やがて視察に来た監察官もこの悲惨な様子を見て戻っていく。


「どこもこれと変わらんから、次も出せだと?!」


 監察官から投げつけられた言葉に激高する将。彼は隠密を呼び、手紙を渡した。


(よいな、必ずカ・ナンに届けるのだ)

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