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第23話 膠着状態 その2

「まあいいか。俺もたまには休みたいし……」


 しばらく笑い合ったあと、互いに唇を重ねてから抱き合って床に就く。


「今夜は久しぶりに私がソウタくんを独り占め……」


 ヒトミはソウタの懐に抱かれて泥のように眠りに就いた。


 幸い、この夜も呼び出されることはなく、ヒトミは最愛の夫の懐の中で朝を迎える事ができた。


「おはようソウタくん」


「おはようヒトミ」


 目覚めのキスを交わして朝食を共にする。


 ヒトミは戦いが始まってからは、帰宅の際に入浴こそすれ、翌朝は営みを行った後でさえ入浴することは無くなっていた。


「だってソウタくんの匂い、少しでも長く身体に残しておきたいもの」


 敵の本隊との戦闘開始から二週間ほどは、ヒトミは司令部に詰めたままで帰宅しなかった。ほとんど毎夜、塹壕で待機する兵たちを見回って労い、天幕で寝泊りしていた。


「私が前線から離れたら、戦っている皆さんに申し訳が……」


 前線で塹壕に張り付いている兵たちを思うと、後方に引くわけにはいかないというヒトミ。だが、日に日に憔悴しているのは誰の目にも明らかだった。


「将軍、ここは前線とはいえ王都の傍。兵たちも数日おきに交代して屋根付きの宿舎で休息を取れていますから、貴方が連日司令部の天幕で寝泊りせずとも、士気と指揮のいずれにも問題は出ますまい」


「で、ですが……」


「距離はもちろんですが、ここは王都と伝令無しで連絡が、機械で会話さえできるのです。むしろ貴方が憔悴したままのお顔で声を掛けられると、かえって兵を不安がらせましょう。何よりいざという時に最高指揮官が憔悴のせいで判断を誤られる方が余程危うい……」


 歴戦の勇者の言葉にアタラも同意する。


「ヒトミ将軍、休める時に休むのもまた務めだ」


「……」


 周囲の幕僚たちも、メリーベルも無言で頷く。


「ですからこちらには無理に連日夜まで詰めずに、夜はご自宅でお過ごし下さい」


 こうしてマガフに説得されて、夜の巡回後はしっかりと休みを取るために帰宅することをヒトミは決めた。


 ヒトミの様子を心配していたソウタもエリもそれを聞いて安堵し、ヒトミが前線から戻る日には二人のどちらかが必ず傍にいるように調整した。


「疲れた顔してたらダメだって、みんなに怒られちゃった……」


「じゃあ、毎日元気な顔を見せなきゃいけないよな」


「うん」


 こうしてヒトミはほとんど毎晩帰宅するようになった。ソウタが自宅に戻っている時は自宅に、出張で出ているときは王宮のエリの下に。


 ともあれ、また敵が長期間攻勢を続ければ、帰宅は覚束なくなるだろう。だから、ヒトミはソウタの匂いを、身を重ねた痕跡を大切に残してから戦場に向かうようになっていた。

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