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第22話 大帝親征 その7

「いけますな」


 マガフは戦場の様子を双眼鏡で眺めながら呟いた。


 火薬は、ゴ・ズマだけでなく各国の予想を遥かに上回る量を確保していた。


 主原料の硝石は、ソウタたちが開発した高速硝石製造法で生産が続けられており、硫黄も日本から追加を持ち込むなどして、十分な量を確保している。


 さすがに消費した量の完全な穴埋めができる訳ではないが、今の調子でも、向こう一年近く消費し続けられる見込みであった。


 他に必要となる各種の資材も、ソウタが手配して転移門から供給されていた。


「今のところ損害は予想以下に留まっています。この調子なら弾薬の補充が利く限り、何年でも持ち堪えられましょう」


「ええ。交代、休息も可能で士気も高いようです。こちらが無闇に攻勢にでなければ、極端に損害を出すことは無いでしょう」


 指揮所でヒトミとマガフは戦況を分析していた。


 ゴ・ズマの布陣は山頂の砦から丸見えであり、動向は常に無線で報告されていた。


 ゴ・ズマにとってはまったく目障りな存在だが、この砦を攻めようにも、大軍を用いることは不可能で、近づくことさえ困難なため、包囲したまま放置するしかなかった。


 無論、ゴ・ズマも指を咥えていたわけではなく、この間にも他の進入ルートの開拓が続けられていた。


 だが、他の方面は修験者でしか踏破できないような峻険な山岳地帯だったので、特別な訓練を積んだ者でなければ踏破事態が困難だった。


 その上、猟兵部隊の狼の一群が常に巡回しており、さらに野生種の狼の縄張りもある。


 こうして進入を図った間者たちは悉く発見され、襲撃され、食い殺されていった。


 また、この地で定期的に発生する濃霧は、発生のたびにゴ・ズマを恐れさせた。


 大隧道などでの毒ガス攻撃は兵たちに恐怖を刻んでおり、濃霧を瘴気だと恐れて恐慌に陥る兵たちが続出していたのだ。


 さらに追い討ちをかけるように、濃霧にまぎれて催涙弾を投げ込み、前線部隊の物資集積地を焼き払う奇襲攻撃を行っていたため、濃霧が晴れる頃には、前線の陣地が壊乱する状況になっていた。





『陛下、申し訳ありません……』


 ゴ・ズマの大帝の大天幕。早朝から幕僚たちが居並び、大帝に向かって一斉に土下座をしている。


「本隊が攻略を開始してはや三ヶ月。ですが、敵城を落とすどころか、未だ第一線さえ抜くことさえできておりませぬ……」


 本隊が攻略を開始して三ヶ月が経過したものの、未だに戦局は膠着したまま。


 だがカ・ナンは疲弊する様子を見せず、逆にゴ・ズマは徒に兵を失い、大いに疲弊。さらにゴ・ズマが征服して従えた国の部隊はさらに悲惨だった。


 彼らは損耗しても構わないとばかりに次々と死地に投入され、無残に屍をさらすばかり。交代も許されず、死に向かって前進する事しか許されないため、士気は地に落ち、脱走を試みる者が相次いでいた。


 だが、カ・ナンからの脱走は困難を極める。


 カ・ナンは一般兵の投降を拒絶していたため、逃れるには切り立った岩山を越えるか、大隧道を抜けるしか無いからだ。


 当然大隧道はゴ・ズマの部隊がひしめいている為、脱走はまず不可能。


 そのため岩山を越えようとして滑落する者、川を下ろうとして滝つぼから落ちる者が続出していたのだ。


「このまま時間をかければ、こちらが不利になる一方です……」


「俺はあの城を落とせと命じたが?」


 大帝は、カ・ナンへの侵攻に際して、大まかな指示しか出していない。具体的な方法は全て部下たちに任せていた。


 そしてこの返答は、まだ大帝から具体的な指示は出さず、幕僚たちに任せる、それも和平交渉は考えていないという意味でもあった。


「ははっ!本日中には、増援部隊が到着しますので、明日には次なる攻勢を仕掛けます!」


 大きくうなづくと、大帝は多少の護衛を引き連れて、日課である兵たちの視察に向かった。


 大帝が兵たちの陣屋を訪ねる際は、並みの馬も倍ほど大きな愛馬、黒龍を連れているが、騎乗せず徒歩で訪問。そして気さくに兵たちに声を掛け、時に共に食事や酒も飲むので、大帝は兵たちに慕われていた。


 だが、その兵たちの様子は、このカ・ナンでは明らかに変異していた。立ち上がって出迎えてくれるものの、明らかに様子が変わっていたのだ。


「陛下……、陛下……」


 先に続く言葉を無理やり押し込めようとしているのが目に見えてわかる。


 今までの戦とは全く異なり、矢と銃弾、榴散弾の破片が豪雨のように降り注ぎ、前進すれば敵陣に踏み込む間もなく肉片にされる。場合によっては毒ガスによって命を奪われる戦闘が続き、心身ともに擦り切れていたのだ。


(ふむ……)


 ゴ・ズマの直轄部隊でこの有様である。被征服国の部隊は目も当てられないほどであろう。それでも大帝は今まで通り視察を済ませると、悠々と自分の大天幕に戻った。

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