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第22話 大帝親征 その6

「次」


 その次に採用されたのはカ・ナンに対抗して塹壕を掘る、それもジグザグに相手に向かって掘り進めて射撃を凌ぎながら接近を図る戦術だった。


「確かに塹壕を少しずつこちらに延ばせば、それだけ安全に接近する事ができるようになります。ですが……」


「あいよ!アタシたちの出番だね!」


 夜を徹して行われる塹壕の掘削作業。


 そこへメリーベルの海兵団が夜襲を仕掛けたのだ。


「そらよ!こいつを受け取りな!」


 海兵団が投げ込んだのは、薬品の入った壷。塹壕で炸裂すると、中身が混ざって飛び散り、黄緑色のガスを発生させた。


「逃げろ!毒霧だ!」


 空気より比重が重い塩素ガスは、地面より低い塹壕に滔々と流れ込み、作業員たちを身もだえさせ、命さえ奪っていく。


 あまりに多数の犠牲者を出したため、とうとう塹壕の採掘作業も中止に追い込まれた。


「次」


 そして切り札として持ち込まれたのは、“地上の雷”と名付けられた巨大大砲だった。


 銃弾や矢が全く届かない有効射程ギリギリにてくみ上げられた巨大砲は三門。


 防衛線と王都の城壁に向けられ、轟然と火を噴いた。


 300kgにも及ぶ巨石の砲丸が宙を切る。


 これまで幾多の城壁を粉砕してきた地上の雷の一撃がニライの城壁を直撃した。


 だが、ローマンコンクリート製の分厚い城壁には、その一撃さえ多少の亀裂と凹みを受けたに留まる。


 他の二門は各々機関銃が設置されたトーチカに向けられた。こちらも大砲での攻撃に備えて、厚さ1m以上のコンクリートで固められており、その砲撃を寄せ付けなかった。


 装填から発射まで、一発ごとに一時間近い時間が費やされる地上の雷は、日が昇る間中続けられたが、めぼしい効果は無かった。


 逆に砲撃の負荷に耐えられず、巨砲が発射後に破損し使い物にならなくなったり、果ては盛大に火柱を上げて自爆する砲もあった。


 かくして巨砲による砲撃は、三日目にして全門が沈黙し、無残な失敗に終わった。


 この結果に、カ・ナン側は大いに沸き立ち、ゴ・ズマ側は逆に落胆・消沈した。


「おのれ……やってくれおる!」


 この結果に、一言漏らすと顔を太陽のように真っ赤にして肩を震わせる大帝の様子に、部下たちは低頭して震え上がっていた。


「陛下が、陛下が烈火のごとくお怒りだ!!」


 だが、この時のゲンイチは怒りでなく、腹の底から込み上げて来る笑いを噛み殺すのに必死になっていたのだった。


(ソウタのやつめ、やりおる!ガハハハハハ)


 ともあれ、ゴ・ズマの一ヶ月に及ぶ大規模な攻勢は停止され、長期戦に移った。そして以降の攻撃は散発的なものとなっていた。






 敵の本隊からの攻撃が始まって三ヶ月が経過していた。


 カ・ナン側の兵たちは、攻め寄せる敵を見ながら話する。


「敵さん、久しぶりだな」


 この日は一週間ぶりに正面切って敵が攻めてきた。その装備を見て何人かが驚いていた。


「おい、あの様子だと北の方は征服されちまったみたいだ」


 見慣れた鎧をまとった部隊が出現した事から、今回の遠征で投降してきた周辺国の兵たちが投入されたのを理解した。


「可哀想だが、やらなきゃやられるぞ!」


 そう。いくら周辺国の兵であっても、敵は敵なのだ。


 この近辺の指揮官に観測者が報告する。


「間もなく、敵部隊が射程に入ります!」


「ようし、射撃用意!」


 銃兵たちは塹壕から頭と銃を出して敵の方向に向ける。


「撃てぇ!」


 一斉射撃の轟音が轟き、視界がたちまち白い硝煙で覆われる。


「交換、急げ!」


 装填手から装填が終わった銃を受け取り、撃ち終わった銃と交換する。


「うてぇ!」


 こうした発砲がしばらく繰り返される。敵が攻め寄せて来る度に反復で行われる作業だ。


 この作業が一時間も続くと、ここ最近は敵の進撃が打ち止めになる。

 視界は硝煙で不良だが、合間に聞こえてくる迫り来る足音が遠のくのでわかる。


「やれやれ、とりあえず諦めてくれたか……」


 風が吹いて硝煙が徐々に晴れていく。


 その下に広がっているのは、やはりゴ・ズマ兵たちの累々たる屍であった。


 防衛線の手前にはゴ・ズマ兵らが“鋼の茨”と呼んで恐れる有刺鉄線が三重に敷かれ、進撃を文字通り絡め取る。そこにミニエー弾とロングボウの矢の雨が降り注ぎ、さらに空中で破裂し、破片を撒き散らす砲弾を打ち出す迫撃砲まで加わるのだ。


 これらの鉄の豪雨のような攻撃によって、突撃してきた部隊は次々と部隊丸ごと打ち砕かれ、大地に真っ赤な花を咲かせて散っていった。


「このままあそこを開墾して畑にしたら、沢山収穫できるんじゃないのか?」


「ああ。あれじゃあ手柄どころか、肥料になるために来たようなもんだぜ……」


 兵たちは口々に言い合っていた。

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