第22話 大帝親征 その5
『攻勢中止!!』
想像を絶する惨状を目にして、第一波攻撃は中止された。意気揚々と突撃した兵たちは大半が死傷し、その負傷もこれまで誰も見たことが無いほど酷い傷であった。
『第二波攻撃開始!!』
第一波の全滅に等しい惨状にも関わらず、第二波攻撃が開始されたが、やはり屍を山と増やすだけの結果に終わった。
日が傾く前に第三波攻撃が開始された。だが、それまでの損害の激しさに兵たちは尻込みしてしまう。
『臆するな!行けい!』
命令に応えて勇敢に突撃した一団が、衆目を集める中であえなく散華したのを見ると、第三波攻撃は中途で打ち止めに。
こうして、あまりに多大な犠牲と、全く衰えを見せない攻撃を前に、この日の攻撃は中止に追い込まれてしまった。
「陛下、あれほど火薬を用いた反撃が長続きするとは考えられません。敵の火薬が尽き果てるまで攻撃を続けましょう」
「……」
こうして初日の大損害にも拘らず、波状攻撃はそれから一週間続けられた。
だが、その度に不断に湧き出す硝煙の雲の中から、水平に放たれる鉛玉の豪雨が浴びせられ、兵たちは屍になって大地を覆うばかり。
「あれほど火薬を消費して、なお衰えぬというのか?」
この一週間で、すでに数万の兵たちが命を落とし、負傷者はその何倍にも達していた。
あまりの損害に、補充に不安を覚えたゴ・ズマの司令部は、正面からの攻撃を中止する事を決定したのだった。
「数を頼んだ力押しでは崩せんか……」
無論、それで攻略を断念したわけではない。
「陛下、次は夜襲を仕掛けます」
「おう、任せる」
夜襲は、良く訓練され統率の取れた者たちでなければ実行ができない、かなり難易度が高い作戦である。
投入されたのは、薄っすらとした月明かりでも統率が取れた戦闘ができる選ばれた精兵たち。彼らは皆、夜に慣れた馬に乗って一気に接近し、防衛線を攻略せんと接近を図ったのだ。
だが、カ・ナン側はその動きを敏感に察知していた。
『こちら第三観測所。敵集団を確認』
『こちら第二観測所。こちらでも第三観測所方面に向かう敵集団を確認した』
カ・ナンの観測所にはそれぞれ暗視装置が設置されていて、見張りが交代しながら常に監視を行っていた。
『敵集団接近中!直ちに配置につけ!』
防衛線の休憩所で眠りについていた者たちは起され、銃を掴んですぐに持ち場に向かう。
彼らが持ち場につき、銃の射程に届いたと同時に、見張り台に設置されていたサーチライトが次々点灯。その明かりは夜襲部隊を、真夏の太陽の日差しよりも明るく照らし出した。
「しまった!」
彼らは空堀に届き、馬から下りたところだった。
『攻撃開始!!』
たちまち日中と変わらぬ勢いで銃弾の雨が彼らに降り注いだ。銃弾の中には曳光弾も混ぜられていて、射撃が夜襲部隊の周辺から集中して行われている様子が、ゴ・ズマ側にも鮮明に見えていた。
「お、おい!あれを見ろよ!」
作戦に参加していない一般の兵にも、夜襲が見破られている様子が明確に見て取れた。
『打ち方止め!』
攻撃時間は十分程度だったが、その短時間のうちに進むも引くもできない夜襲部隊は、人馬諸共に無残に散華していた。
「申し訳ありません……。敵にはフクロウにも勝る夜目を持った見張りが、大勢居るとしか思えません」
「……」
暗視装置の存在を知らないゴ・ズマであったが、以降は夜襲は困難と判断し、採用される事はなかった。
その次に用意されたのは、分厚い鋼鉄のエプロンを身に着けた巨人兵トロルと、人間を遥かに上回る俊敏さを持つゴブリンを調教した魔族兵たちが投入された。
トロルは少数で鈍重だが、矢はもちろん銃弾をも跳ね返す鋼鉄のエプロンを身にまとい前進してくる重戦車である。生半可な攻撃では足を止められないのは明白だった。
「狙撃隊、お願いします!」
ヒトミの命令と同時に、要所に配置されていた狙撃用の対物ライフルが火を噴く。彼らの狙いは、鋼鉄のエプロンでも、鉄兜でもなく、トロルのむき出しの顔面だ。
高精度なスコープで狙いを定め、その狙い通りに直進する大型ライフル銃。
鉄板をも撃ち抜く鉄芯入りの弾丸は、通常の矢や銃弾では生身の肌さえ容易に打ちぬけないトロルの肉体、その顔面を撃ち抜き、頭部を一撃でカボチャのように粉砕した。
頭部を粉砕されたトロルは、それでも前進していたが、被っていた鉄兜が地面に届くと同時に前のめりに崩れ落ちる。
カ・ナンの軍勢は大いに沸き立ち、ゴ・ズマの軍勢に落胆と恐怖の声が漏れる。
鈍重で従順なトロルたちは、仲間の死を気にしないのか気づかないのか、そのまま直進するが、次々と射殺されていく。
また、小柄で俊敏なゴブリンたちは有刺鉄線網をなんとか潜って近づくが、トロルが次々死んでいくのを目にして狼狽し、さらに雨あられと銃弾と矢の雨を浴びて次々と射殺され、ついに逃げ出してしまう。
かくして魔族兵による攻勢も失敗に終わった。




