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ユニークユーザー

作者: ふりまじんA

ネット小説を投稿した中年の話です。新しい言葉を覚えて浮かれる男女のトンチンカンなやり取りです。

 




「ふふっ。ふはははっ。」

声優気取りで瀬兼(せけん)奈美(なみ)は、絵に書いたような高笑いをした。

「どうしたの?」

剛は、そのエキセントリックな笑い方に驚きながら、奈美を見た。

「つよしぃ…私たち、とうとう、名実ともに底辺作家になったわ。」

奈美は剛のタブレットを見つめて微笑んだ。どうも、一週間前に投稿した小説の話らしい。

「作家!?俺、なにもしてないよ…。書いたのは瀬謙さんなんだから、作家は瀬謙さんの事だよ。」

剛は、これ以上なく誇らしげに奈美を見て、はにかみながら言葉を続けた。

「おめでとう。」


底辺作家とは、インターネットで書いている、下手の横好きの、誰からも評価されない、感想も、レビューもらえない人物を蔑む時に使われる用語らしい。

最近、それを知った奈美は、不良を気取って使ってみたのだが、そんな用語を知るよしもない剛は、素直に賛辞の言葉を投げ掛けたのだ。

「あ、ありがとう。」

並みいる底辺作家の中で、多分、希少部位になるだろう暖かな言葉で、この称号をいただいた奈美は、苦笑しながらコーヒーを飲んだ。

「凄いね。これで、念願の小説家だよ。また書くんでしょ?小説。」

「ば、ばかっ。」

屈託なく、大声で奈美の家の近所の喫茶店で作家を連呼する剛に、奈美は赤面しながら静止する。最近、仕事が少ない上に、ネットで小説を書いてるなんて噂がたったら、近所の面白ネタ、決定だ。阻止するしかない。

「か、書くわけ無いでしょ…あれは、遊びよ。それに、フリマの応募期間は過ぎていたじゃない。来年よ、らいねん。」

奈美は、軽く流しながら、話題を変えようと、なんとなくあたり見回した。

「でも、みんなゼロだね。評価とか。あれ、これは何かな?」

剛は、大きな体を気持ち丸めながら、タブレットを抱えて何かを見ていた。

「ユニークユーザー…って、何かな?」

「ユニーク・ユーザー?」

奈美は興味をひかれて画面を見た。そこには、確かにユニーク・ユーザーなる文字がある。100未満?

はて、何の事だろう?


「多分、面白いユーザーを運営の人が評価をくれるんだよ。ユニークってそんな意味でしょ?」

奈美は、不思議そうに周りの作品を見る。

奈美の近くに並ぶ、評価の低い仲間の作品は、同じように100未満である。

やはり、底辺作家にはユーモアが足りないと言うことなのか…

奈美は、ネット小説の奥深さに感心した。

どうやったら、評価高めのユニーク・ユーザーになれるんだろう?奈美は、興味をひかれて、次々と作品の一覧をスクロールして行く、と、その手が止まった。

て、底辺なのに、ユニーク度数が高い人がいる!


奈美は、一秒、その作家の説明をみた。どうも、異世界ファンタジーの作家らしいが、取り分けてユニークと言うわけでもなさそうだ。評価も奈美と同じくゼロである。ただ、ブックマークは3桁!ある。


私の知らない何かが、この作品にはあるに違いないわ。


奈美は、作品をクリックすると慎重に物語を読み始めた。


わからない…


奈美は、作品はどう見ても普通の物語だった。特に笑いを取りに来てるわけでもなく、いや、むしろ、この話は暗い。どちらかと言えば、奈美の投稿した剛の初めてのクルトンで、口の中が刺さって七転八倒した話の方が、よほど笑いどころがあると思う。奈美は中学時代の初めてマイナスの掛け算をしたときの事を思い出していた。


借金と借金をかけるとなぜプラスになるのか?

その答えを真剣に考えて、ビッグバンにまで意識がいき、先生に叱られた事があった。

「瀬謙、借金の事は忘れるんだ。」

先生は、イライラしながら困ったように瀬謙をにらんだ。

この場合も、ユニークを忘れなければいけないのかしら?


「ごめーん。遅れて。」喫茶店のドアが開いて、小気味の良いドアベルの音と共に、友人の由芽(ゆめ) 晴香(はるか)がやって来た。「あっ、晴香さん。お久しぶり。」

一瞬、悩みを忘れて奈美は笑顔で晴香を出迎えた。

晴香は、人懐っこい微笑みを浮かべながら、奈美の向かい側の席に座った。

「ネット小説始めたの?」

開口一番、晴香は興味深そうに奈美を見た。

「うん、底辺作家なんだけど。」

奈美は苦笑して、晴香の困った顔に満足する。

やはり、この反応じゃなきゃ。

「由芽さん。こんにちは。これ、瀬謙さんの小説だよ。面白いよね?」

剛は、タブレットを奈美から取り返し、奈美の作品を晴香に見せた。


ち、ちょっとお…


瞬間、奈美は照れながら慌てたが、いつもは愚鈍なくせに、剛はこう言うときは素早くて、晴香に作品を読まれていた。

晴香は、奈美より少し年上の医者の娘で、バツイチ独身、子供なし。色香漂う熟女である。ついでにインテリジェンスも高くて…奈美は、自分の馬鹿げた作品が、晴香の手入れの行き届いた桜色の爪につま開かれて行くのをみながら、劣等生にでもなった気分を久しぶりに味わった。

「面白いよね?ユニークだと思うけどなぁ。なんで100未満なのかな?」

剛は、いつものアメリカンコーヒーをゆったりと飲み干しながら、まるで世界の有事を考える、どこぞの大統領のように丸い腹の上で両手を組んで天井を仰ぎ見た。

「つまらなかったのよ。私の書いたアンタの馬鹿話なんて…。」

奈美は、破れかぶれでぼやいた。大体、読了数分の剛がクルトンを無防備に口に入れて悶絶する話なんて、そんなに評価されるわけもない。奈美の作品の回りには、長期連載の、題名からして仰々しい話がならんでいるではないか!

「ユニークって、なんか、もっと、上品でウイットにとんだ素敵な話なのよ。なんと言っても、これは小説のサイトなんだから。ブログの記事みたいに閲覧数なんて載らないんだもの。閲覧数なら、もう少し、評価が高かったかもしれないのに。」

奈美は、悔しそうに口を尖らせた。その横で、晴香は不思議そうに眉を寄せて首をかしげた。

「あら?あるわよ。閲覧数、と、いうか、閲覧した人数。」

「え?」

奈美は、驚いてタブレットを見たが、よくわからない。不振そうな奈美をみて、晴香が親切にその数字を指差した。


ユニークユーザー 100未満


「え、こ、これが閲覧人数なの?」

奈美は、当惑を隠そうと口を強く結んで、もう一度画面を見いる。

「ええ、100人未満は表示されないから、わからなかったのね。」

晴香の明るい声と、桜色の美しい爪を見つめながら、じんわりと恥ずかしさが染み入る奈美であった。



これはフィクションです。小説家になろうに投稿してるようにみえますが、違います。

因みになろうは、ユニークアクセスです。


最後まで読んでくださってありがとう。ユニークアクセスの意味が分からずに悩んでいた私は、それをヒントに書いてみました。

いつの間にか、ユニークユーザーに脳内変換していました。

なんか、すいません。


あれから一年です。まだまだ、なろうの機能がわかりません。いつか、みてみんを使って見たいとも思うのですが、沢山の評価ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 節々がユニークで面白かったです。 きっとぱぱっと書いたお話なのでしょうが、作者様の他のお話を読んでみたくなるほど、この短い作品にセンスを感じました。 [気になる点] 瀬謙 奈美さんが女の子…
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