入門編『関数』
家に帰り晩飯のシチューを食べた後、エイダは疲れ果てベッドに倒れこむ様に寝た。家に無事に帰れて安心したのだろう。初めての戦闘に精神を擦り減らし、魔力のほとんどを使い切った。ただ次の朝には全快していた。子供の回復力は並ではない。
エイダの父は、早朝にジャイアントスパイダーの調査に向かった。母もエイダが元気なのを確認したので、後で合流するそうだ。テーブルで朝ご飯を食べながら、エイダは今日の予定を考える。天気も良いし、魔導書を持って外にでかける事にした。
「お母さん、外に遊びに行ってくるね」
エイダは朝飯のパンを食べながら、台所にいる母に言う。
「遠くには行かない様に。特に森の中とか」
洗い物をしながら、母は釘を刺しておく。
「村の中だから安心して」
エイダは残りのパンを口に放り込み、水で流し込む。そして魔導書を持って玄関に向かう。
「行ってひまぅ〜ふ」
母はエイダを呼び止める。
「あら、その魔導書も持っていくの?」
「うん」
母は娘にマフラーを巻きながら、微笑む。先程まで、お昼にと作っておいたサンドウィッチをエイダに持たせる。
「そう。くれぐれも、私の言い付けを守る様に」
「絶対に遠くに行かないよ」
勿論とエイダは胸を張る。若干魔導書が震えている様な気がしたが、気のせいだろうとエイダは思った。
「行ってらっしゃい」
「は〜い」
エイダは元気よく玄関を飛び出した。
エイダは家々を駆け抜け、村を見渡せる丘に向かった。なだらかな坂に見渡す限りの草原が広がる。春は色とりどりの花が一面を覆い尽くす。時々放牧された家畜がやって来る、ほのぼのした場所。母の言いつけ通り、一応村の中だ。
「魔導書さん、もう大丈夫だよ」
辺りに誰もいないことを確認し、魔導書に話しかける。
「ここは?」
「私のお気に入りの場所。風景がすごく綺麗なの」
エイダは草原に腰を下ろす。太陽の光はまだ暖かいが、時折吹く風が冷たく感じる。
「母親も出掛ける様だったし、別に家の中でも良かったのでは?」
「こんな良い天気なのに、外に出ないのは勿体無いよ」
「そうか」
魔導書はインドア派だが、エイダはアウトドア派の様だ。
「それじゃ魔導書さん、約束通り魔法を教えて?」
「うむ」
咳払いをし、魔導書の授業が始まる。
「まずエイダの状況を把握したい。両親には何を教えてもらっている?」
エイダは指を頬に当てながら答える。
「お父さんには剣の基礎。お母さんには読み書き、英語、算数」
「基礎をしっかり学んでるみたいだな」
魔導書は褒めるが、エイダは少し悲しそうにうなだれる。
「多分お母さんは、私に冒険者になって欲しくないんだと思う」
「何ぜそう思う?」
「だって魔法、全然教えてくれないし。英語とか数学じゃ冒険者になれないよ」
落ち込んでいるエイダに、魔導書は優しく諭す。
「知力を鍛えると、魔力が上がるし、それに読み書きは勿論、英語も数学もjavascriptを組む時かなり役に立つぞ?」
「ジャバスクリプト?」
エイダは初めて聞く言葉に首を傾げる。
「魔導書内で、魔法を起動・制御するのに使われているプログラミング言語」
「?」
魔導書は?マークが浮かんでいるエイダに尋ねる。
「エイダ母はいつもどうやって、火の魔法を唱えてる?」
「魔導書に手を当てて『fire open parenthesis close parenthesis』って唱えて、目標に手をかざすとビューって火が飛んでってる」
「唱えているのがjavascriptの命令文。命令文が魔導書に書き込まれて、あらかじめ定義されている『fire』と言いう名の関数が呼び出されて、火の魔法が起動する。ちなみに魔導書にはこんな感じに書き込まれる」
fire()
魔導書のページに文字列が浮き上がってくる。
「命令文?定義?関数?呼び出す?」
しかしエイダは聞きなれない単語の洪水に、かなり戸惑っている。
「具体例を上げて説明すると…2000年以上前に、偉い魔導師が沢山の命令文を組み合わせて、火で敵を倒す複雑な魔法の術式を作り上げた。しかし魔法を起動するのに毎回、全命令文を全部書くのは大変だ。それで使いやすい様に、ひとまとめにし『fire()』と書くだけで呼び出せるようにしたのが関数」
「うんうん」
何となく分かり、エイダは頷く。
「この魔導師は他の魔導師にも使えるように、火の魔法の関数を説明文と一緒に魔術紙に書き込んだ。複製出来るその魔術紙を魔導書に足せば、誰にでも簡単に火の魔法を扱える様になった。使い勝手が非常に良い為、現代で最も人気のある攻撃魔法になったとさ」
「あ、そう言えば」
エイダは魔導書は空白の1ページしかないのを思い出す。
「魔導書さんは関数が書かれた紙を一枚も持ってないの?」
「ああ、持ってない」
「なら、どうして魔法が使えるの?」
「その場で、自分独自の術式を組み上げてるからさ」
エイダは何となく、魔導書がドヤ顔で言っているような気がした。
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは関数を理解した。
『関数』スキルがLV1になった。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
子供は風の子。外は寒くても大丈夫。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV1』
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
結構教えるの好き。
エイダの母
エイダの優しいお母さん。魔導師の冒険者。
子供の意志や自主性を尊重する教育方針。
エイダの父
エイダの強いお父さん。剣士の冒険者。
まだ作者に、絵を描いてもらえていない。
作者より
なろう系の小説の後書きによくある、キャラのログやらステータスを書いてみました。あまり深い意味はありません。魔導書さんがジョーダンで書いている設定。
やっと入門編に入れました。『関数』は重要ですよ。テストに出ますよ。