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異世界の魔法はJavaScriptで起動する  作者: あきらメル
第1章 Hello World!
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いつもの日常へ

エイダが落ち着くまでの数分、母は我が子を抱きしめた。


「何があったの?」


エイダが落ち着いたのを見計らい、母は優しく尋ねる。チラッと娘が投げ出した、魔導書らしきものも確認する。


「やくそうを採取してたら、ジャイアントスパイダーに遭遇したの」


一瞬、周りの大人達に緊張が走る。


「なぜこの時期に?」

「普通、休眠してるよな?」


ジャイアントスパイダーは寒さに極端に弱く、冬が到来する前には巣に閉じこもり、春が来るのをジッと待つ。エイダの両親も問題ないと思い、我が子を森に送り出したのだ。


「大丈夫だったの?」


父と母は、エイダに怪我がないか確認しながら尋ねる。複数の擦り傷を確認し、母の表情は若干曇る。


「えっと、頑張って逃げ切ったの」


「!?」

「えっ?」


エイダの周りの大人達から驚嘆の声が漏れた。


「アイツら、かなりしつこいよな?」

「ああ。匂いを追ってどこまでも追ってくる。獲物が疲れて動けなくなるまで」

「木にも登れるし、川も泳げるし、集団で来るし、ほんと嫌になるよな」

「まあ、匂い袋を囮にすれば、何とか逃げ切れるか?」


周りの大人達がガヤガヤと騒がしい中、父はエイダの頭に手を伸ばす。


「万が一に備えて、匂い袋まで持って行ってたのか?準備周到だな、偉いぞエイダ」


父は頭を撫でながら、娘の成長を喜ぶ。父の喜ぶ姿に罪悪感を感じ、エイダは俯く。


「えっと……持って行ってないの……」


ポツリと告白する。エイダはやっていない事で褒められるのは我慢できない、素直な子なのだ。


「……」


周りがまたフリーズする。


「まあ、寒さで足が遅かったとか?」

「お腹空いてて、力が出なかったとか?」

「そ、そんなこともあるのかな?」


「ははは、まあ何にせよ、無事で良かった。さぁ、帰ろうか?」


父は笑いながら、エイダ肩に乗せる。


「まっ、待って」


エイダは慌てて、父の肩から降りる。


放り投げて、若干存在を忘れかけてた魔導書を、小走りで取りにいく。そして両親の元に戻り、本を後ろに持ちモジモジしながら話し始める。


「森の中で、魔導書を見つけたの」


「それで?」


母は娘をじーっと見ながら、続きを促す。


「これ家に持って帰っても良い?」


「何で?」


母は続きを、更に促す。


「魔導書、私欲しかったから、これを使おうかなって」


母はしばらく無言で魔導書を見ていた。


「見せて?」


エイダはオドオドと魔導書を渡す。


「かなり古いわね」


受け取った魔導書を、様々な角度から観察する。


「魔法石が壊れてるみたいね?それに中身が1ページだけ?それに何も書かれてない?」


「ねぇ、いいでしょう?」


エイダは母の顔を覗き込みながら聞く。


「そうね。前から魔導書、欲しい欲しいって言ってたわよね」


母は娘に微笑む。


「うん」


「座学頑張ってるし、そろそろ本格的に魔法の訓練に入っても良いかもしれないわね」


「うんうん」


エイダが嬉しそうに頭を振る。


「わかったわ。じゃあこれは森に棄てて来なさい」


「えっ?」


エイダの動きが止まる。


「私の魔導書を一冊あげるから、それを使いなさい」


「え〜っと」


「こんな得体の知れない、壊れてるガラクタより良いわよ?」


「わ、わたし、これで良いかなって?」


「何で?前から私の魔導書が欲しいって言ってたわよね?」


「う、うん」


「じゃあ願ったり、叶ったりじゃないの」


「えっと」


エイダの目が泳ぐ。良い言い訳が思いつかない。


「お、お母さんのお下がりじゃなく、私のが欲しいな〜」


「これも『誰か知れない人』のお下がりだと思うわよ?」


「うっ。けど……」


困っている娘に、父が助け舟を出す。


「まあ、エイダがこれを欲しいと言ってるし、良いじゃないか。壊れてる箇所は直せば良いし、新しいページも追加できるし」


「わかったわ。あなたがそう言うのなら。勿論、修理費はあなた持ちね」


エイダの表情が明るくなる。逆に父は表情は引きつった。


「やった〜」


喜ぶ娘を横に、母は魔導書に手を置き、呪文らしきものを唱える。


「……起動しないわね。壊れてるんじゃないの?本当にこれで良いの?」


魔導書を娘に返しながら尋ねる。


「良いの!」


無事戻ってきた魔導書を、エイダは胸に抱きしめる。


「話も無事終わったし、帰ろうか?」


父は帰宅を促す。


「私、お腹空いちゃった」


「晩御飯は、エイダの好きなシチューよ。」


「やった〜」


「温め直してる間に、お風呂入っておきなさい」


「は〜い」


無事にいつもの日常に戻れ、エイダは幸せを噛み締めた。

挿絵(By みてみん)

登場人物


エイダ・ラブレス

挿絵(By みてみん)

冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。

素直で良い子。


喋る魔導書

挿絵(By みてみん)

エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。

エイダ母に「ガラクタ」呼ばわりされる。


エイダの母

挿絵(By みてみん)

エイダの優しいお母さん。魔導師の冒険者。

時々怖い。


エイダの父

エイダの強いお父さん。剣士の冒険者。

楽観主義で優しい。


作者より


無事に家に帰ることができました。次の「魔導書視点」が終わればやっと、本格的に入門編には入れます。


参考にしたページ


蜘蛛は冬眠をしない?蜘蛛の冬の過ごし方について

http://spider-lobo.com/archives/572

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