入門編『ハイパーテキスト』
「文書が別の文書に、お互いに繋がりあってたらどうなると思う?」
魔導書は少し興奮気味に答えを発表するが、エイダには全く響かないようだ。
「う〜ん? それって凄いの?」
「え? 凄くない? 繋がるんだよ? 文書というか情報が」
エイダの反応に、魔導書も若干困惑気味だ。しばらく沈黙が空間を支配する。そんな微妙な空気を魔導書が破る。
「わかった。繋がりの凄さを『例』で説明しょう」
「ん、期待してる」
エイダは枕に抱きつきながら、聞くのに集中する。
「エイダが凄い魔導士になり、魔術の本を書いたとしよう。本には沢山の便利な術式が記述されている」
「うんうん」
魔導師になった自分を想像して嬉しそうに頷くエイダ。
「ただこの本は術式の事だけしか書かれていない。読んでいる人はもしかしたら、エイダの人柄や両親の事、住んだいた場所なども知りたいかもしれない。どうしたらいいと思う?」
魔導書の質問にエイダは普通に答える。
「私を知っている人に聞く?」
「うん、確かにそうだ。けど数百年経っていて、エイダの事を知っている人はもういない。しかし歴史家が書いた『偉大な魔導師エイダ』の歴史書が国立図書館に残っている事にする」
「わたしの事を知りたい人は、国立図書館に行って読めばいいの?」
「そう。その本を読めば、エイダはとても素直で賢い子だったとわかる」
魔導書の率直な褒め言葉に、エイダは少し恥ずかしそうに枕に顔を埋め、足を少しバタバタ動かす。魔導書は続ける。
「図書館にはエイダが育った地域の歴史、植物や動物の分布、気候、習慣、エイダの両親や友人等が記載されている書物なども沢山残っている。先程と同じ事をもう一度言うが、もしこれらの関連した情報が、お互いに繋がっていたらどうなると思う?」
「情報が探しやすくなるし、どんどん大きくなる?」
「そう、その通り」
魔導書は嬉しそうに説明を続ける。
「今までは本の枠で区切られていた情報が、次々に繋がっていき一つの巨大な情報ネットワークを形成する。人間の知識や経験が全て集約されていくんだ。凄いと思わないか? これが『ハイパーテキスト』だ!」
「う〜ん?」
エイダは魔導書が言いたい事は理解できたが、凄さの実感が湧かない。まだ説明が足りないのだろうと、魔導書はさらに続ける。
「私が住んでいた地球では、文字だけではなく、画像、映像、音楽など色々な情報が繋がっていた。その『インターネット』と言う巨大なネットワークを、人々は誰でも自由に使えたんだ」
「インターネット……?」
「『ウェッブ』とも言われてたな。ウェッブはクモの巣のイメージから、『インターネット』は網が沢山繋がっているイメージからだと思う」
「ウェッブ……?」
エイダも長い説明に疲れたのか、新しい単語を繰り返すだけになっている。魔導書もエイダが醸し出す雰囲気を察し、エイダにも実感しやすい例を出す。
「遠い場所の友達にも、瞬時に手紙も送れたんだぞ」
「それは凄いかも」
エイダはガバッと顔を上げる。王都のアカデミーに行った友達を思い出したのだろう。
「文字だけではなく、映像も声も送れるんだ。『元気?』て手を振ったりとかして」
「凄い、凄い」
エイダは枕を抱きながら、ゴロゴロ転がる。
「良いな。私もその『インターネット』使いたいな」
「確か魔導書を通じてなら、こちらでも手紙は送れたと思ったんだが。今はどうなんだろう?」
「えっ?」
エイダはガバッと起き上がり、魔導書を持ち上げ質問する。
「友達が魔導書を持っていれば、手紙送れるの?」
「そうなんだが…… 済まない、エイダ。通信の魔石も壊れているんだ。何も出来ない」
エイダはガックリとベッドに横たわる。期待した分、ガッカリ度は大きくなる。
「それに確か魔石はかなり高価な物だから、その友達も持っていないと思うぞ」
「ん、そうだよね」
魔導書のフォローに、エイダはやる気がなさそうに応じる。
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは『ハイパーテキスト』を理解した。
『web知識』スキルがLV1になった。
やる気が1減った。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
村の友達がいなくて少し寂しい。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV4』『構文 LV1』『文字列 LV1』『コメント LV1』『算術演算子 LV1』『文字列演算子 LV2』『変数 LV2』『代入演算子 LV1』『オブジェクト指向 LV1』『イベント処理 lv1』『デカルト座標系 LV1』『力学 LV2』『web知識 LV1 new』
関数:『alert()』
HTMLタグ:『<script>』
イベント:『mousedown』【throw】
(【】は魔法に関連し、従来のjavascriptにはない)
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
あらゆるものが壊れまくっている魔導書。
作者より
『web知識』ってスキルなのだろうか? どう発展するのか、作者にも疑問。
『ハイパーテキスト』の説明が終わった。次は『マークアップ言語』か……。




