入門編『帰宅』
エイダが家に着く頃には辺りは暗なっていた。家には明かりが灯っていた。両親はもう帰っているようだ。
「ただいま!」
エイダは元気よく玄関のドアを開ける。美味しそうなに匂いがする。靴を脱いでいると、両親が出迎える。
「お帰りエイダ、待ってたぞ」
父は笑顔で応対し、母は無言でエイダの頭から足のつま先まで確認する。エイダの手を取りながら、母は尋ねる。
「お帰りエイダ。擦り傷があるけど、どうしたの?」
「えっと、転んじゃって」
エイダは内心ドキドキしながら答える。なるべく目立たないように応急処置し隠していたが、母には通じないようだ。
「随分派手に転んだのね。エイダのお気に入りの服が、至る所汚れてるし、ここ破けてるわよ。木の枝に引っ掛けたのかしら?」
母は破けてる箇所をエイダに見せる。しどろもどろしているエイダをよそに、母は続ける。
「ここに葉っぱが付いてるわ。あら、これは崖の上辺りに生息している木の葉っぱね。随分上の方まで行ってたのね?」
「景色が綺麗だったのでつい」
エイダは目を泳がしながら答える。母はエイダの服をめくり、傷の確認をする。
「これは打撲の痕ね。硬い岩などにぶつかったのかしら?ここにも擦り傷が。スカートには樹皮のカケラが付いてるわ。木の枝に随分座っていたようね」
「えっと。木に登ってサンドウイッチ食べたの。楽しかったの。大人しくしてたの」
エイダは必死に言い訳をする。父はいつもの光景なのか、若干諦め気味に、温かく母娘のやり取りを見守っている。
「そう。崖から飛び降りたりとかよじ登ったりとか、危ないバカな事はしてないのね?」
エイダは口をパクパクするが声が出ない。魔導書も若干震えているような気がする。なんとか振り絞って「うん」と答える。そんなエイダを母は優しい目で見つめる。
「晩御飯が準備できてるから、着替えて食卓に来なさい。早く一緒に食べましょう」
「うん、わかった」
緊張感から解放され、エイダは小走りで自分の部屋に向かう。そんな娘を、父と母は優しいく、そして少し寂しそうに見送る。
エイダは部屋着に素早く着替える。そして魔導書は部屋に置いて食卓に向かう。エイダは魔導書に一緒に来る?と尋ねたが、家族団欒を邪魔したくないと断っていた。
「唐揚げだ!」
食卓には唐揚げが山の様に積まれていた。
「ジャイアントスパイダーを詮索中に、森鳥に出くわしたのでついでに狩っておいた」
エイダ父は自慢げに報告する。
エイダは唐揚げ、カレー、パスタ等が大好物だ。これらの食文化は1000年以上前、魔導書グリモワールにより発案され、英雄ヴェクトールによって広まったとされている。その他にも衣服や習慣、様々な物がグリモワールにより考案され、人々に恩恵をもたらした。彼らの功績により、文化レベルが爆発的に改善した。グリモワールが「賢者」と呼ばれる所以である。
エイダ父はムシャムシャ食べながら、話を続ける。
「詮索中、ジャイアントスパイダーに何匹か出くわした。勿論細切れにしておいた。しかし、この時期に活動しているのは少し異常だ。何か森で起きているのかもしれない」
父はフォークに唐揚げを刺しながら身振り手振りで説明する。そんな父を母は「お行儀悪いわよ」と伝えるようにジト目で見つめている。エイダ母の目線に気付き、気まずそうに目をそらす。
「何かに追われているような、逃げるような感じだった。巣を何者かによって追い出されたか?まさか魔物が現れたとか?こんな辺境な地に?」
父はブツブツと考え込む。
「なんにせよ、もうすぐ雪が降り、寒い冬になる。生物の活動が極端に少なくなり、巣に閉じこもっているだろう。本格的な詮索は春になってからだな」
父は食べ物を頬張りながらも、何の問題のもなく会話を続けられる。器用な人である。
「そうそう。河原に粉砕され粉々になったジャイアントスパイダーの死骸を見つけたんだ。食べられた後がなかったし、森の生き物が仕留めた感じでなかなったな。エイダ、何か知らないか?」
エイダは素知らぬ顔で受け応える。父の追求には余裕を持って答えられる。
「うん、知らないよ」
エイダ父は追及もせずに「そうか」と応える。エイダ母は、そんな父娘のやり取りを口を挟まずに、静かに夕食を食べている。エイダは思い出したように、父に話しかける。
「そうだ、お父さん。今度街に行くのはいつ?」
「冬に備えて買う物がいくつかあるから、雪が降り始める前には行きたいな」
エイダは上目遣いでお願いポーズを取る。
「お土産は『魔導書の紙』でお願い!」
エイダ父は咳込む。若干顔が青くなっている。
「魔導書の紙か。はは、いくらするんだろう」
エイダ母は助け舟を出す。
「何も書かれていない紙でいいの?」
エイダは魔導書の言ったことを思い出し答える。
「うん、白紙の方がいいかも。自分で書く」
「なら、少しは安く手に入るわよ、あなた」
エイダ父は、助け舟ではない追い打ちに、観念し諦める。
「1枚でいいか? それ以上は無理だ」
「うん。お父さん、大好き!」
エイダはニコニコ顔で唐揚げを頰張る。エイダ父は食欲がなくなったのか、先ほどとは打って変わって手が動かなくなってしまった。エイダ母は静かに食事を続けた。
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは嘘をつくが、両親には効いていない。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
感情がモロに顔に出ちゃうタイプ。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV4』『構文 LV1』『文字列 LV1』『コメント LV1』『算術演算子 LV1』『文字列演算子 LV2』『変数 LV2』『代入演算子 LV1』『オブジェクト指向 LV1』『イベント処理 lv1』『デカルト座標系 LV1』『力学 LV2』
関数:『alert()』
HTMLタグ:『<script>』
イベント:『mousedown』【throw】
(【】は魔法に関連し、従来のjavascriptにはない)
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
家族の団欒を邪魔をしたくない。
けっしてエイダ母が怖いわけではない。
作者より
ペンタブレットいいですね。軽く1〜2分塗ってみましたが、悪くない感じです。
これで挿絵などを充実できれば、もう少し読んでくれる人が増えるかな?
ブックマークが減ると、若干凹みますね。更新を怠っていた自分が悪いので仕方がないのですが。新しい読者を獲得しないといけないのですが、最初の魔導書視点が鬼門らしく、なかなか増えません。もう少し読者に優しくした方がいいのかな?と思考中です。魔導書視点を一掃無くしてしまうのも一つの手かも。