入門編『脱出』
それからしばらく、エイダと魔導書は木の上で色々な事を雑談した。村にいた友達が学園に行ってしまい、最近村に遊び相手がいなくてつまらない事。昔は鉱山で村は栄えていたが、掘り尽くされ過疎化してしまって人が少なくなってしまった事。時々魔導書は上の空の時もあったが、嫌がらずに聞いていた。エイダのお尻が枝で痛くなってきた頃、魔導書はエイダに問いかけてきた。
「魔力もだいぶ溜まったし、そろそろここから脱出しよう。降りるのと登るのと、どちらがいい?」
「下に降りると村までキツイ坂道で大変だし、サンドウィッチを入れてたバッグ置いたままだから、取りに行きたい。上の方がいい」
「わかった」と魔導書は言い、エイダに脱出方法を説明する。
「私が加速の術式で、あたかも崖壁に向かって重力が働いているよう制御する。私が合図したら崖壁を垂直に駆け上がれ。そして崖の頂上に到着したら、崖の内側に降りてから私に合図してくれ。そのタイミングで重力を元に戻す」
「うん」とエイダは頷く。魔導書は確認する。
「10秒で行けそうか? 一応15秒は術式を使える余裕は持っている。無理そうならここに戻って、また魔力を回復してからトライしよう」
「大丈夫。わたし結構走るの速いよ」
「あぁ、期待してるぞ。ちなみに壁方向の加速度は、普段エイダが感じている重力と同じ値にする。いつも通りの感覚で通り走れるはずだ」
「1/6重力は駄目?」
「確かに魔力消費も抑えられるし、先程のエイダの動きなら問題ないとは思うんだが、まぁ念の為だ。それに急停止する練習はしてなかったように見受けられたが? 重力が少ないと摩擦が減りスリップしやすくなる。思った所で止まれない可能性もある。また着地失敗して、崖の向こう側へジャンプしてもらっても困る。今回は危険を取るのは止めよう」
この危機的状態に陥った原因を思い出し、エイダは渋々了承する。
「頂上に着いたら体を崖の内側に降ろし、崖に手でぶら下がるのをお勧めする。ジャンプして飛び降りたら私が重力を元に戻すまでの間、横に向かって自由落下することになり怪我をする可能性が高くなる」
「は〜い」
魔導書は念には念にと、さらに安全策を取る。
「術式が思った通りに起動するか、0.5秒ほど軽く起動する。切り替えに備えて崖に体を預けて、木の枝もしっかり握っといてくれ。ちゃんと重力の方向が崖に向かっているか、確認してくれないか?」
「ん、わかった」
エイダが準備を整えたのを確認し、魔導書は試験運転を開始する。
「それでは起動する。3…… 2…… 1…… 0!」
下に向かっていたエイダの体の重さが、崖に預けていた背中に移動したのを感じた。そして0.5秒後に術式が解け、またいつもの重力の感覚に戻った。
「体の重さをちゃんと背中で感じたよ。大丈夫そう」
「よし。では本番に移ろう。準備はいいか?」
「ん」
エイダも頷き、覚悟を決める。緊張し、唾を飲み込む。
「それでは、カウントを始める。100…… 99……」
「それ長すぎる!」
エイダは透かさずにツッコミを入れる。多分これ、魔導書のボケだ。
「そうか。では3から始める」
「それでいいと思う」
エイダは今のやりとりで、少しリラックスしたのに気付いた。思ったより緊張していたようだ。
「3…… 2…… 1…… 0!」
エイダは先程と同じように体の重さが背中に移動したのを確認すると、くるりと横回転し腕の力を使い立ち上がる。絶壁の崖に横に立つという変な感覚に、足が一瞬怯んだがすぐに駆け出した。空に浮かんだ雲を前方に見ながら、崖を垂直に走っていく。2〜3秒で崖の頂上に着き、滑ることもなく止まれた。そして崖の端にちょこんと座り、足を下ろす。体を半回転し、お腹で体を支えながら、少しずつ体を下ろしていく。最後は一気に体を下ろし、手でぶら下がった状態になる。そして魔導書に合図をする。
「もういいよ!」
「OK!」
魔導書の声と共に重力が下方向に戻る。地面に押し付けられる感覚をうつ伏せの状態で感じながら、エイダは安堵の息を漏らす。そして仰向けになり、空をしばらくボーと見ていた。
「空が上にある」
そんな当たり前の事を呟くエイダに、魔導書は声をかける。
「エイダ、お疲れ様。よく頑張ったな」
「本当に疲れた〜。もう何もしたくない〜。やだ〜」
駄々をこねるエイダに、魔導書は付き合った。
「そうだな。しばらくは地面が下にある感覚を楽しむのもいいか」
エイダと魔導書はゴロゴロ寝っ転がりながら、しばらく他愛のない会話で時間を過ごした。
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは疲れた。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
プレッシャーを跳ね返す女の子。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV4』『構文 LV1』『文字列 LV1』『コメント LV1』『算術演算子 LV1』『文字列演算子 LV2』『変数 LV2』『代入演算子 LV1』『オブジェクト指向 LV1』『イベント処理 lv1』『デカルト座標系 LV1』『力学 LV2』
関数:『alert()』
HTMLタグ:『<script>』
イベント:『mousedown』【throw】
(【】は魔法に関連し、従来のjavascriptにはない)
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
ちゃんと降りる方法も考えていた。
作者より
2000文字を超えたら投稿してもよいと自分に課してるのですが、今回は200文字程少ないです。もう時間も遅いし、諦めて投稿しました。後日加筆しようかな?
しかしモンスターとさえ戦っていないのに、何でこんな危機的状況に陥っているんだろうか? こんな体たらくで、主人公大丈夫なんだろうか?