入門編『加速度』
「小石が浮かんでるよ?」
エイダが魔導書に、今起きている事を説明する。
「あぁ。見えないが、多分浮かんでるはずだ」
エイダが不思議そうに首を傾け尋ねる。
「『加速度』の話なのに、小石は加速していないよ?」
「いや、ちゃんと『加速』は加えている。『反対』にだがな」
「『反対』にって、どう言う事?」
「まぁ一旦、小石を元の状態に戻そう」
魔導書がそう言うと、小石はコトリと地面に落ちた。
「あ、落ちた」
エイダの当たり前の解説に、魔導書は微笑ましく思った。
「では質問。なぜ小石は地面に落ちたんだと思う?」
「えっと、確か…。お母さんは『重力?』とか何とか言ってたと思う」
「そう『重力』だ」
そこまでエイダ母は教えているのかと、感心するように魔導書はエイダに答える。
「『重力』の説明をする前に、エイダもう一度小石を持ってもらえないか?」
「ん」
エイダが小石を手に取ると、魔導書のページに数値が9つ表示された。下の6つの値は、小石を持ち上げ終わると、忙しなく動いていた値は0に収束していった。
x=4002638.222121 m
y=3358611.913304 m
z=3658634.233306 m
vx=0.000 m/s
vy=-0.000 m/s
vz=0.000 m/s
ax=0.000 m/s²
ay=-0.000 m/s²
az=0.000 m/s²
エイダはページを見て、今までの復習も兼ねて9つの数を自ら説明する。
「最初の三つが『位置』。真ん中の三つが『速度』。最後の三つは『加速度』、かな?」
「そう、三次元空間での加速度の『強さ』と『方向』だ。どんな時に加速度の値が動くか、実験してごらん。そして結果を私に報告してくれないか?」
「うん」
エイダは強く頷き、楽しそうに小石を振り回したりし始めた。魔導書はエイダの試行錯誤の声を聞きながら、静かに待った。数分後また息を切らしながら、エイダは魔導書に報告した。
「止まっている時は、加速度は0」
「うむ、そうだな。全く動いていないから速度は0のままだ」
魔導書はエイダの報告に頷く。
「一番不思議だったのは、小石をこんな風に『つーーーー』と動したら、加速度が0になるの。動いているのに」
エイダは小石を一定の速度で直線に動かした。魔導書はエイダに質問する。
「速度の値はどのように変化してる?」
「小さく変化するけど、速度の値はずっと同じ値」
魔導書は質問をかぶせる。
「速度に変化がないという事は?」
エイダはちょっと納得しがたいが答える。
「加速度は0」
「そういう事」
エイダは教わった事を小石を動かしながら確認する。しばらくすると魔道書はエイダに尋ねた。
「他にわかった事は?」
「急に動かしたり、止まったりすると、加速度がビュンって跳ねる。これは速度が急に変化するから?」
エイダは力一杯、小石を動かしたり止めたりを繰り返す。動き回るエイダに、魔道書は「その通り」と返す。エイダは思い出したように、もう一つ報告する。
「上に力一杯放り投げると、小石が地面に落ちるまでず〜っと加速度が同じままなの」
父親から教えてもらった投擲スキルを存分に使い、エイダは小石を天高く投げる。エイダの言う通り、手から離れた瞬間から地面に落ちるまで、確かに加速度はある値で固定された。
ax=-6.149567342 m/s2
ay=-5.160099688 m/s2
az=-5.621049076 m/s2
「これって何?」
エイダの問いに、『やっと本題に戻れた』という感じで嬉しそうに魔道書は答える。
「これが『重力』」
「えっと?」
エイダは困惑の声を上げ、魔道書に説明を求める。
「『重力』は地球上の物体を常に、地球の中心へ加速させている。ページに表示されているのが、『重力』の加速度の値。値は9.80665 m/s2で、これはまぁ一定と考えていい」
エイダはまだ困惑している。エイダは一番疑問に思ったことを質問する。
「常に加速してるんだったら、何で上に放り投げた時しか出てこないの? 地面に置いてある時とか、わたしが手に持ってる時は、加速度の値は0だよ?」
エイダは小石を拾って手の平に置く。ページに表示されている加速度を調べるが、やはり0になっている。
「それはエイダが小石を支えることにより、上方向に同じ量の加速度が加えられ、重力の影響を打ち消し0にしているからだ」
「打ち消す?」
「エイダや小石や全ての物には、常に重力がかかっている。しかし地面がエイダ達を支える事により、重力を打ち消し加速度は0になる。しかし投げたり、高い所からジャンプしたりして地面からの支えがなくなると、今まで打ち消されていた重力が表に出てきて、下に引っ張られ、加速度の値がページに表示されるという事」
「う〜ん」
エイダは困った様な声を出す。そんなエイダに魔導書は、笑いながらフォローする。
「いっぺんに理解しなくても大丈夫。少しずつ覚えていけばいいから」
「ん、わかった」
念のため魔導書は意地悪っぽく、どのくらい理解したかエイダに質問する。
「先程の小石が浮かぶカラクリは理解できたかな?」
「えっと。重力の反対方向に魔術で加速度を加えて、打ち消してたから止まってた?」
魔導書はほぅと感心し「その通り」と答える。そしてまた質問する。
「では、エイダにその魔術をかけるとどうなると思う?」
「えっ?」とエイダは一瞬驚くが。頭で色々と思考する内に、徐々に口元がにやけていく。そして魔導書の質問に満点の笑顔で答える。
「空を飛べる!」
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは『加速度』を理解した。
『力学』スキルがLV2になった。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
体験学習大好き。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV4』『構文 LV1』『文字列 LV1』『コメント LV1』『算術演算子 LV1』『文字列演算子 LV2』『変数 LV2』『代入演算子 LV1』『オブジェクト指向 LV1』『イベント処理 lv1』『デカルト座標系 LV1』『力学 LV2 up』
関数:『alert()』
HTMLタグ:『<script>』
イベント:『mousedown』【throw】
(【】は魔法に関連し、従来のjavascriptにはない)
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
作者より
相変わらずストックが全くない状態で書いています。平日は2000文字以上書いてから投稿しようと心に決めているので、投稿時間がまちまちになってしまいます。週末に書いてストックしたいのですが、家族サービスとか色々あって無理です。兎に角、書く『速度』が上がればこの状態から抜け出せるとは思うのですが。もっと精進しないと。毎日沢山書いて、書く『加速度』の値を大きくしていきたいですね。うん、うまく絡ませられない。
参考にしたページ
スマートフォンの加速度センサについて
https://blog.smartdrive.co.jp/スマートフォンの加速度センサについて-b548607cc5ad