入門編『速度』
「まぁ一先ず『三次元空間』は置いておいて、『速度』の説明に入ろう。エイダ、また小石を拾ってもらえるかな?」
魔導書はエイダに指示する。エイダが小石を拾うと、魔導書のページに数値が六つ現れた。
x=4002637.522113 m
y=3358612.210314 m
z=3658635.512306 m
vx=0.000 m/s
vy=-0.000 m/s
vz=0.000 m/s
エイダが小石をジッと動かさないでいると『vx』『vy』『vz』の値が0になり、動かすと値が変化する。魔導書は説明する。
「『vx』『vy』『vz』が小石の三次元での速度と方向を表している。『x』か『y』か『z』と同じ軸で動かせば、一つの値だけが動くはずだ」
エイダは小石を左右に少し傾けて振ったり、自分の向きを変えて振ったり、試行錯誤を繰り返した。しばらくするとエイダが声をあげた。
「あっ、この向きで、この角度だと『vz』しか動かない」
エイダが小石を一定の角度で直線的に前後させると、『vz』の値がプラスマイナスと大きく変動したが、『vx』と『vy』はほぼ0に近い値だった。
「お、z軸を見つけたようだな。それを元にして、x軸とy軸も探してごらん」
エイダは「あーでもない」「こーでもない」と、楽しそうに石を振り回した。魔導書は邪魔をしないように、静かに見守った。
「魔導書さん、これが『vz』しか動かなくて、こっちが『vy』。最後にこれが『vx』しか動かない。全部見つけたよ。けど、なんか全部斜めだね」
エイダは石を動かし実演し、報告する。
「早いな。さすがエイダだ。動かしてて何か気が付いた事はあるか?」
「えっとね。早く動かすと、数字が大きくなって、遅く動かすと数字が小さくなる」
エイダは小石をゆっくり動かし実演する。
「他には?」
魔導書はさらに答えを促す。
「例えば『vz』だけど、こっちへ行く時は『プラス(+)の数』で、帰る時は『マイナス(ー)の数』になる」
エイダは一番最初に見つけたz軸で実演する。z軸上で左に振ると『vz』がプラスになり、右に振るとP『vz』がマイナスになった。
「おっ、なかなか良い所に気付いたな」
「何でプラスになったりマイナスになったりするの?」
エイダの質問に魔導書は答える。
「行きと帰りで速度の向きが逆方向になる為、プラスがマイナスになり、マイナスがプラスになる。同じスピードで前後させたら、ほとんど同じ値で交互にプラスとマイナスになるはず」
「あっ本当だ」
エイダは変化する『vz』の数値を見て納得する。魔導書はここぞとばかりに質問する。
「もし小石の速度が(vx=12,vy=-5,vz=20)だったら、反対の速度は何になると思う?」
「えっと?」
エイダは返答に困った。それを見て魔導書は質問を変えた。
「もし速度がx軸だけで(vx=12,vy=0,vz=0)だったら?」
「xの方向に12行ってるから、反対は−12の(vx=-12,vy=0,vz=0)かな?プラスをマイナスにすれば良いから」
「正解。ではy軸の(vx=0,vy=-5,vz=0)は?」
「マイナスをプラスにすればいいから(vx=0,vy=5,vz=0)」
「正解。では(vx=0,vy=0,vz=20)は?」
「(vx=0,vy=0,vz=-20)?」
「正解。最初の質問に戻るが、(vx=12,vy=-5,vz=20)の場合はどうなると思う?」
エイダは落ち着いて質問に取り組んだ。なぜ魔導書は3つの簡単な質問に分けたのか?
「えっともしかして、『vx』『vy』『vz』を全部プラスマイナス変えれば良いのかな?だったら(vx=-12,vy=5,vz=-20)?」
「そうその通り。『x』『y』『z』軸上ではない角度で、石を振って確認してごらん」
エイダは言われた通り振って確認する。
「本当だ。なんか不思議。面白〜い」
石を振り回してはしゃいでいるエイダに、魔導書は一つ提案する。
「上に放り投げても面白いぞ。一番上の頂点で、一旦『vz』『vy』『vz』の値が全て0になるはずだ」
「本当だ。凄い。一瞬だけ0になった」
エイダは魔導書を手に持ち、石を力一杯上に放り投げたり、走ったり、振り回したり、地面に叩きつけたりリバウンドさせたり、位置や速度の変化を一通り楽しんだ。
「えらい楽しそうだな、エイダ」
エイダはハァハァと息を整えながら答える。
「石の動きを、こんな風に数で表現できるなんて思ってもみなかった」
「こんなに楽しんでもらえるとは思わなかった」
エイダは目をランランにして質問する。
「他にはないの?」
魔導書はしばらく考え、エイダに言った。
「『加速度』は後日詳しく説明しようと思ったが、エイダがあまりにも意欲的だから、もう今日全部やってしまおう」
エイダは魔導書の『加速度』の説明を思い出す。
「『速度』が変化する、どうのこうのだよね?」
「そう『加』『速度』だから、『速度を加える』。これを覚えておけば、かなり楽しいことができる。そうだな、エイダ。今持っている小石を、ゆっくりと手離してごらん?」
「ん、わかった」
エイダはそう言って、小石から手を離した。地面に落ちると思われた小石は、空中に静止し浮かんでいた。
「えっ?」
エイダは目を見開いて、ありえない現象をつぶさに見つめた。
ーーーーーーーー ログ ーーーーーーーーーー
エイダは『速度』を理解した。
『力学』スキルがLV1になった。
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登場人物
エイダ・ラブレス
冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。
体験学習大好き。座学嫌い。
職業:術者 LV1
称号:初心者
スキル:『関数 LV4』『構文 LV1』『文字列 LV1』『コメント LV1』『算術演算子 LV1』『文字列演算子 LV2』『変数 LV2』『代入演算子 LV1』『オブジェクト指向 LV1』『イベント処理 lv1』『デカルト座標系 LV1』『力学 LV1 new』
関数:『alert()』
HTMLタグ:『<script>』
イベント:『mousedown』【throw】
(【】は魔法に関連し、従来のjavascriptにはない)
喋る魔導書
エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。
授業を体験学習にシフトし、手応えを感じた様。
作者より
毎回間違った事を書いていないか、ヒヤヒヤしながら書いています。説明の間違い、誤字脱字があったら是非、いまだ何も書かれていない『感想ページ』にてお教え下さい。また説明を読んでもわからない所を教えてもらえると、説明のどの部分を掘り下げれば良いのかわかるので助かります。
算数の『プラス』『マイナス』は、中学校で習うみたいですね。エイダが普通に使いこなしているので、若干どうしようか迷いました。今更プラスとマイナスの説明から入るのも面倒臭いし。まぁエイダ母がみっちり教えていると言う事で。便利なお母さんです。
参考にしたページ
正の数・負の数の計算
http://ronri2.web.fc2.com/sansu/sefu.html