表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔法はJavaScriptで起動する  作者: あきらメル
第1章 Hello World!
1/30

初めての魔法

「ハァ、ハァ」


 エイダは森の中を全力で走っていた。


 彼女は村近くの森で薬草採取していたところ、運悪く複数の虫と遭遇した。大きさは中型犬程の肉食の蜘蛛が3匹。大人なら撃退は可能かもしれないが、まだ9歳の少女には無理であった。採取中の薬草も放り出して逃げたが、虫は飢えていたのか執拗に追いかけてきた。


 エイダは転びながらも、必死で逃げた。シルクのような肌はいくつもの引っ掻き傷ができ、綺麗な長い金髪も泥まみれになった。ある程度距離を稼いだところで息が続かなくなり、膝から崩れ落ちた。


「お母さん、お父さん」


 涙ながら呟いた。「薬草採取、一人で本当に大丈夫なの?」と両親が心配していたのを「大丈夫、私強くなってるもん」と軽く流した自分を悔いていた。


「死にたくない」


 エイダには夢があった。


 戦士の父、魔導師の母のように、自分も冒険者になる。物心ついた時から、その思いは変わらなかった。訓練してと頼んだ時も、両親は丁寧に教えてくれた。一生懸命勉強し、訓練を続けた。少しは強くなったと自負していたが、生死を前にして恐怖しか感じなかった。


 冒険者になりたかった自分が、こんな普通の森で、魔物でもない唯の虫に殺されるかもしれない。ただそれだけが悔しかった。


「誰かそこにいるのか?」


 静かな森の奥に男性の声がこだました。エイダは辺りを見回したが、誰もいない。


「こっちだ」


 声がした方向に目を凝らすと、木の根元に古びた本が半分埋まっていた。母親が持っている魔導書に似ている。


「もしかして魔導書さん?」


 エイダは恐る恐る聞いてみた。


「うむ、そうだ」


 エイダは目をパチクリした。喋る魔導書などお伽話でしか聞いたことがない。母が寝かしつける時によく話してくれた、英雄ヴェクトールと魔導書グリモワール。


 今自分の危機的状態も忘れ、魔導書に近寄り、手を伸ばし持ち上げる。


 長年雨風にさらされていたとは思えないほど魔導書は綺麗だった。がっしりとした革製の表紙に綺麗な宝石が装飾されて、これぞ魔導書という感じだ。ただ、いくつかの装飾の宝石が割れ、中身のページが一枚しかなかった。


「先程『死にたくない』と言っていたが、何かあったのか?」


 エイダは急に現実に引き戻された。


「そうだ私、虫に追われて‥」


 言い終わる前に背後から物音が聞こえ、エイダは反射的に木の後ろに隠れた。魔導書に気を取られている間に、稼いだ距離は無くなっていた。


(もしかして虫達は匂いで追ってる?)


 エイダは絶望に震えた。


(だとしたら隠れても、いずれ見つかってしまう)


 エイダはうな垂れた。ふと顔の前にある魔導書のページに、文字が次々と浮かび上がるのに気が付いた。


『私と契約すれば、君に魔法を授けられる』


『私の魔法があれば、虫共を退治するなど造作もない』


『どうする?』


「契約する」


 エイダは即断した。両親には甘い話には裏があると言い聞かされていた。契約など軽々しくするものではない。だが『どんな酷い事が起きよう』と死ぬよりはマシだ。


『ページに触れてくれ。マスター登録をする』


 エイダは祈る思いで、ページに手を置いた。


『登録完了』


 エイダは少し拍子抜けした。魔法陣が出たり、光が溢れたり、お伽話のようなカッコ良い何かを期待してたのだ。


「じゃあ、早速魔法で‥」


「マスター、本当に済まない」


 魔導書がエイダの言葉を遮った。


「マスターの魔法量では初歩の攻撃魔法も唱えられない」


「えっ?」


「とにかく今はこの場を離脱する事を提案する」


「えっ?」


「思い切って契約したのに、さっきと変わらないじゃない〜!」


 エイダは泣き叫びながら、逃亡を再開した。


「fireは最低でもMP4必要だから、MP3ではちょっと無理だな」


「どうするのよ〜。魔法でチョチョイのチョイじゃなかったの!?」


 エイダは走りながら、魔導書に恨みがましく言った


「しばらく走ってくれ。代案を考える」


 虫は相変わらず追ってくる。少しは休んだとは言えスタミナが全回復するわけもなく、数分でエイダは走れなくなった。


「ハァハァ。も、もう、無理」


 限界まで走り、エイダはフラフラと止まった。森を抜け、河原の近くまで来ていた。


「マスター、投擲とうてきはできるか?」


「とうてき?」


「手で物を投げる事だ」


「できる。お父さんに教えてもらった」


「良し。この計画で行こう。ここら辺に投げられる石はあるか?」


 エイダが辺りを見回すと、河原特有の丸い石がゴロゴロしていた。


「ある。沢山ある」


「良し。それを投げて虫に殲滅する」


「えっ、えっ?」


「それで駄目なら、川に飛び込め」


 虫はそこまで迫っていた。距離は約20m。後ろは川、下流には確か滝があったような。エイダはヤケクソ気味に、拳大の石を一つ掴んだ。


「よし、それを投げてみろ」


 エイダは虫の一匹に向けて、石を全力で投げた。投げた瞬間、石に小さな魔法陣が展開した。そして石は恐ろしい程『加速』した。風を切り裂き、石は虫の頭上を越え、地面に一回バウンドし森に消えていった。森から木の破壊音が聞こえてくる。


「当たったか?」


「駄目。狙いが上に行った」


「今度は重力の影響を考えずに、直線的に投げろ。『真っ直ぐ』にだ」


「わかった」


 石を拾い、虫に向かって一直線に投げた。


 魔法陣が展開した瞬間グンッと加速し、石は虫の硬い攻殻を物ともせず虫を粉砕した。


「あ、当たった」


「あと何匹だ?」


「二匹」


「MPは充分足りる。健闘を祈る」


「ん」


 エイダは残る二匹も軽々と粉砕した。二匹の虫は仲間が殺されたのを物ともせずに近づいてきたが。エイダは冷静に1匹ずつ片付けていった。粉々になった虫の残骸を見ながら、彼女はその場に座り込んだ。もう身体を動かす気力もない。


「生きてる」


 頬には涙が流れた。エイダは父に「石を投げるなんてカッコ悪い。剣や槍を教えて」と困らせた。「何があるか分からない。武器がない場合もある」と諭され、嫌々ながら訓練した。けどそのお陰で、今日は生き延びた。


「うぇ〜ん、お父さん…お母さん…」


 エイダは堰を切ったように泣き出した。


「コッホン。あ〜、え、エイダ。よく頑張ったな」


「あ、ありがどう」


 魔導書を抱きしめ、エイダは一層泣きじゃくった。泣き止むまで魔導書は「頑張った」「偉かった」と彼女を励まし続けてくれた。


挿絵(By みてみん)

登場人物


エイダ

挿絵(By みてみん)

両親の様な冒険者に憧れている9歳の普通の女の子。

このお話の主人公。


喋る魔導書

挿絵(By みてみん)

エイダが森の奥で出会った喋る魔導書。

このお話の二人目の主人公。


作者より


小説は初めてなので、至らない点が多々あるかと思いますが宜しくお願いします。

まだ色々と試行錯誤を試みております。読みやすくする方法、小説家になろうでの決まり事、脱字誤字を教えてもらえると本当に助かります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ