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choose the best

掲載日:2017/06/03

 

 雷鳴が轟き。

 烈火のごとき炎が常にどこかで燃えていた。

 近海の海は常に外客を拒むがごとき様相を示し。

 この島だけが世界という枠組みから排除されている。

 並の生物はここで実をつけることなどまずできない。

 並の動物なら、まずこの島から出ることを考えるだろう。

 荒れ狂う嵐が毎日のように上陸しては生を奪う。

 その地を踏みしめれば、足裏はところかまわず焼ける。

 息をすれば肺を焦がす。



 そんな島、ラティルオース島での一日。




 枯れ木の賑わいしか感じることができなく。

 ここで、小動物をその目で見ることができるのは人生で数度しかない。

 日々の食卓を彩るのは一年に一度海に打ち上げられた鯨から得た僅かな食料だけ。

 もしその食料を失うことがあれば、身の少ない貝を食べるしかない。

 人類が住むことができる場所はこの島の中心にある大きな避雷針周辺でのみ。

 日々それに落ちる雷で島民は死をさらに意識する。

 島は半日で周ることができるほどの大きさだが、そんな果敢な行動をしたものは今までに誰もいない。

 誰もが傷を追い。その肌にメラニンを生成しているものはいない。

 唯一の遊び場である洞窟は嵐が来ればその意味を失う。

 したがって、子供は濁流から世界の混沌を学び、枯れ木から世の不条理を学ぶ。


 島民の誰もが思った。この島は人類が生きる場所ではないのかもしれない。

 いや、人類だけでなく生物がだ・・・。

 だが、誰もこの島から出ることはできないことも誰もが知っていた。




「たまげたわい・・・・」


 人一人を支えるには頼りなさ過ぎる杖をついた。アサリ貝ほどしかない目が、まるで熱湯であぶられたかのように見開かれた。


「渡り鳥がとまっておる・・・・、こんなことはわしの人生で始めてだ・・・・」


 渡り鳥。鳥。それはこの島では空を行くだけの、その飛行した姿だけが認識されるものだ。

 この島の外気温は常に40度を越えている。その中で外から何かが入ることなど皆無であった。

 そう、それはこの島での常識。

 だが、その常識が目の前で崩れ始めた。


 長老が見上げる枯れ木。それはこの島で一番大きく育っている木だ。

 この島では大木と呼ばれている。

 その大木に、島民中が輪を囲むように、まるでその大木にこの世の神でも宿ったかのように集まった。


 そして鳥を見るために大木を見上げていた島民の子供の一人が言う。


「そ、空が!」


 その言葉につられ、その場にいる全員が鳥から空に焦点を当てた。

 そこには、空いっぱいに青い色をしたものと、おそらくそれに乗ることができたらならさぞ気持ちいであろう白いものがあった。


「・・・・・・・」


 誰もが言葉を失う。

 雷雲しか見てこなかった空が、自分達の知っていた空が知らないものに変わっていた。

 誰もその空を表現する方法は知らない。

 ただ、出てくる言葉が


 -美しい。


 それはおそらく、島民の誰もが人生で初めて感じた感情。その言葉を初めて使った場面だ。

 島民はお互いを見合う。

 そこで、彼らはお互いの顔が今までと違うことに気が付いた。


「なんだ・・・これ・・・・」


 島民がざわつく。

 今までとは違う穏やかな顔。

 それはその顔に反射する光の角度が変わったからだ。

 つまり。周りの景色が変わった。


 一人が走りだした。

 そして、また一人が地を駆け回る。

 これまでに踏み入れることができなかった場所に誰でも足を踏み入れることができる。

 誰もがその事実に歓喜した。

 子供たちの甲高い声が喜びを表現する。

 大人でさえにやけ顔を止められない。


「島が静かになった・・・」


 島民の声が広がる中、

 長老が呟くようにいった。




 今まで立ち入ることができなかった避雷針の傍に子供が駆け寄る。


「今から上まで勝負だ!」


 子供の中のガキ大将が言った。

 皆が賛同する。


「行くぞ!!」


 大人の中にそんな子供達に対して「危ないからやめろ」という言葉を言うものはいなかった。誰もが子供達を穏やかに見ている。


「うわ。これ結構難しいぞ!」

「俺が一番だ」

「私よ!」


 子供達はあらたな世界を求めていた。

 今まで閉ざされていた好奇心の扉が今開かれた。


「俺が一番だ」


 一人の子供が頂上へと辿りついた。


「気持ちいい!」


 その子供の視界には、島が一望できる。

 今その景色は自分が独占しているんだ。

 それが何よりもうれしかった。


 子供は視界をめぐらした。


「あ!」


 その子供は、急にその景色を捨てた。

 新たな好奇心が動き出す。


「みんなついて来い!」


 その言葉に従って、子供の群れが移動した。





「この音、何?」


 子供達は、ある場所に来ていた。

 せせらぎが聞こえる。

 しかし、それは今まで聞いたことがない。

 そんな小さな音に耳を澄ませることなど今までなかった。

 一人の子供が、未知の液体に触れる。


「うわ、冷たい!」


 もう一人の子供があるものを見つける。


「なんか、中にいるぞ!」

「捕まえろー!」


 今までおそるおそる近づいていたそれに、急に飛び込んだ。

 彼らの好奇心は彼らでも止められない。


「うわ! なんだこれ!」

「俺みたことある。鯨だ!」

「鯨はこんなに小さくないでしょ!」

「じゃあ、小鯨だ!」

「多分それだよ」

「うん!」

「こんなんじゃおなかいっぱいにならないよー」


 子供達はしばらくそこではしゃいだ。

 初めてみた川でびしょぬれになるまで遊んだ。


「なあ、これってどこまで続いてるんだ?」

「行ってみるか?」

「ええ、怖いよ」

「大丈夫だ。俺について来い!」

「もうおなかへったよー」


 ガキ大将が、川を下っていく。




「うわ、逃げろ!」

「逃げられないよ! ひっついてくる!」


 川を下り終わった子供達は、白い砂浜で自分達についてくる黒い影から逃げ回っていた。


「落ち着けみんな! こいつは敵じゃねえみたいだ!」


 ガキ大将の言葉でみんなが止まった。


「あ、本とだ。攻撃してこない・・・」

「じゃこれってなんなの?」

「体から出てるから、俺達の一部ってことじゃないのか?」

「こんなものが体についてるんだ・・・、なんかおもしろいね」

「これ食べれるかな?」

「こんなんじゃおなかいっぱいにならないよー」

「ねえ、あれが外?」


 そこで、子供達は砂浜から島の外側を始めてみた。


「ねえ、何か目がへんなんだけど・・・」

「俺も」

「僕も」


 子供達の視界には、空と同じ色をしたものが自分達の空間を挟むようにして眼前に広がっていた。

 そしてそれは何か曲がっているように彼らには見えた。

 もちろん彼らにそんな経験はない。


「でもなんか、綺麗だよね」


 それはきらびやかに光輝き。

 彼らに、まるで微笑みかけるようにして静かな音を立てていた。


「なあ」


 ガキ大将が、振り向いた。


「わかるよな?」


 全員が無言で頷く。


「行くぞ!!」

「「「「「おう!!」」」」」


 全員が輝くもの。海に向かって走りだした




 気が付けば、子供達だけでなく。そこには彼らの両親。つまり大人たちも彼らの後を追ってきていた。

 そして、彼らもまた。子供のように好奇心の塊となり。

 あるときには子供より、激しく。そして純粋にその場を楽しんだ。


「最高だああああ!」

「ねえ、これだけじゃおなか減る一方だよー」

「きゃっ冷たい!」

「これが、外に続いてるのか!!」


 だが、そのとき、彼らが戦慄する出来事が起こる。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 避雷針に巨大な落雷が落ちたのだ。

 そして、雲行きが怪しくなり始める、

 それは、今までの生活を呼び起こすには十分なもので、一瞬で彼らを現実に引き戻し、そしてある思いを抱かせた。


 -島を出るなら今しかない。


 と。


「出るなら今しかないんじゃないか?」

「出るってどこを?」

「どこって島に決まってるじゃないか!」

「やめたほうがいい。それこそ傲慢ってもんだ」

「俺達は人間なんだ! 傲慢であってこそだろ?!」

「これは神から与えられた恵みなんだ。だからこのひと時を胸に生きるんだ」

「違う! これは神から与えられたチャンスなんだ! 今しかないんだ!!」

「私は行かない」

「俺は行くぞ!!」


 そのとき、島民の中で始めといっていいほどの大きな亀裂が起こった。

 このときを期に島から出るものと、島に残り。このときを胸に静かに生きることを選択するものとでだ。


 子供達に選択権はない。

 だが、子供たちはなぜか感じていた。

 自分達はここから出るべきではないと。

 それは、ただの直感だが、誰もがそう思っていたのだ。

 彼らは純粋であるがゆえに、この島を愛していた。

 不合理な島ではあるが、今までの自分達はここで生きてきたのだ。

 それを今更捨てるとは考えなかった。

 子供達が一番、島を大事に思っていた。



「出るものは俺とついてこい!!」


 あるものが先導をきった。 

 そのものに島民の三分の一ほどがついていく。

 そして、その子供達もだ。

 本来なら半数ほどの人間が島を出たかった。

 だが、彼らはその選択を取るだけの勇気はなかった。


「島を出るなら、勝手にせい」


 最後まで二つのグループは揉めたが、長老のその一言で決定的となった。

 島に残るものは、そこから避雷針の周辺の住居まで、出る者たちを見送ることはしないで戻っていった。




 島を出る決断をしたものは、それからまず自分達が乗る船の製造にはいった。

 だが、彼らは船を作ったこともなければ、見たこともない。

 つまり、何を始めればいいのかさえわからない状況だった。

 その中でも、最初に先導をきったものを中心として、彼らは自分達の船(といっても枯れ木で作った船とは到底呼べないものだが)をなんとか作りきり。海へでた。


 海が荒れ始めた。


「くそ、これでいけるのか?」

「今さらなにいってる! 頑張るしかないんだよ!」

「うわ、水が入ってきたぞ!!」

「抑えろ!!」


 船はいくばくかの問題を抱えながら、島からどんどん離れていく。

 だが、船の操縦は安定を取れない。

 ゆれる。沈む。壊れる。

 その中で、乗客の皆が必死に船を沈ませないようにしていた。

 だが、それも限界が来た。


「だめだ。もう引きかえろう!」

「やっぱりだめだったんだ」


 その声が船中で聞こえる。

 先人を切った人物も同じ考えで、彼もなんとか、島に戻ろうと行動を開始する。


 だが、おそすぎた。いや、愚かだった。


 彼らが戻ろうと思った瞬間、海は先ほどまでの荒れようから一遍、急激な激流となる。


「うわああ!」


 船の中に海水が入ってくる。

 それは下からもだ。


 もうだめだ。

 終わった。

 自分達の愚かさをここで彼らは学んだのだ。

 だが遅かった・・・。





「長老・・・・、本当によかったのですか?」


 一人のものが長老に尋ねる。


「ああ、よかったのじゃ。あやつらの選んだ道じゃ。これからの生活を考えれば、あやつらの選択のほうが幸せかもしれん」

「ですが・・・」


 その者の言葉を長老が制した。


「わかっておる。あやつらが、外の世界に辿りつくことはない。だが、もしかしたら何かの拍子で、たどり着くかもしれん。わしらはただそれをねがっておればいいのだ」


 神が、何を考えているのかはわからない。

 人間のあくなき探究心により発見されたそれは本当に良いものなのか?

 人間のただの傲慢によっての結果でしかないのではないのか。

 本当に大事にしなければならないことがあるのではないか?

 それとも、好奇心のまま突き進むか? 

 立ち止まり現状を見直し。それに感謝し、考えるのか?

 いったい何が正解なのだろう?

 いや、正解などないのかもしれない。

 人はただ。移り変わりをしながら、白か黒ではなく。灰色を演じる運命なのかもしれない。



 鳥は今日も空を飛んでいる

 今日も避雷針に雷鳴が落ちた。


お読みいただきありがとうございます!

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